――一方、その頃。


 兵庫県、神戸市。
 雑然の中に喧騒と活気が満ち溢れる、元町・南京町中華街の一角。
 その、とある中華料理店の一室に、「彼女」は座っていた。

 優雅に紫煙をくゆらせ、広げた新聞に目を落としながら、出されたジャスミンティーを味わっているその姿。恐らくは万人が目を見張るほどの美人でありながら、目つきには怖さ、凄みすら感じさせる威圧感があり、見方によってはどこぞのマフィアの大ボスに見えなくもない。

 実は既に、彼女は食事を終えていた。とある約束をしてこの場所に来たのだが、約束の相手が時間に遅れており、今度は待ちぼうけを食わされている。

 ついでに言えば、尋常な遅れ方では無い。
 彼女が、ふと、視線を新聞から腕時計に移す。彼女がここに来てから、分針がきっちり円盤を二周した勘定になる。
 要するに、二時間待たされている、ということだ。

「……不老不死だと、時間の感覚も狂うのか?」

 ぽつり、と。
 苛立ちとも呆れとも取れる色彩を帯びた声音で、彼女はそう呟いた。

 あり得べき話ではある。人間五十年の時代はとうの昔に過ぎ去ってはいるが、普通の人間であれば、未だに生きられて百年が関の山。彼女たちの同類――所謂「魔術師」と呼ばれる人間にはそのタイムリミットを大幅に伸ばす人間も居るには居るが、それでも「不老不死」になる方策を選ばない限り、命はいつか、自然に燃え尽きてしまう。

 そんな種に比べれば、「彼ら」が時間に鷹揚であっても驚くべきことではない。そう、考えることも可能だろう。
 だが、しかし。物事には限度というものがある。礼儀、という言葉を持ち出すことも可能かもしれない。「二時間待たされる」というのは、人によっては「約束を破られた」ことに等しい話だ。そんなことを考えると、つい、彼女の口にも苦笑が浮かんでしまう。

「――さて」

 忘れているのか、気が変わったか。それとも、既に彼女と接触する必要はなくなったか。あらゆる可能性が考えられるが、幸い、この場所は居心地がいい。じっくり各紙や本を読みつつ、提供される中国茶を味わうのも悪くない過ごし方だ。ついでなので、もう少し待ってみるのも良いだろう、と、彼女はそう思い直した。

 何より、禁煙で無いのがいい。ここまで落ちつけて、堂々と愛用の台湾製煙草を燻らすことが出来る場所など、この時代そうそう在るものではない。

 さて。お茶のおかわりを。
 ついでに、飲茶のひとつやふたつでも。
 そう考えて、彼女は、ボーイを呼ぶ鈴を鳴らしたのだった。


 ――ちなみに。
 彼女の待ち人が来たのは、それから凡そ一時間が経った頃のことであった。
 そして、その出会いは、「温泉」に向かった者たちに、大きな影響を与えることになるのだが。



 またそれは、後の話、である。



 つづく





 というわけで、久々の更新です。今回は3と4の間に入れるはずだった幕間をお届けいたしました。

 単に入れ忘れていただけなのですが(苦笑)。なくてもいいかな、と後で考えましたが、一応入れておきました。3と4の中間話としてお楽しみ頂ければ幸いですw

 登場人物が誰か……は、分かる……かな?w 恐らくお分かり頂けると思いますが、如何でしょうw
 それでは、お読み頂きましてありがとうございましたw  



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