幸い、人影は殆ど無い。
 空には、無数にも見える星が輝いている。


 あんなにも、たくさん、目に映っているのに。
 一つとして、人の手には、届かない。




「……………ぅ」


 止まってはいけない、と。そう体が命令していた。何かから、逃げるように。鈍い足取りで、歩き続ける。
 何度もつまずき、時に、壁を支えに立ち止まった。
 ……何て無様。俺は何に怯え、何に追われて、こんな。


「…………それが…………分かって、いるから」


 こうして、逃げている。そんなこと・・・・・、認めたくないのに。  その想いを見れば見るほど、悪趣味な諦観が、襲ってきそうになる。










 もう、逢えないのだ、と。
 そう認めてしまえば、きっと、俺は―――――――











「嫌、だ」


 認めたくない。
 認めてなんか、やらない。
 目指していれば。求め続ければ、いつかは、きっと。

 星だって、この腕に掻き抱ける時が来るはずなんだ、と。

 そう信じ続けないと。
 だって、あの時、俺は。







 ……“さよなら”なんて、言わなかった。
 それが、どんな子供じみた意地の張り方だったとしても。









 涙で霞んだ夜空には、無数の星が瞬いている。





 また、会いたい。
 会えたら、どんなことを話そうか。
 そう。
 いつか、そんな日が、来るはずだから。





 そんなことを、星を見ながら頭に満たしていく。
 必死になって、傷が開いた胸を、抑えつけながら。






 
 
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