「一日目/4月13日」
――――――彼女の夢を、見た。
とても、暖かなユメだった。
いつの日か、その焼き直しのような。
夕焼けの新都を、二人並んで歩いている。
それは、あまりに美しい幻想。
衛宮士郎にとって、何にも代えがたい理想。
だが。
それは、最早虚構の中にしか存在しない。
どれほど彼女との夢を見たのか、それこそもう憶えていない。
二人で共に過ごした日々は遠く、それなのに、昨日のことのようにさえ感じられる。
何より貴くて、大切で、共に居たいと思っていた人。
今も確実なのは、それだけ。そのことだけが、確かに胸の内に在る。
――――――思えば。アイツを「好きだ」と思った時だけ。
衛宮士郎は、確固たる自分を持てたのかもしれない。
優しくて、とても柔和に微笑んで。
満開の桜を見て、綺麗だ、と呟いて。
何気ない仕草をからかうと、ムキになって反論してきたり。
全ては、現実にならなかったこと。
許される夢の中でだけ、俺は幻想をつむいでいる。
何度も、何度も。夢の中の自分は自問していた。
これは、夢か、都合のいい嘘なんじゃないのか、と。
楽しかった。何でもないことが、全て美しく感じられた。
だからこそ、一層。共に居る彼女が、儚いモノに感じられたからだろうか。
それとも。
有り得るはずの無いこと、と、どこかで知っていたからか。
『セイバー?』
そう名前を呼んで、聞いてみようといつも思う。
……………だけど。
『はい。なんでしょうか、シロウ』
振り向く彼女を見ると、もう声は出てこない。
穏やかな、綺麗な。ずっとずっと、守りたいと願った、その笑顔を。
――――――夢の中。
もう少しだけ、見ていたいと思ったから。
なんでもない、と。今日もまた、そう言って歩き始めた。
おかしなシロウですね、と。軽やかに答えてくれる彼女は、到底幻には見えず。
そうして、どこかでまた、俺は思う。
――――――ああ、何て。
夢とは、惨くて、美しいものなんだろう、と―――――――――
書架へ戻る
玄関へ戻る
|