「あー………………」
「なによ。心当たりでもあるの?」
「いや、勘違いってのが何か分からないんだが、桜に渡した時に様子が変だったのは確かだったな……」
「…………はあ。…………この、朴念仁」
とりあえず、遠坂が何か呟いたのは聞かなかったことにしておこう。しかし……
「むー。一生懸命考えたつもりだったんだけど、な。いつも迷惑かけてるし、その御礼も兼ねて……」
「そういうこと考えさせたら天下一品なのにね、アンタは。……ああでも、ソレが士郎、か」
そう言うと、何かツボに嵌ったのか、遠坂はクスクス笑い出した。……いや、正直何のことだかさっぱりなのだが。
「くくく……あー、面白い。まあ、いいわ。このことはまたネタに使わせてもらうとして。
昨日のことなんだけどね、士郎」
笑うだけ笑って気が済んだのか、一転して話が元に戻される。昨日の懸案に手がかりが無いのなら、今は。
「やっぱり気になるわ。どうせこのまま待ってても一緒なんだし、放課後一緒に新都に行きましょう。士郎一人放っておくと何するかも分かんないし、丁度いいわよね」
「……相変わらず信用無いな、俺。……まあ、でも遠坂と一緒なら心強いかな。宜しく頼む」
「よろしい。殊勝な心がけよ、士郎。……これだけは忘れないで。自分のこと顧みないで動くのは、貴方の致命的な悪癖なんだから」
「………………」
言われなくても動くつもりだった、というセリフはココで封印決定である。全く、人生何処にバッドエンドが隠れているか分からない。
「ま、ソレも耳タコ、だな。何回も言われてるし、それくらい」
「分かってるわけ無いでしょ。こればっかりは多分、どんな奇跡でも治らないわ。……全く、付き合わされるこっちの身にもなってよね」
く、言い返せない……! し、しかし、そんなに言うならば俺にだって反論の術がだな……。
「…………遠坂のうっかりぐせだって」
「何か言ったかしら? 衛宮くん」
「いや! 何でもないぞ」
……無かった。そのキラースマイルは何もかもを黙らせる。
蛇に睨まれる蛙とは当にこの感覚なのだろう。……これもまた、一生付き纏う力関係なんだろうなあ……。
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