「はあ……」
当てもなく新都を歩きながら、遠坂凛は幾度となくため息を漏らしていた。
注意力は散漫、何度人にぶつかったかもわからない。そもそも、この夜歩きすら、既に何の目的だったかもどうでも良くなっている。
昨日今日、ため息の原因になりそうなことは色々あった。
だが、それでここまで彼女が落ち込むことは、無い。直接の原因は、ただ一つ。先ほど、少年が彼女に見せた表情に他ならない。
(何て、顔するのよ……。アイツは……)
そんなに悲しい表情は、見たことも無いほどだった。
夢のことを楽しかった、と、彼は語る。だが、そのくせ、彼の顔はちっとも笑ってなどいなかった。
いや。本人は笑っているつもりだったのだろう。
だが、彼女には、分かってしまっていた。
その笑顔は、“嘘”なのだ、と。
“それ”が、彼にとってどれ程の意味を持っていたのか。自分がサーヴァントを失った時を思い出せば、そのことに少しは近づける気がした。
憎まれ口ばっかり叩いて、ホント、どうしようもなく生意気なヤツだった。
けど、私のことを、ちゃんとわかってくれて。
何よりも、誰よりも信頼できるヤツなんだ、って、分かっていた。
最期の、最期まで。カッコばかりつけて、それで。
残ったモノは、何だというのだろうか。
表向き、強がってはみた。だけど、正直、認めたくなんてなかった。
令呪を通じた、その存在が感じられなくなる。目の前が、真っ暗になったような、そんな感覚。
きっと。彼も、同じだっただろう。
愛し合って、認め合った、不器用な二人。傍らで見ていても、微笑ましいほどお似合いだった、恋人達。
「―――――――っ」
そんな、最愛の人を喪った心の中。
その、どうしようもない暗さなど。
最初から、慮れるものではなかったのかもしれない。
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