「タイガー!!はかったな!!!タイガァァァァァァーーーー!!!!」
試験終了直後、後藤の絶叫が教室に木霊した。
君はいい友人であったが、藤ねえがいけないのだよ。合掌。
本日、最終日最終時限に回ってきた藤村大河渾身のテスト問題は、クラスにどよめきと絶望をもたらし、同時に自分たちが受験「戦争」の中にいることを思い知らせるものであった。
「次の試験は、地獄見てもらうからねー」
これが、数週間前の宣告。3年に入り、普段の授業も難しくなったと思ったら、テストも相応のレベルが用意されていた、ということである。
まがりなりにも受験校の一角を担う穂群原学園。夏“休み”に浮かれることの無いよう、彼女なりの釘刺しのつもりだったのかもしれない。無論、一部の生徒は既に模擬試験などで痛感していることではあるが。
「ふむ。中々にシビアな問題であったな。」
「まったくだ。和文英訳と英作文だけなんて、いじめとしか思えないな」
もっともシンプルかつ、もっとも英語の基礎力が試されるこの形式。ゆえに誤魔化しはきかない。そういう意味で、この時期に危機感を持たせるには最高の形式と言っていい。
これまでには何度か、藤ねえのキャラクターが存分に発揮されたおもしろ試験もあったのだが。今年に入ってからは、こっちのほうでも本格的に教師教師し始めたらしい。この分だと、夏の補講や二学期も大変なことになってきそうである。
「受験において、夏休みが最も大切とはよく言ったものだ。この反省を糧に、もう一段己を上げていけばよいという藤村先生のメッセージだろう。」
「藤ねえらしくはないけどな。」
自分に厳しい一成らしい。卒業即出家とも思われた一成だが、最近は大学で仏教教理やら哲学やらを極めるのもアリだと思い直し、視野に入れ始めたんだそうだ。どうせやるなら高いところで、とかなんとか。最近の生徒会室会食には、英単語集がマストアイテムになっている。
因みに、一緒にどうだとは言われるのだが、俺はまだ態度保留。いい加減決める時期だけど、どうしたものか。
「まあ、せいぜい頑張ってみなきゃいけないんだが……ふぁ」
なんとも情けない欠伸。どうやら寝不足が、急激に体を蝕んできている。
「……ふぅ。あれだけ睡眠時間削ってこれじゃ先も思いやられる。とりあえず、帰って寝るかな……」
「ふむ、確かに辛そうだな。では、ご一緒しよう。」
「おっけ。じゃ、行くか。」
ふらり、と、立ちくらみさえ覚えながら立ち上がる。うーむ、果たして、こんなんでこれから先もつのだろうか……?
如何に試験が難しかったとはいえ、ここまでくれば休みも同然。が、多少雰囲気は暗い。いつもとは違い、夏期講習など入ってる人も多いだろうし、純粋に楽しむとはいかないからだろうか。
「あんな大人、修正してやるーーー!!!!」
傍ら、後藤が泣きながら駆け抜けていく。余程酷かったんだろうなあ、試験。
しかしだ後藤。修正できるほど相手は甘く無いぞ。
「………夏だからなー。」
「衛宮、ソレを言うなら春だから、だ。もっとも、暑さにやられるというのはありかもしれんが。」
「ん。確かに、ちょっとしんどいなあ。」
靴を履き替え、外に出る。日差しは相も変らず元気燦々。ここ二週間ほど、バイトと試験勉強のツープラトンに曝され続けた身としては、多少厳しい。
と。
校門のところに、思わぬ人影があった。
「え………セイバー?」
すぐこちらに気付いたのだろう。晴れやかな顔で会釈してくれる。
が、こっちは気が気でない。ノースリーブで二の腕が輝いてるとか、そういうのではなく、周りの目というものがあるのだ。
「おや、セイバーさん。お久しぶりです。今日はどういった御用でしょうか?」
「こんにちは、一成。いえ、今朝、シロウがあまりに辛そうでしたので。帰り道が心配になって迎えに来たのです。」
「せ、セイバー、その、あのだな。ここはちょっと………」
すでに、俺の周りには悪意が取り付き始めている。
マタアイツカ。
テストデツカレテルトコロニイチャイチャミセツケヤガッテ。
アイツヲタオシテオレガテニイレル。
ニクイニクイニクイニクイ………!!!!
怖。いくらテスト明けだからって、ちょっとみんな壊れすぎ!
