「随分、寒くなったよなー」
「そうですね」

 

 初マフラー、初外套。バス停で待っている、この時間が少々辛い師走の頭。先日列島上空に大挙来襲した寒気の影響で、今日の冬木市は厳しい冷え込みになっていた。
 もしかしたら、一年で1番寒かった――と、後から評価できるかもしれない、そんな土曜日の朝十時。俺とセイバーは、あの日の約束どおり、ちょっとした遊びを兼ねた食器選びへと出かけようとしていた。


 ……いや、むしろ、食器選びを兼ねた遊び、だろうか。
 まあ、この際どちらでも構わない。


「ヴェルデにいいものがあれば良いのですが」

 本格的に、というのなら骨董屋に行ってもいいが、流石に普段使いでそこまで行く勇気も資力も生憎持ち合わせていなかった。有名生活陶器量販店でもあればいいのだが、冬木にその選択肢は無い。

 というわけで、最近更なる集客アップを図り、店舗サービスイベントその他大増強中のヴェルデが候補一番手に上がる、というわけだ。

「ヴェルデは最近よくチラシを見かけますからね」
「なんか、新オーナーが本腰入れてるらしいぞ。新しく資本が入ったんだってさ」
「ほう」

 ちなみに、その辺りの情報はネコさん系仕手筋よりのものである。若年だが笑顔が爽やかな、金髪の少年らしい。……その資本家、なんとなく知っている気がするのは、きっと気のせいだろう。

「あ、でも、チラシ忘れたな……。丁度陶器市のヤツがあったのに」
「む。そうでしたか。シロウがお持ちかと思っていましたので……」

 セイバーと顔を合わせ、苦笑する。まあ、催事の広告などどこも玄関先に大抵告知やチラシの用意があるものだし、それをあてにすればいいだろう。

「あ、来ましたよ、シロウ」
「ん。回数券もってる?」
「ええ、抜かりありません」

 えへん、と少し胸を張って見せるセイバー。そんな些細な仕草が、やっぱり可愛い。

「じゃ、行こうか」
「はい」

 エンジンの音と共に、ドアが開いた。冬木駅前ロータリー行きのバスに、二人して乗り込む。流石は土曜日とあって車内も少し混んでいるが、幸いにして「いつもの場所」は開いている。


 ――さて。
 いいお日和でもあることだし。楽しい一日にしていきましょう。


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