「あ そ ぶ ぞ ― !」
「了解っすししょーッ!」



 到着するや、そう叫んで突貫する師弟が一式。暑さはあれど、潮風爽やかな白浜、そのすぐ近くにある駐車場に停められたバンから出撃した大きな子供と小さな悪魔は、一目散に海への道を駆け下りて行った。

「元気よねー、相変わらず」

 それを見て、呆れたように呟きながら車を降りる凛。誰がどう見ても、その感慨に否を唱える人間は居はしまい。

「そうだ、桜。綾子たちは?」
「あ、もうすぐバスが着く、ってさっきメールが来ていました。遠からず合流されるんじゃないかと」
「了解。じゃ、私たちは先に行って楽しんでましょ」
「そうですね」

 姉妹もまた、めいめいの荷物を持って浜へと向かう。士郎はそんな二人を見送りつつ、助手席のセイバー、そしてセイバーライオンと共に車から降りた。

「ふふ。皆、楽しそうでなによりです」
「ん、そうだな」
「んがおー……」
「疲れましたか? そういえば、長い間車に乗るのは初めてでしたね、セイバーライオン」
「がうー」

 かなり長いドライブになったこともあり、セイバーライオンはどうやら疲労気味らしい。セイバーの言うとおり、セイバーライオンが長距離ドライブを経験したのはこれが初。少々、酔っているところもあるかもしれない。

 などと思いつつ、荷物を下ろす士郎も、感じる疲労を誤魔化すことは出来ていなかったりする。夏の海。そこに、衛宮邸や穂群原関係者、気心の知れた仲が一堂に会して大いにバカンスを楽しみに来ている、ということもあり、テンションは大いに上がっているのを感じているが、前日まで少々体力を使うバイトをしていたこと、そして、この旅の運転手を担当したことが、影響を及ぼしている。

「おお――海が輝いています、シロウ」

 目を輝かせ、光を反射させて煌めく、エメラルドとサファイアの海に見入るセイバー。そんな彼女もまた眩しい。と、士郎は思ったが、その感慨は胸の内に留めておいた。

「とにかく綺麗ってことで有名だからな、ここの海。たくさん遊ぶんだぞ、セイバー」
「了解です、シロウ。セイバーライオン、行きましょう」
「がおーん……がお」
「む、少し休んでから行くから、先にどうぞ、ですか。車酔いであれば、仕方ないところですね……」

 セイバーライオンは、頷きながらセイバーの脚あたりを押した。彼女なりの「行って来い」の合図なのだろう。

「セイバーライオンは俺が見とくよ。実は俺もちょっと疲れてるから、海の家で一休みするつもりなんだ」
「なるほど。それでは、お願いしますシロウ」
「おう。後で行くから、先に楽しんでおいで」
「はい!」

 士郎の言葉も背中を押し、セイバーは海への道を駆け下り、先行組に合流した。それを見届けた士郎は、荷物を肩にかけ、セイバーライオンの手を引いた。

「ま、ちょっと休めばマシになるからさ。すぐに遊べると思うぞ」
「がう」

 苦笑で返すセイバーライオンに笑顔を向け、二人も浜辺への階段へと向かう。最初はちょっと休憩するが、きっと楽しい一日になるだろう――いや、はしゃぎ過ぎて何かが起こる、かもしれないけど。砂浜で遊び始めた衛宮邸の面々を見ながら、士郎はそんな予感を胸に抱いていた。


 つづく





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