「――――投影、完了」
少し遅くなった夕飯を終え、桜と藤ねえを見送った後。特に何をするでもなく、薄暗い土蔵で日課に励む。
しかし、一体コレはどうしたことだろうか。
「……やっぱ、何かおかしい、か」
複製したとある「剣」を眺めて、出てきたのはそんな呟きだった。
どうにも、投影が上手く行かない。……いや、投影以前の問題か。前提となる、精巧に創り上げるべき幻想。その過程で既に綻びは大きく、簡単なはずの、単純な剣の複製の筈なのに、いとも簡単に失敗する。出てくるものの形は確かに剣ではあるが、これでは鈍刀とも言えやしない、ただの「形」だけのもの。
原因はどうやら、集中力の欠如のようだ。イメージが大切な投影においては、根幹を成す要素。ソレが壊れている以上、元より成功するはずも無い、と、気付いたのはほんの5分ほど前だったりする。
調子さえ戻れば、一人でも見回りに行く予定だったのであるが。これでは、まるで遠坂の言ったとおりだ。……やはり、一流の魔術師ともなれば観察眼も一級品、ということなのだろう。
「――――同調、開始」
基礎の基礎。今度は、強化の魔術を試してみる。
……が、結果は無残。中身を上手く視られない以上、構造の把握に綻びが生じるのも当たり前。結局は集中できてない。
「……なんか、二ヶ月前の水準に戻ってないか……?」
思わず、苦笑いが漏れる。あの頃は回りに迷惑をかけっぱなしだった。遠坂に至っては何度あきれられたか分からない。……ま、呆れられるのも至極当然な腕だった、と言ってしまえばそれまでだけど。
コツなんか完全に掴んだと思っていたのだが、やはり調子の波ってのは侮れないらしい。自覚なんてどこにも無いが、やっぱり、見えない疲れでもたまっているのだろう。
悔しいが、今回は遠坂に完敗だ。……いやはや。流石は、我が師匠である。
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