時間は、二週間ほど、遡る。


「美味しい……」

 もきゅ、ぱく、もきゅ、ぱく。そんな擬音が聞こえてくるかのような食べっぷり。セイバーは、自らのお気に入りカフェ・アーネンエルベで、少し遅めの昼食を取っていた。

「流石はひびきの料理です……トルコライス……今度、シロウにも作ってもらえるようお願いしてみなければ……」

 時折感嘆の声を洩らしつつ、セイバーはプレートに盛られた、ボリュームたっぷりの日比乃ひびき謹製トルコライスを食べ進める。ひびきはメニューに載っている定番から客による無茶ぶり注文にまで幅広く対応する万能の料理人であるが、その日セイバーが注文したのは、アーネンエルベが開催していた「長崎フェア」のメニュー表にあった、その品目であった。トルコライス――カツ、パスタ、ピラフ、サラダが一皿に盛るその料理は、さながら大人向けお子様ランチ、といった趣である。残念ながら「お子様ランチ」を頼める年代には日本に居なかったセイバーだが、このトルコライスは大のお気に入りになる予感がしていた。

「ふ……素晴らしかった。ごちそうさまでした」
「あ、セイバーさん、食後のコーヒー今お持ちしますね!」
「ありがとうございます、ひびき。大変に美味でしたよ」
「そ、そうですか? えへへ……うれしいなあ」

 はにかみつつ、ランチセットの紅茶を淹れに戻るひびき。いつ見ても微笑ましい、明るい少女である。

「チカちゃん! 今日もセイバーさんに褒められたよ!」
「おー、良かったなあ。あの人の舌はマジだからな」

 と、そんな会話が、厨房方面から聞こえてくる。ひびきと話しているのは、いつもひびきとペアでアルバイトに入っている桂木千鍵、だろう。店での何気ない瞬間に現れる二人の友情は、通っているセイバーにとっても大変心地よいものだった。

「いいものですね、友情とは」
「そうですね。ボクも心からそう思います」
「ええ。やはり……、……!?」

 独り言、のつもりだったのだが、あまりにもナチュラルに返されたので、セイバーは椅子から立ち上がりそうになってしまった。
 いつからそこにいたのか、このお子様は。

「ぎ、ギルガメッシュ!」
「こんにちは、お姉さん♪ ここ、お姉さんもお気に入りなんですか? ボクもオフには時々寄るんですけどね」

 ギルガメッシュ……そう、第四次、第五次成聖杯戦争に於いて猛威を振るった「アーチャー」のサーヴァント。シュメールの伝説にして、真の意味で天上天下唯我独尊な王。その、子供時代の姿――に、彼はとてもよく似ている。というか、瓜二つであった。

 といっても、「彼」はギルガメッシュ「本人」ではなく、「二世」――どういう理屈かは全く分からないが、どうやらアーチャー・ギルガメッシュが、二つの聖杯戦争の合間に遺したのがこの子、であるらしい。とある出来事で知り合って以降、度々顔を合わせる程度の仲にはなっている。

 年の頃は十代そこそこのようだが、現役の大学生にして実業家、という顔を持ってもいる。いつの間にか冬木市各所施設の経営権を手に入れていたり、冬木周辺のリゾート開発をしていたり、と、いろいろと底の知れない少年でもある。大学では哲学を専攻しており、どういうわけか彼の記憶に残っている「父親」の成長軌跡を追わないよう必死になっているとかいないとか――


 と、それはさておき。


「らっしゃいっすー。注文どぞー」
「えーと、ボクもトルコライスのランチセットで。ドリンクはアイスコーヒー、メインと一緒に持ってきちゃってください」
「あざーす」

 いい具合に力の抜けたいつもの接客を魅せ、注文を取った千鍵は、店の奥へと戻っていく。それを見届けたセイバーは、小声でギルガメッシュ二世――文字通りの「子供ギルガメッシュ」へと話しかけた。

「それで、何か用ですか? わざわざ私との相席を選んだ以上、話があるのでしょう」
「いやだなあ。それじゃボクがまるで打算だけで生きている人間みたいじゃないですか。お姉さんは綺麗ですし、食べっぷりもいいから、見ているだけで楽しくなるんですよ。でも――ええ、お姉さんの言う通り。ひとつ、お願いがあるのは、間違いありません」
「お願い、ですか」
「はい。あ、でも、もちろんそれなりの見返りは用意してありますから♪ 是非是非、お話だけでも聞いて頂けたら、と」
「なるほど……」

 セイバーはナプキンで口周りをぬぐいつつ、一瞬で考えを纏める。

「分かりました。時間もありますし、話を聞きましょう」
「あは♪ ありがとうございます。それでは――」


 ぱぁ、と満面の笑みを浮かべ、子ギルはセイバーに「要件」を話し始める。

 その、内容こそが――



 





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