空港に降り立ち、ツアーオプションのレンタカーを駆ることおよそ20分。逢と彼は、宿泊先のコテージにチェックインを果たしていた。

「……これは」
「こんなにいいところ、本当にタダで泊まっちゃっていいんでしょうか……」

 彼は絶句し、逢もまた別の意味でそわそわしている。それほど、逢と彼の宿所となるコテージは、素人目に見ても素晴らしいところであった。
 まず外観。白亜の、と形容してもよさそうな白基調の建物は、映像や画像で見る、エーゲー海のリゾート地を思わせる。その色彩が島の海、砂浜、青空の色と調和し、この上なく「絵になる」情景を作り出している。

 中に入れば、再び驚きが待っていた。間取りは広く、天井は高い。開放感のある一面ガラス張りの窓からは、コテージのすぐ近くに迫る砂浜と海が一望できる。軒先には寝そべることが出来るチェアーが備えられており、そこでのんびりするのも一興だろう。
 広々としたリビングを中心に、キッチン、バス、そして寝室が配置されている。バスは大きいバスタブやシャワーブースのみならず、その奥に屋外ジャグジーまで備えている本格的なものである。寝室には大きい、見るからにふかふかの寝心地を想像させてくれるダブルベッドが配置されていて、泳ぎ疲れた夜の安眠を約束してくれそうだ。

 そんなコテージのリビングと寝室に持ち込んだ荷物を置くと、二人はソファーに腰掛けた。

「驚いたなあ……ネットの写真より実際のほうがいい、なんて中々ないんだけど」
「ふふっ。そうですね」

 実際、南の島に行ける、と決まってすぐ、二人は行く先の情報を集めるべく色々とネットで調べていたのである。大抵、ネットに掲載されている観光地情報は幾分か美化されているものだが、今回に限っては実際に現地で見た方がはるかに好印象だった。

「先輩、ちょっと外に出てみませんか?」

 空港で買った南国果実のジュースを飲み、人心地ついた逢は、ふわりと立ち上がって、そう言った。

「いいね。ちょっと散歩しようか」
「はい」

 彼はそう応じると、荷物の中からビーチサンダルを取り出してきた。リビングの端にある扉から外に出ると、南国の暑気と、海辺の風が肌を撫でていく。
 コテージの裏庭にあたるところにある低い塀、その勝手口から外に出た二人は、白砂を踏みしめつつ、しばらく浜を散歩した。白のワンピースを着た逢がまた、南国の色彩に溶け込むかのようであり、愉しげに歩く彼女を見る彼の頬もまた、自然と緩むことになる。
 補助券をくれた塚原先輩に、そして自らこの日を手繰り寄せた己が右手に感謝しなければならないだろう。その右手で、彼は逢の左手を引いている。8月の島は極めて暑いが、逢の温もりはそれとは別次元の心地良さ。そんな彼女と一緒にここに居られることこそが、自らの幸せである、と、改めて彼は認識させられる想いだった。

「? どうしたんですか、先輩」
「あ、いや。ちょっと幸せすぎて、どうしようかと、ね」
「そう、ですか? ふふ……私もですよ、先輩」

 にこやかな逢の笑顔が、眩しい。共にそんな想いを抱ける人と一緒に居る、それを日常と出来ることに感謝しなければなるまい。

「それじゃ、そろそろ一回帰りましょうか。買い出しも行かなくちゃいけませんし」
「そうだね。また、夜に散歩しにこようか」
「あ、いいですね。星も綺麗に見えそうですし」

 さて、思い切りのんびりするためには、それなりの準備が必要だ。それに、旅先の買い物は、どこか楽しいものでもある。二人で歩く島のスーパーもまた、良い想い出のひとつになるだろう。そんな確信を胸に抱き、彼は逢と連れ立ってコテージへと帰って行った。



 





 書架へ戻る
 玄関へ戻る