翌朝、早朝。日が昇るくらいに起床し、朝食や準備を済ませた二人は、レンタカーでとある浜に来ていた。宿の前のビーチでも良かったのだが、一日は別のところで、と、二人は事前に情報を仕入れていたのだった。

 そして、浜辺と海水浴――と言えば、必然的に――

「……あの、そんなにジロジロ見ないでください、先輩」
「い、いや……あはは……」

 水着姿の逢が見られる、ということになる。無論のこと、普段から逢の色々な姿を目にしている彼ではある。もちろん、それは揺るぎない事実だ。だが、そうではないのだ。「今、ここで見る(水着姿の)逢」が重要なのだ。見慣れた、とか、そういう感情が湧くことなどあり得ない――南国で、普段の競泳着とは違う逢を目の当たりにする、その感動である。

 いや、仮に競泳着であったとしても、その新鮮さは日々新た、と言えるわけだが――

(もはや、崇拝しかない……ここに神殿を建てたい……)

 と、つい先日思い描いたことを再び強く思うほど、今日の逢は美しい、と彼は内心唸りを上げる。もともと、逢の肌は白く、柔らかさを感じさせる色彩なのだが、水泳の影響で日焼けしている。が、その日焼け跡が、普段とは違うセパレートの水着を着ていることにより、白と小麦色のコントラストを逢に描き出しているのだ――!

 その美しさは、太陽がもうひとつ現出したのではないか、と疑わせるほどの輝きである。彼の反応は逢に伝わっているのか、そんな様子を見た彼女は、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「さ、行きましょう先輩」
「わ、ちょっと、逢!」
 逢に手を引かれ、彼は海へと砂浜を踏みしめて行く。太陽を浴びた白砂は熱く、しかし、それが妙に心地よい。さて――いよいよ、海水浴だ。蒼き海が、我々を誘っている。二人で浜辺に興じる理由として、それ以上のことはない。

「逢、ちょ、待って! まだゴーグルしてない! 塩水はやめて!」
「待ちません! ほらほら、どんどん行きますよ!」

 ここで楽しまなくて、何処で楽しむというのか。しばし、童心に帰らん。海水を掛け合いつつ、彼は、その幸せに浸っていた。





「ひゃう……! ちょ、先輩、冷たいですっ!」
「でも、気持ちいいだろ? 陽射し、強かったからなぁ」
「え、ええ、確かに……でもちょっと、刺激が……強、ひゃうう!」

 と、そんな二人が海遊びに興じること、およそ二時間。浜で水を掛け合い、身長と同じくらいの深さのところに出てシュノーケリングしたり、と、南国の海を堪能した二人は、流石に若干の疲労を覚え、二人で浜に上がり、シャワーを浴び、海の家の貸しスペースで休憩を取っていた。
 八月末、衰えを見せない夏の太陽光線は二人の肌を容赦なく焼いている。彼の発案で、ロックアイスを互いの肌に這わせてヒリヒリ感を取ろう、ということになったのだが、予想外に逢の反応が楽しく、つい彼は深入りしてしまっていた。

「そ、そんなところにまで氷を置かなくてもいいと思うんで……ひゃあっ!」
「ふふふ……だけど、お肌は喜んでいるようだぞ、逢」
「何、悪代官見たいなこと言ってるんですか!」

 逢から抗議を受ける彼だが、その手を緩めることはない。これもまた、海辺の醍醐味なのである。
 が、

「ああもう! 今度は私の番です!」
「おおっと」

 突如立ち上がった逢の逆襲により、立場は逆転。逢に押し倒された彼は、逆に氷責めを受ける立場に立たされる。

「うおお……け、けど、これはこれで……!」

 とはいえ、むしろ逢に責められて本望――と、思わなくもない。彼は思い切り身体を伸ばしながら、背中を這う氷の感触を楽しむ。夏の海の楽しみ方は、何も海に入って遊ぶだけではないのである。

 心地良い、楽しい時間。ただ、身体は少々疲れている。移動の疲れ諸々が出る頃合、ということもあるのだろうか。

「あー……このまま寝ちゃいそうだなぁ……」
「ふふ。そうしますか?」

 そうこうしている間にも、どんどん拡大して行く睡眠欲。朝も早かったし、運転もあったし、と、彼は早々に抵抗を諦めた。幸い、まだ時刻は午前十時半あたり。少し寝てから活動を再会しても、十分すぎるほどの時間がある、と言える。

「そうだね。ちょっと……一寝入り、しようかな……」

 彼がそう呟くと、背中から氷の感触が消え、バスタオルが掛けられたのが分かった。

「おやすみなさい、先輩。また後で」

 逢の心地良い声を耳に感じながら、意識が薄くなっていく。さて、一休み、一休み。日が高くなったころ、もう一度遊ぶために、今は一端休憩しよう――。



 





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