「あー……そうだ、言い忘れてたわね」



 比較的朝は早いために人はまばらだが、それでもそこかしこに知った顔は散見される。そんな、もう教室も間近という所。くるりと振り向いて、遠坂が、言った。



「指輪ありがとう、衛宮くん。嬉しかったわよ?」



 瞬間、廊下が凍った。ピキ、と。いや、むしろヒビが入った。

 少し頬を赤らめて上目遣いに、学園一の美少女が、そんなコトを。
 時代が時代なら、どんな国だって一撃で傾きそうだね、こりゃ。

 しかし、場所が場所。どう考えたって100%嫌がらせである。

「…………いや、あのな、お前こんな所で」
「あら、何赤くなってるの? ホンの冗談なんだけど?」

 その一言で、凍りついた廊下は何とか融解。辺りには、何だ冗談か遠坂さんもお茶目だなしかし横に居る彼奴だけは許さねえいつか殺る……といった空気が広がっていた。

「遠坂……頼むから、冗談でもキツイのはだな……」
「ふふ。楽しんでもらえた?」

 いじわるそうに笑いつつも、その仕草はいつもの遠坂凛そのもの。
 ……やれやれ。全く以て、お手上げだ。

「……ま、それでこそ遠坂、か」
「どういう意味かは聞かないでおいてあげるわね。
 それじゃ衛宮くん、また放課後に」



 そう告げて、優雅に自分の教室に入っていく遠坂。
 そして置き土産のその一言は、またも周りの敵意を増大させていたのだった。……謂われも無い報復には十分注意しておかないと、な……。




 
 

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