「で、確かなのね?その違和感って」
晩飯も終わり、皆が帰ったところで遠坂に電話をかけた。無論、固定電話で。お互い未だにアナログを地で行く携帯未保持者であるが故に、連絡はメールなどと洒落た真似はできないからして。
「確かだ。はっきり感じたからな。あれは魔力だと思う」
むー、と呟いたまま、遠坂は黙り込んでしまった。どうも遠坂は考え事を始めると相手が見えなくなる傾向にある。対面ならまだしも、電話なら非常に困る癖だったりもする。
………
……………
…………………
………………………
……………………………思考すること、およそ二分。
長い沈黙に耐えかね、意を決して遠坂の思考に割り込んだ。
「もしもし? 何考え込んでるんだ?」
「あ、ごめんね。一応色々と考えてみたのよ。
士郎も知ってのとおり、冬木の魔術師は間桐、遠坂、衛宮に、今はアインツベルン、それだけのはずよ。だから、外来の魔術師でも来ない限りそんなことはないはずなんだけど……知り合いに会ったわけでもないのよね?」
「そうだな。でも、外の魔術師、か」
「貴方の御父上みたいに、協会からはぐれた魔術師がふらっとやってきて、とか。それもそれで問題はあるんだけど……」
…………だけど。
おそらく、共通して頭にあるのは、あのことだろう。
朝の、何気ない会話。だが今となっては、点が線になる可能性を棄てるべきじゃない。
「もしかして、朝の話に関係あるのか? その調査に来てるとか」
「かもしれない。でも、そうだとして、そんな仕事を専門とする魔術師がそんな跡を残すかしら」
「それは……」
確かにおかしい。任務が任務だし、コトはなるべく公にしないようにするだろう。
こと、連中は隠匿のプロだ。現実世界からの秘匿を旨とする協会にあって、僅かでもミスをするような人選がなされる事は、まず無いと言って良いだろう。
「じゃ、なんでさ」
「それが解れば苦労はないでしょ?」
………御尤も。
「それとも、俺達が考えすぎなのか」
「うーん……。そうと決め付けるのも早計、かな。
しょうがないか。ダメ元で一回あっちに聞いてみるわ。碌でもないことが起きてからでは遅いしね」
「あー………まあ」
ダメ元、というか。ダメに決まってる気もする。まあ、それ以外手があるの、と聞かれたらどうしようもないので、そこで単語を切った。
「……そうか。ま、頑張ってくれ」
「ほどほどに、ね。それじゃ、お休みなさい士郎。また明日」
「おう。また」
そう言うと、電話は切れた。
「……む……。…………ま、なんだな、アレだ」
語らぬ受話器を眺めながら、思わず一人ごちた。
結局、俺に今できることなんて、何も無いことを祈るだけってこと。
――――全く。相も変わらず無力なものだ。
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