「まったく、衛宮はまだその様なことを気にしているのか?折角生涯の伴侶を得たのだ。堂々と好意に甘えるがよかろう。」
「な…………、伴侶って、お前!」
「その通りです。私はシロウの剣なのですから、こうして迎えに来るのも当然ではありませんか。それとも、ご迷惑でしたか?」
「あ……いや、そんなことない、けど、」
正直。そんな風に言われると弱い。100%純粋な好意から出たその行動を、俺が咎められるわけもなく。何より、この灼熱にあって一服の清涼剤、その笑顔は俺にとって何よりの救いなのだから。
「その、嬉しいよ。セイバー、ありがとう。」
まあ、明日からが怖いんだけど、な。
どうやら、朝の俺は相当テンパっていたらしい。セイバーと一成は、俺を話のダシにして楽しんでいるようだ。
「朝食の味付けが少し狂っているようでしたので、おかしいとは思ったのです。よほど疲れていても、滅多にないことですから。」
「なるほど。衛宮は疲れを顔に出すまいとするタイプですからな。その些細な異変に気付く細やかな心遣いこそ、衛宮のパートナーに相応しい。」
「ええ。シロウの味付けは、私が一番良く知っています。」
なんとなく話はずれている気もする。それでも、おしゃべりには花が咲いていた。
………こっちは多少居づらいけど。
「シロウはテスト期間中だというのにアルバイトも休まないのです。それで勉強も手を抜かずやりますから、必然的に睡眠時間が少なくなる。少しは、自分の体を省みて欲しいのですが。」
「まったくもって仰るとおり。まだ付き合いも長くは無いが、献身的に過ぎるところは常々心配している所です。その点、セイバーさんがついていてくれれば安心というもの。」
「いえ、私もまだまだ力不足だ。シロウのことを思えばこそ、止められないことも多い。もう少し、甘さを棄てなければいけないかもしれませんね。勇気をもってシロウを止めることも必要なのでしょう。」
………耳が痛い。ていうか、二人していぢめるなんて酷いと思う。
「聞いているか?衛宮。ここまでセイバーさんが心配しておられる。少しは自分を省みた方がよいと……」
「……む。余計なお世話だぞ一成。自分の体くらい、自分が一番良く知ってる。」
「そうです。知っていてなお、それを超える努力をしてしまうから私たちは心配しているのです。シロウ、貴方の体は貴方だけのものではない。もう少し、自愛してくださらないと。」
…………う。
「ははは。セイバーさんにかかっては衛宮も叱られている子供だな。しかし、だからこそ似合うというものです。衛宮の手綱はお任せします。」
…………うー。
「任せてください。ですが、一成にも協力を仰がねばならない。貴方はシロウの学友で一番近しい人だ。どうか、学校でシロウが頑張りすぎないよう、気をつけていてほしい。」
…………ううう。
「勿論。この柳洞一成、生徒会長の名に懸けて衛宮を護って見せましょう。」
…………なんというか。
なんだってこの二人、こんなに相性バツグンなんだ?
交差点で一成と別れ、家への短い道を歩く。隣のセイバーは、心なしか嬉しそうだ。
「セイバー、楽しそうだな。」
「ええ。三人で下校するのは初めてでしょう?ああいうのも、良いものですね。」
確かに。セイバーには、一緒に友達と帰ったり、そんな経験はないはずだ。
…………少し、ぐっとくる。
「セイバー、その、」
「ふふ。ありがとうございます。ですが、その先は言わないでください。私は、今こうして体験できている。それが、とても嬉しいのですから。
そうですね。これからも、時には迎えに行くのもいいかもしれません。」
「あ、それは、……そうだな。」
周りの目は怖いかもしれないが、思えば、そんなのはどうだっていいのだ。
遠坂と三人で仲良く帰るもよし、一緒に商店街で買い物するのも楽しいだろう。
何より。楽しそうなセイバーを、何時だって見ていたい。
「それも、楽しいな――――と、お、」
くらり。
暑い日差しについにK.O.されたのか。
足元の感覚が無くなり、バランスを失った。
――――と。
それでも。
その体は、しっかりと。彼女に、支えられている。
「シロウ。無理をなさるからそうなるのですよ。大丈夫ですか?」
セイバーの顔が、近い。少しドキリとしながら、とりあえず謝る。
「あ、ありがとう。セイバー、助かった。」
「このために迎えに行ったのですから、礼は結構です。それに、心配はいりませんよ。」
「え、心配?」
「この後、しっかりと私が癒やしてさしあげます。シロウは、安心して体を休めてください。」
「いい?!癒やすって、それ、どういう」
「ふふ。さあ、どういう意味なのでしょうね。シロウのご想像にお任せするといたしましょう。
ゆっくりと、眠れるように、です♪」
クスリ、と。冗談なのか本気なのか、彼女は少しいじわるそうに笑い、こちらの手を引く。
というか。
蠱惑的なその表情にも、俺はK.O.されていたわけで――――。
「休まるのか、疲れるのか、な?」
まあ、どっちだって大歓迎。
側に彼女がいるならば。
きっとそれだけで、疲れも飛んでいくだろうから。
小品ですが、試験終了記念SSです。ちょこっと、エクリプス的小悪魔セイバーさんが出せたらいいな、とかw この後、昼下がりの士郎部屋で何があったかは、皆様のご想像にお任せすることにいたしましょうww
未だにちょっと疑問なのが、Fateルートで仮にグッドがあれば、士郎君の進路はどうなったのかな、って所です。ホロウでは法政志望ともありましたし、そのまま進学なのか。グッドがあるなら、遠坂さんにくっついていくことも無いと思いますし……。
あと一つ。穂群原って二学期制?三学期制?作中で明言されてましたっけ。二学期制ならごめんなさい(汗)そういえば、セイバーさんは転入させてあげたい気もします。ですが、彼女はそれをどう取るか、まだ自分では掴みきれません。それとも、いっそのこと大学でめくるめく……?w
因みに、自分の中では後藤君はあんなキャラです。あしからずw
それでは、御拝読ありがとうございました。
※頂き物展示室に、正門の所で待っていたセイバーさんのCG(晴嵐改様作)がありますので、是非御覧になってくださいw
面白ければ是非w⇒ web拍手
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