「おや珍しい。こんな所で待ちぼうけかい? お兄さん」



 夕刻の校舎。校門で遠坂を待っていると、弓道着姿の美綴に声をかけられた。

「よ。何だ、そんなに珍しいか? 俺がここに居るの」
「だね。放課後は生徒会か、バイト直行でしょ? こんな所でヒマそうにしてる衛宮なんかあんまり見ないからね」

 言われてみれば確かにその通りだ。それにしても、遠坂と美綴にはどことなく似た雰囲気を感じる。仲も良いと言うし、何かしら通じ合うものを持っているのかもしれない。

「で、お前こそこんな所で油売ってていいのかよ。仮にも最上級生だろ。下に示しがつかないんじゃないか?」
「あー、いいのいいの。これも弓道部の為なんだからね。次代の中心は桜なんだし、ちょっと出てる間に指導を任せてあるわけ。そろそろ独り立ちして欲しいからね」

 カラカラと快濶に笑いつつ、堂々と宣う美綴綾子。……誠、後輩思いの素晴らしい先輩である。朝に桜が早出したのもその辺りに理由があるのかもしれない……てか、単に自分が面倒くさがりなのではないか、という疑念が無くはないのだが。

 と

「お待たせ衛宮くん……って、あら? 綾子も一緒?」

 タイミング良くか悪くか、遠坂が登場。
 美綴は一瞬きょとんとし、その次の瞬間にはいじわるい微笑を湛えた後、

「なーんだ衛宮。待ち人は遠坂だったのかね。……ふむ」

 なんて、思案顔。…………前言撤回、やはりタイミングはあまりよろしくない。

「こりゃ、賭けも私の負けってことか? ま、仲良きことは美しき哉。遠坂、初の恋人は衛宮と見定めたのか?」
「「はあ?」」

 そして、絶妙のハミング。……いや、俺は単に美綴発言の内容に驚いただけだが、遠坂の発音には「何莫迦なこと言ってんの」的ニュアンスがはっきり感じられて、多少ダメージが大きい。

「冗談。こんな何時死ぬか分かんないヤツ彼氏にしたら、こっちが持たないわよ」
「……何時死ぬか、ってお前」

 てか、弟子に向かって何たる言い草だ師匠様。そこまで断定的に言わなくてもいいのにな。俺だって死にたくはないんだし。

「まあまあ、テレなさんな。結構お似合いかもね、お二人さん……いやはや、衛宮、気苦労は耐えないだろうが、幸せにやってくれ」

 格好のネタゲット、とばかりに集中砲火を浴びせてくる美綴綾子。……いや、ここで反論したら自ら墓穴を掘るのと変わらんだろうし、大人しくしている他は無し、か。










「まあ、いびり殺される前に、一つ決着をつけに来てよね」

 最後、そんなことを言って美綴は去っていった。……やっぱアイツ、只者ではない。遠坂の本性を見抜いている辺り、流石の一言である。

「さて、と。行きましょうか、士郎。しっかりね」

 そう言うと、遠坂の持つ空気が変わる。生粋の魔術師としてのそれは、まだ半人前の俺には到達できない域のものだ。やはり、まだまだ修行の道は長く、険しいらしい。


 せめて、気を引き締めて。
 足手まといにならないくらいのことは、頑張ってみよう。




 
 

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