珍しいこともあるものだ、と、そんなことを考えている。夢からの浮上。ここ何日か、この道でいつも哀しい思いをしてきた。今はまた、違う彩。現実に戻っていくのが、楽しみで仕方が無い。
もう、涙する夢を見る必要は無い。目を開ければ、恋焦がれた少女が其処にいるのだ、と。希望に満ちた自分を見つめているのは、何時以来だろうか……いや、もしかしたら、自分にとっては初めての経験なのかもしれない。
「ん、……」
瞼を、ゆっくりと上げた。目が慣れるのに一瞬。その視線の先に、少女の顔が、微笑んでいた。
もう鎧を纏っていない彼女を見て、あの時、別れの朝に見た姿と同じと気付く。
止まっていた自分が、衛宮士郎の時間が、また動き出していた。
「セイバー……、俺、は」
「シロウ……良かった。もう、焦らせないで下さい……」
「……あー、うん、悪い……」
意識が戻ってきて、傷の痛みもハッキリと感じられるようになっていた。。どうやらいくつかは性質が悪いらしく、正直なところ縫わないとマズイかな―――――――と、思ったのも、束の間だった。
「…………」
とても懐かしい感覚。俺は何度、コイツに助けられたか知れない。かつて、己の半身だったものが、体に触れている。
「鞘の治癒でも、もう少し時間がかかります。そのまま暫く、身を休めてください」
少しずつ、色々なところが復元されていくのが分かる。……ああ、良かった。折角逢えたっていうのに、いきなり生命の危機では格好も何もあったもんじゃない。
と。
そうやって冷静になった頭が、ちょっとずつ自分の現状を認識させてきた。
見上げるセイバーの顔、その上には星が輝いている。
位置的に考えてみよう。こんな光景が見える図で自分の頭がある。
で、体に余裕が戻ってきて気付いたのは、その下にある程よい、柔らかい、あたたかい感触。
ざっつ、とぅ、せい?
……膝、枕……!?
「―――――――!!!」
勿論のこと、セイバーとはキスもしたし、体を重ねたことだってある。
だが、それとこれとは話が別だ。妙に、なんというか、この時間、こんな場所で、こんなことしているのはどうもいや俺だって一応十代だし嬉しいんだけどそれはもう……!!
「わ、悪いセイバー!! い、今起き……る」
動転したまま身を起そうとして、更にカッコ悪い事態に陥っている自分に気付く。先ほど、セイバーが身を休めろ、と言ってくれたのに、無理に動いた結果がコレだ。半分まで持ち上げた上半身は、それ以上角度をつけることもなく、フラフラと元の木阿弥に戻ってしまっていた。
「あ……無理をなさらないで下さい、シロウ。……そ、その、私は気にしませんし。……やはり、私の膝枕では固いのでしょうか……?」
頬染めて、そんなコトを宣うセイバーさん。
……可愛い。多分、そんな仕草だけで俺なら7回くらい軽く殺せると思うよ?
「いや、断じてそれは無い。むしろ嬉しいんだけど、その、な」
「ふふ。なら、いいではありませんか。こうしていればシロウの顔を見ていられるのですし、少し聞いて頂きたいお話もありますし」
…………まあ、そう言ってくれるなら。
こんなに心地良い状況を自ら脱するのもなんである、けれども。
気恥ずかしいことに変わりはやっぱり無いわけで。取り敢えず、話を別の方向に向けてみようと、セイバーの言ってくれたことに乗っかった。というより、元々それは聞いておかなくてはならないことだったのだが。
「話、か。うん、俺も聞きたかった。何でセイバーがここに、とか、色々……」
「ええ。先ずは、その話をしなくてはならないでしょうね」
セイバーが、ここに居てくれる。何より確かな感覚があるからこそ、感謝をしたかった。二度と会えない筈のひとを、もう一度此処につれてきてくれた奇跡。セイバーは少し、思案を纏めるように目を閉じて、ゆっくりと話し始めてくれた。
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