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 「ん、………?」
 
 
 
 
 
 
 
 わずかに身じろぎする少女を感じて、目を覚ました。
 
 
 
 
 
 
 時間はどれだけ経ったか分からないが、まだ夜明けまでは相当ありそうだ。互いに疲れてしまったのだろう、どちらが先に眠りに入ったかも定かではない。
 
 
 だけど、側に彼女が居ることだけは、何よりも確かなこと。
 窓から入る月明かりが、少女の寝顔を照らす。腕枕、すっぽりと収まっている姿が、本当にいじらしくて、愛おしい。
 
 
 「………すぅ………すぅ………」
 
 
 セイバーが両腕を胸の前に置き、こと、と体を傾けてくる。端から見れば寄り添ってくれるようにも映るだろう。
 
 
 「………………」
 
 
 思わず、微笑んでしまうくらいに――――穏やかな寝顔が、こちらの幸福感を満たしていく。
 それは、いつか幻視した最期のそれではない。ただ安らかに、休息を取る少女のもの。
 
 
 「シ、………ロウ………、」
 
 
 寝言、だろうか。それとも、本当は起きてるのかな?………いや、それはないな。
 ならば、なるべく起こさないように………そっと、金砂の髪を、指で梳いた。
 
 さらさら、と。やわらかくて、しなやかで、きれいで。
 まるで、彼女を縮図にしたような髪の毛ではないか。
 
 
 「………くす。」
 
 
 そう考えると、もっと幸せになれた気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 すぅ、すぅ、と、心地よさそうな寝息が、耳に近い。
 体には悪くない疲労感。そしてそんなことが、何より、側に彼女が居てくれることの幸せを教えてくれる。
 
 もう、うつくしいゆめに涙する必要も無い。会いたい、と、空虚な心が訴えることも、無いだろう。
 思えば、長かったのかもしれない。今考えてみれば…………いやはや。どれだけ俺は気付かぬところで涙していたのか。あの晩も、あの朝も、いや、何時、どこでだって―――必死に誤魔化して、それが壊れないよう、汚れないよう守ってきた。
 
 きっと「自分」はとても脆くて、傷つきやすい。どこかで、そう分かっていたんだろう。
 「会えない」と。その言葉を受け入れたら即座、崩れ去ってしまっただろうから。
 
 
 願いは願わないと叶わない。
 それは、単純なこと。だけど、多分それは、結構難しい。
 
 
 
 
 もし、諦めてしまっていたら―――――
 
 
 
 
 「―――――っ」
 
 
 
 
 それで、ちょっとだけ心が動いてしまったのだろう。枕にしていた腕が反応し、彼女の顔を少し引き寄せてしまった。
 
 しまった、と思った段には、時既に遅し。
 
 「………あ」
 「ん………、ぅ、シ、ロウ?」
 
 
 ちょこん、と顔をあげたセイバーは、半分だけ眼をあけて、こちらを見つめている。
 あ、……う、可愛い……っ。………だけど、今言うべきことはそんなことじゃなくて。
 
 
 「………ごめん。起こしちまった、な。ホント………」
 
 
 何やってんだ、と自分に喝。いくら幸せだからって、今のは失敗だった。こんなに幸福そうな少女を夢から引き戻してしまうなんて、それはやってはいけないことだ。たとえうっかりミスでも、言い訳は………、
 
 
 
 ―――――と。
 
 少し上げられたセイバーの頭が、また腕の上に戻る。
 そして、そのまま俺を見ながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。そのとても優しい笑みが、くだらない妄念に冷えた心を温めてくれる。
 
 
 
 「………、………。………構わないです、シロウ。」
 「え?」
 
 
 それだけ言うと、彼女はもう少し、こちらに体を寄せた。ぴたり、と。いや、ふわり、と言ったほうがいいのだろうか―――――色々、ちょっと困るところが押し当てられたりして、参る。でも嬉しい、………ああもー、何言ってんだ、俺。
 
