「―――――――!」
「はああああああああ!!!!」






 台風と台風が激突したような嵐が公園に吹き荒れる。魔術師は己の全てを賭けて風刃を振るい、セイバーは其れを悉く捌いていく。


 不可視の刃が得物であることは既に伝えた。セイバーの剣も又、風王結界に拠る加護で視えるコトは無い。互いの得物、その間合と速度、技量、全てが互いにとっての未知。
 だが、そんなことは気にしていない。セイバーは絶対の自信を持って剣を振るい、魔術師も又、自らの技量に全幅の信頼を置いて攻撃を繰り出している。


 火花だけが、辛うじて互いの剣筋を目で追わせてくれた。幾重もの風の断層がセイバーを襲う。先ほどまで己に相対していた魔術師がどれほど手加減して闘っていたかを思い知り、少し唖然とした。




 ―――――そして。




 セイバーは、全くその攻撃を意に介さない。神技の剣戟にあわせるかのように、一歩づつ。
 しかし神速を以って、セイバーは魔術師への間合いを詰めていく。



「く………―――!」



 魔術師が苛立ちを見せる。恐らくは、此処が彼女の限界。無数の様に繰り出される刃はしかし、騎士王を前にして何の意味も成さなかった。


 恐らくは、直線ゆえの対応だろう。如何に魔術師が疾いとて、風の刃は振るった剣から一直線にしか出てこない。先ほど俺に見せた旋風の詠唱すら、セイバーと対していては致命的な隙。それでも、コレだけの数を全て切り抜けるとなると凡百の戦士では適うまい。


 だが、魔術師が相対するのは伝説の騎士。
 戦場に不敗を誇った、王の中の王。


 次元が違う。ロードローラーのようにゆっくりと、しかし、確実に、セイバーの間合いは彼女を巻き込もうとしている。



「……ちっ……!」



 遂に、抗しきれなくなったか。振るって襲わせていた風を魔術師が纏い、セイバーから間合いを取ろうとする。




 その刹那。
 セイバーが、不敵な笑みを浮かべた。



「それを待っていたぞ……メイガス。―――――だが、残念だったな。
 この戦場に於いて風の加護を受けるのは貴様ではない。…………この、私だ!!!!」



 魔術師が後ろに飛ぶのと同時、セイバーは地を蹴り、鞘を開放する。
 風王結界。その纏わせた風を解き放ち、魔術師が用いようとした風を強引に組み伏せ、己がモノと化す。



「な――――に!?」


 魔術師の整った顔立ちが驚愕に歪む。自分の支配下に在った筈の風の叛乱。
 彼女の退却に資する筈の風が、逆に、セイバーと彼女を引き合わせるように吹き荒れた。


 当に、想定の外。如何に優れた技量を持った魔術師とて、こうなっては退くことも出来ない。






 風も、理解したのか。
 この戦場の支配者が、誰であるのか―――――――






 尚も逃れようとする魔術師を完全に間合いに収め、セイバーはその刃を一閃させた。



「仕舞いだ、魔術師メイガス――――――!!!」
「く、―――――!!!」



 当に、全霊の一撃。甲高い音が公園に響き渡り、辛うじて合わせたものの、魔術師の持つ剣は完全に砕け散る。


 そして。
 金色の聖刃が、その姿を現していた。






 
 
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