「とても、いい天気になりました」
からから、と、衛宮家の玄関の引き戸を開け、セイバーが外に出る。その言葉通り、空は秋晴れ。爽やかな、涼やかな空気が心地よい。行楽にはもってこいの天気。それ以上の表現は必要ないほどだ。
「忘れ物ないか? セイバー」
「そうですね……恐らく、大丈夫かと」
戸締りをしつつ、士郎がセイバーに確認する。そう、多分、大丈夫。セイバーはこの日のために、わざわざリストまで用意して荷造りをしたのだ。それに、今回の旅は参加するメンバーも多い。もし足りないものがあれば、誰かが貸してくれるかもしれないし、それはそれで思い出になるだろう。
「楽しみだな、温泉」
「ええ、とても」
それが、セイバーの偽らざる心情。密かに憧れていた温泉旅行の幕が、いよいよ開こうとしているのだ。いや、邸の玄関を一歩出た瞬間から、もう開幕した、と言えるのかもしれない。
温泉地に向かう大河以外のメンバーとは、新都の駅前で集合することになっていた。行き先と日程が重なったから、と、美綴以下の一行とも道中を共にすることになっている。あるいは、話に聞く学校の遠足、修学旅行の心の踊り方とはこのようなものか――と、セイバーは賑やかな道中に想いを馳せる。
「元栓締めた、戸締りもした、近所に挨拶もした……っと……!?」
「――、……?」
そして、鍵をかけ、家を留守にする際の確認事項を反芻し、いざ出発……という瞬間。
二人の目前に、突如、光が広がった。
「こ、これは……」
「もしや……」
しかし、二人にとって、これは驚くべき現象ではなかった。というのも、衛宮家では何度も起こっていることだから、である。
その、光の中から現れるのは――
「がおっ!」
「セイバーライオン!」
異世界からの癒し、セイバー瓜二つの顔を持つ聖獣・セイバーライオンであった。彼女は時折、次元を超越してこうして衛宮邸にやって来る。
「がおがお! がうっ」
「なるほど、現地集合も考えたけど、一緒に行きたかった……と?」
「がおー!」
自分で作ったのか、あるいは彼女の「親」と言える人物が用意したのか、セイバーライオンは如何にも和風な風呂敷包みを背負っている。予め彼女にも旅行の予定は伝えてあるし、同道の旨も聞いていたので、旅の荷物であることは明白だ。
「ふふ、貴女も温泉が楽しみなのですね」
「がうっ」
「はは……よし。じゃ、行こうか」
セイバーがセイバーライオンの手を引く。三人は衛宮邸の門をくぐり、家を後にした。
さて……一体、どんな旅行になるのだろうか?
ただ、セイバーは、確信に似た予想を抱いている。
賑やかで。
きっと、楽しい日々になるに違いない――と。
(つづく)
「プレ版、上げてみました」(※冷やし中華始めました、風に)
……お久しぶりです長らく更新止めてしまっていて本当に申し訳ありません! 九話全体をアップしようと目論んでいたんですが、色々舞い込んでしまって、せめてブラッシュアップした1000字くらいの分だけでも……と、今回は久々に温泉話の続きを上げてみました。
また後日、ちゃんと本編をアップロードし直す予定です。季節がようやくこの話と合致したので(笑)、今度こそきっちり連載したい、と考えておりますw あとがきのちゃんとしたものも、またその折に……。
そんなわけで、簡素ではありますが、お読み頂きましてありがとうございました!<(_ _)>
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