 ………で、次の言葉がまた、俺の理性を軽く突き破る。
 
 
 「こうして、お話する時間が出来たでしょう?私は、嬉しい。」
 
 
 ………………いや、参った。
 こうなると、もうどうしようもない。
 嬉しい、と、声を上げて抱きしめたくなったのは、こっちじゃないか。
 
 
 「………や、シロウ………ぅ………」
 
 
 俺もセイバーのほうを向いて、思いっきり抱き寄せ、キスをした。
 問答無用だ。そんな、こっちを喜ばせるようなこと言ったお前が悪いんだぞ。
 
 
 「………ん、………。ふふ。仕方ないですね、………シロウは。」
 
 
 きゅ、と。今度は、彼女からのアプローチ。きれいな腕を首に回し、一度離した唇を、もう一度重ねる。
 彼女のほうが、むしろ積極的。“口付け”という壁をちょっとだけ越えた、愛の確かめ合い。
 
 
 「………、ん………」
 「…………―――――」
 
 
 ――――もう、どうかしてしまいそうだ。
 心臓はどくどく言ってるし。この愛おしさの加速度、グラフにしたらどんなになるだろう?
 
 
 「ふ………ぁ、………」
 
 
 少し刺激的な音が、静寂を裂く。キスが長いものになりそうな予感を、現実にしながら。
 いつしか、彼女が始めたそれが、互いからの求め合いになって、――――深く、深く。
 
 
 少し離れて、手を握って、と懇願されて。
 掌を合わせて、もっと近くに、―――――
 
 
 「ぁ………、あっ」
 
 
 普通、言葉を発する器官が、正常な役割を果たせていない。
 だけど、そこからの感覚が、ただ「愛している」と伝え合う。
 
 
 「んっ………ふぅ、ん………、っ………!」
 
 
 ちょっと、長くしすぎただろうか?セイバーの吐息が苦しそうになった。
 それに気付いて、小休止、とばかりに間をとる。
 
 
 「ゃ………は、はぁ………。」
 
 
 見れば、セイバーは涙目で、体を少し震わせている。むぅ、いけない、これまた俺の落ち度。女の子と同衾するなんて、それこそセイバー以外とは経験が無くて、また困らせてしまったらしい。甲斐性とかそういう問題じゃないな、こりゃ………。
 
 
 「あの、………ごめん、な。ちょっとやりす、………?」
 
 
 そう謝罪しようと思って、口を人差し指でふさがれた。
 しー、と。母親が、聞き分けの無い息子にそうするように。
 
 
 「もう………。それでは、台無しです、シロウ。」
 
 
 ちょっとだけ怒ったような言葉遣い。むすっとしているように見えて、口元には微笑が浮かぶ。貴方らしいけれど、それは失策ですよ、と。
 
 ………うう、情けない。
 
 そんなこと、口に出すのも躊躇われて。
 照れ隠しに、彼女の背中を、そっと撫でた。
 
 
 「!」
 
 
 ぴくん、と震える小さな体。不意打ち、になるんだろうか。滑らかな素肌の感覚に、しばし酔う。
 
 
 「………ゃ、くすぐっ、たい………」
 
 
 そう言っても、抵抗らしい抵抗は見せない。背中から脇腹へ、少しずつ。
 往復する無骨な手に耐えながら、少女は恨めしそうにこちらを見上げて
 
 
 「そんな、反則、です。何も、言えなくなってしまう………。」
 
 
 そんなふうに呟いて、ぽか、と、胸を叩いた。
 ………もう、可愛いなあ。
 
 
 「そっか?じゃあ、止めとくよ。」
 「………!そ、」
 
 
 言いかけて、セイバーは慌てて口をつむった。
 “そんな”?それとも、“それは”かな?くすくす。
 
 
 「………むぅ。今日のシロウは、少しいじわるだ。」
 「今日だけかな………。これからずっと、いじわるかもよ?」
 「………くす。まあ、それでも構いません。貴方が貴方であること、これは変えられませんから、ね。」
 
