どこをどう歩いてきたのかも、よく覚えていない。
 気付けば公園のベンチで、呆けたように座っていた。




 虚ろな月が、優しく地上を照らしている。
 その歪な形が、己を写しているようで妙に可笑しい。……なるほど、俺はもしかすると、他人ひとから見ればあんな感じなのかもしれない。


 色んな感情を、心のなかで目の当たりにした。頭は上手く働かない。暴れるだけ暴れたそいつ等の所為で、きっと疲れ果てている。
 考えなければきっと楽。何で、何て思わなければ、きっと直ぐにどこかに行ってくれる苦悩達。そうすればきっと、俺は苦しまなくてもすむのだろう。





 だけど。
 それは、何よりも大切なものを喪うということ。





 出来る筈が無い。それだけは、永遠に棄ててはいけない俺の内側。
 共に在った幸せ、そして彼女の姿。好きだった。アイツを誰よりも愛した。そのことだけ、たったそれだけで構わないと刻み付けた、そんな想いさえ生きていれば。俺は、彼女を永遠の恋人として生きていける。


 そう思うと、少し嬉しかった。ここまで泣いた。あんなに、苦しいと思った。それは、あれから日が経っても、彼女のことを愛し続ける証左足り得る事実だろう。

 ユメは幻。確かな証の無い現実だって、あるいはユメのようなものだったのかもしれない。
 だけど、本当の自分が教えてくれる。


 決して、幻なんかじゃなく。
 無茶をしたら、叱ってくれて。
 御飯を作ったら、喜んでくれた。
 死にそうになった俺を、心配してくれた。

 互いを想い、いつか、体を重ね。
 そして―――――――











 ―――――――愛していると、言ってくれた。











 そんなことを、覚えている。最後、そう告げてくれたことが、今でも嬉しい。哀しい別れの言葉になってしまったけど。あの一言で、ずっとずっと、繋がりあえている気がするから。


 黄金の輝きが、眩しかった。それはまるで彼女の光みたいで。この色を、時間を、覚えていようと、強く心に誓った。
 俺も、愛している、と。
 返せなかった言葉を、胸の深くに仕舞い込んで。


 だから、見えたのはそんなものだったのだ。
 愛している。
 セイバーを、誰よりも、愛している。
 そう叫び続けている、衛宮士郎という男の、あの朝の姿。





「セイバー……?」





 虚空に手を伸ばして、問いかける。
 答えなど、あろうはずもない。
 だけど。なんでしょうか、シロウ、と、答えてくれるような気がして、そっと。





 ずっと想っていたこと。星を一人で眺めて、それを口にして、初めて自分が取り返しのつかないほど惚れていることを知った夜があった。
 満天の輝きに、彼女を重ねて。


 それは、今も同じ。
 手を伸ばして、声をかけて。それで、届かないことを知って、の繰り返し。


 それでも俺は、立っていなくてはならない。
 いつか、どこかで。
 来るかどうかも分からない未来に、そっと願いを託しながら。





 それが。
 きっと、去り行く彼女に誓った、生き方なのだから。



 
 
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