「―――――――ぁ、」











 浮上する意識に、目が覚めたのだと実感した。
 ―――――同時に、自分が泣きじゃくっていることも。




「―――、……、ぅ……」




 土蔵に一人。誰が聞いているわけでもない。
 それでも、必死になって、俺は嗚咽をこらえようとしている。




 ……もう、無駄なのに。
 そんなことをしても、はっきり見てしまった。
 「自分」が何を想い、何を願っているのかを。






 何度、誤魔化してきたか分からない。そんなもの、持っていれば気が触れていたに違いない。
 あの日――――あの時、朝焼けの草原で、全て。
 もう、未練を持つことのないように、と。
 彼女を想う心を、深く、深く、沈めてきた。

 時に、ソレが垣間見えることもあった。
 会いたい、と。そんなコトを考えたことも、幾度あったか分からない。


 ……だけど、それだけ。
 そういえば、そんなこともあった、と。
 過去を振り返るのは少しだけにして、すぐに、前を向いて来ためをそらしてきた












 ―――――――いつか。
            彼女の許に辿り着ける日があるかもしれない、と。
            そんな、ユメノヨウナリユウをつけて。











 莫迦な話だ。
 だから、こんなユメを見たのも当たり前。





「な、……んだ、…………結局」





 そう、結局は、そういうこと。
 いくら強がってみても―――――何時だって、本心では、そう叫び続けていた。





「…………俺は」





 衛宮士郎コイツは、もうとっくに壊れて、それでも尚動き続ける機械のよう。
 そんな奴が、少しだけ持っていた、本当の自分。











 そいつは、ただ単に。
 また、アイツに逢いたいって。
 帰ってきて欲しいって―――――そう、思っているだけじゃないか。













「…………は」


 何て愚か。二ヶ月前、沈めた筈の想いが、鮮明に蘇る。
 …………いや。それでもう、目を向けなくて済むなんて思った方が、大間違いだっただけのこと。
 

 かつて、願ったこと。


 手に入らないものを求めるのは、我侭だ。
 失った過去に囚われるのは、愚者の妄念。


 それを分かっていて、尚。
 今もやっぱり、追い続けている願いがある。
 

 笑っていて欲しい。何気ない日常の中で。
 そんなあいつの、横にいたい。


 いつか。
 二人が、共に見たユメ。





 ―――――――ただ、そうあってほしい、と。
           そうじゃないと嘘だって、心が叫んでいる。





 アイツが、好きだから。
 誰よりも好きな人には、幸せになってもらいたくて。
 それだけの、報いが用意されなきゃおかしいって、そう、思っている。


 だけど、それ・・を、しなかった。
 少女の夢、己が素懐、全てを振り切って、別れを選んだのは、自分自身だ。


 ―――――――だから、せめて。


 今更。自分が歩む道が、どんなものか思い知る。
 泣いて、喚いて、もがき苦しんででも。


 ―――――――我慢しないと。
            その苦痛が、己をどこに導くとしても。


 二人で貫き通した意地。
 それだけは誇りにして、生きていかなくちゃいけない。








「…………ああ」








 ―――――――なんて、痛い。








 見えない傷痕が、こんなに深かったなんて、知らなかった。
 彼女を、喪った。
 きっと、永遠に癒えぬ傷を抑えて、かつての恋人を、想い続ける。


「…………っ…………」


 支えきれない想いを抱えて、立ち上がった。
 少しでも、動きたくて。ソレで何が変わると言うのでもないのに。
 外に出て、空気を吸いたかった。
 

 きっと。
 ここには、たくさんの思い出が、残りすぎているから。
 

 さようなら、と、そう告げた夢の自分が、今更思い出された。
 共に過ごし、目覚めと共に、別れを繰り返す。


 あの時、口にすることの無かった、別離の言葉。
 その、悲しい響きに。止まらない何かが、頬を伝い続けていた。




 
 
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