「先輩? 起きていらっしゃいますか?」








 どれくらい時間が経ったのか。聞きなれた後輩の声で、我に返った。


「ああ、おはよう。朝飯か。……悪いな、任せちまって」


 どうやら、もう六時半をまわっているらしい。いつもなら朝飯作りに参加できなかったことを悔やむのだが、今日はそんな気力すら湧いてこない。




 ……全く、どうかしてる。




「いいえ、私が好きでやってることですから。御礼には及びません」
「ありがとう。すぐ行くから」
「はい。居間でお待ちしています」

 パタパタ、と、廊下を去る足音がする。いつも通りの桜の姿が、今はとてもありがたく感じられた。



「全く…………」



 もう一度、嘲るように呟いた。
 我ながら情けない。感傷に耽る暇があるなら、前に進まないと意味が無い。……そんなこと、何より良く知っているはずなのに、どうして。


「んっ、と」


 何かを断ち切るように、勢いよく布団に別れを告げた。




 少し、頬に何かの痕が残っている。  早く顔を洗って、居間に向かわないと――――――。




   

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