ふと。窓から差す月明かりに、気をとられた。
 そんな風景が、あの時に似ている。
 その月が、たとえ、嘘であっても。
 あの時を忘れずに居させてくれることに、感謝したくなった。






 外に出て、夜空を見上げる。

「綺麗、だな……」

 月は、正円ではない。それでも、雲ひとつない空には、美しく映える。




 蒼い騎士は、そんな夜。
 何の前触れも無く、俺の前に現れた。




 今も、忘れることは無く。
 彼女のコトが、鮮明に、思い出される。




 きっと。月の姿は、変わることはない。
 何世紀も前の、異国の話。
 彼女も、戦陣の最中で、その居城で、たった一人、月を眺めていただろうか。



 その胸に、何を抱いていたのか。今となっては、推し量る術も無い。



 気付いてあげられる臣も居ず。
 語り得る友も得ず。

 そんな彼女の支えに、一瞬でもなれたのなら、それは俺の誇りと言っていい。

 今。彼女を偲ぶ跡は、ここには、何も残っていないけれど。
 ただ、中空に浮かぶ月の、儚げな景色だけは、彼女と共有する光景ではないか、と。
 そんなことを、考えていた。






 今日は調子が悪い。こんな日は、すっぱり寝てしまうのもいいだろう。遠坂には悪いけど、見回りは明日また付き合うことにして。



「それじゃ、おやすみ」



 誰にでもなく、夜空を見上げながら、言った。


 ……いや。


 誰に向けての呟きか、そんなことは自分が一番良く知っている。


 同じ月を、見上げていただろう彼女へ。
 今はもう、その姿は見えないけれど。

 月を通して、想いが届いたら。
 それは、どれだけ素晴らしいことなのだろう。


 
 

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