 
 いたずらっぽく笑うのは、次はセイバーだった。貴方が貴方の限り、私の方が有利です!と。一方的に宣言されちまったような………。
 
 
 「あう、俺が俺って、どういう」
 「言葉通り、です。ふふ。シロウのことは、私が誰より良く知っているのですから。」
 
 
 言って、その頭を胸板に摺り寄せる。
 純粋な求愛行為。応えるように、最愛の少女の頭を、そっと撫でる。
 
 
 「セイバー………。」
 「はい、なんでしょう。」
 
 
 顔は胸板に埋まって見えないが、楽しそうに笑ってくれているのが、伝わる。えい、えい、お返しです、とばかりに胸に爪を立てる少女。そんなセイバーが愛しくて、もう一度強く抱きしめた。
 
 
 「ん、………シロウ」
 
 
 頬染めて顔を上げるセイバー。柔らかな表情が、幸せですよ、と語ってくれる。
 そんな顔をされたら、俺だって答えないわけにはいかない。
 ただ、純粋に。今の幸せを言葉にして共有したい、と、そう思っていた。
 
 
 「ああ、俺も幸せだ、セイバー。お前に、また会えたんだから。」
 
 
 それを、幸福、という言葉以外でどう表そう。
 
 
 「二度と、離さないからな。………ずっと、一緒だ。」
 
 
 ずっと、ずっと。
 別とうとするなら、今度は運命ですら容赦してやらない。きっと二人でなら――――そんなモノだって、越えていける。
 
 
 「………勿論です。私も、離しません。」
 
 
 回す腕に力を籠めて、強く返答を返してくれるセイバー。言葉に宿った想いが、嬉しい。
 
 
 「シロウ――――」
 
 
 その名前を、口の中で、しっかりと反芻するように。
 忘れえぬ響き。あの時から、ずっと―――――いつか会う時のことを思っていた。彼女は、そんなことを口にした。
 
 呼びかけて、返事がある。
 そんな時間を、求め続けたのだ、と。
 
 
 「セイバー………。」
 
 
 少女と、自分の願い。
 何時でも、互いを感じあえる距離に、今は二人。
 届かなかった星は、この腕の中にある。
 
 
 「………ありがとう。その、迷惑ばっかかけると思うけど………これからも、よろしくな。」
 「はい。ずっと、一緒です。」
 
 
 唇を、体を、もう一度重ねて、より深く確かめ合う。
 愛する人の存在を。共に在る幸せを。
 
 これから、手を取り合って歩んでいける未来。
 朝に向かい、まどろみに落ちる意識の中。そのヒカリが、確かに俺達を祝福してくれる気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 はい、というわけで、角砂糖を生でガリガリ。まるで、甘いの3個欲しいのか?3個………いやしんぼめ!と言われんばかりの(ry
 
 いや、ジョジョネタはここまでにしておきましてw ゲロ甘丼一丁、と自分では思ってるんですが、如何でしょう。タイトルもあまりにストレートなw
 時期的にはpromised nightの直後、ということでオッケーです。再会の後、初めての同衾はきっとこんな感じだろー!と妄想が爆発した結果ですw ちょっとエッチでしょうか?w
 余談ですが「語らい」という言葉には、男女の――という意味もあったりするのです。辞書をどうぞw
 
 ちなみに、完全版は「もう一度体を重ね」の部分が詳細だったり濃厚だったりR18になっていたりいなかったり。公開予定、永遠に無し………ていうか、自分でも妄想してるだけです(爆)。
 
 あと、レアルタをクリアされている方のみ、下に更に伏字で後記がありますので、よろしければ。
 
 それでは、御拝読ありがとうございました!
 
 甘いぜ!とお思いになれば是非w⇒ web拍手
 
 その、次の日に………
 
 では以下、LE完了の方々へw
 
 もう分かっていただける方も多いと思いますが、「LEの草原サイカイ後、初の同衾」でも通用するようにイメージして書いております。場所はアヴァロンでも衛宮邸でもどこでもいいですよw
 共用と雑記で言ったのはそういうことですね。きっと幸せな夜です。ええ、それは当然に、我々の想像を絶するほどのw
 
 というわけで、LEまで到達なさった方は、その後の幸せな二人を垣間見る一端としてお読みいただければまた幸いですw
 
 それではw
 
 
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