「シロウ、お待たせしました。」



 まったりゆっくり、珈琲牛乳を堪能しつつソファーに座ることおよそ15分。女の子陣も入浴を終え、初めの一人がロビーに帰ってきた。

「ああ、お帰りセイバー。おじさん、一つ珈琲牛乳いただきますね。」
「はいよー。」

 番台のおじさんに許可を取り、冷蔵庫から珈琲牛乳を取り出す。隣に座ったセイバーの、石鹸の香りが何ともいえずいい匂い。

「………?珈琲牛乳ですか。」
「ああ。実はな、セイバー。銭湯上がりには珈琲牛乳、というのが古くより伝えられし儀式なんだ。」
「ほうほう。それが日本の伝統、と……。」
「そうそう。風呂上りはコレがまた美味いんだ。」
「それは楽しみですね。それでは、頂きます。んく……………」

 コクコクと、喉が鳴っている。こういう仕草は、何度見ても可愛らしい。

「はー……、コレは美味しい!確かに、風呂上りに最適の味です。」
「だろ?ちょうど、火照った体に合うんだよ。」



 何時かのフォークソングとはちょっと違うが、コレもまた幸せの形ということだろう。いつか、ココで切嗣に教えてもらった珈琲牛乳。今また、俺から彼女に伝えている。何処か、不思議なめぐり合わせ感じる光景。

「はー、いい湯いい湯。やっぱ深山湯はこうじゃないとねー。おじさん、私はラムネひとつもらいますねー。」

 続いて藤ねえが出てきた。冬でもこの人の出で立ちはかわらない。イリヤも、藤ねえの影響だろうか、ラムネを一つ。

「姉さんはどれにします?私はフルーツ牛乳にしようかな。」
「そうね、じゃあ私もそれで。」

 最後に、仲良く姉妹が出てくる。そうだな、確かにフルーツ牛乳もまた棄てがたい魅力を……と?



 つい、と、こちらの服が隣から引っ張られる。見れば、セイバーがビンを片手に……。



「ん。………おじさん、もう一本頂きますねー。」
 







「いや、マッサージチェアーというものがあそこまで凄いものとは思いませんでした。」

 帰り道、湯冷めしないよう着込みながら、外気に触れる顔が心地良い。カラカラと、帰り道を歩くサンダルの音が、人気の少ない道に響いている。

「そっか。アレは銭湯の名物だもんなー。」
「イリヤスフィールと大河はテーブルゲームに興じていましたね。凛と桜もマッサージチェアーで寛いでいました。二人とも、随分気に入ったみたいですよ。」

 ふと前を見やると、楽しそうに語る姉妹が目に映った。姉妹で仲良く、も見慣れた光景になったが、こういう行事の後だと、尚更に微笑ましく見える。

「なるほどな。セイバーは、どうだった?」
「ええ、とても気に入りました。それに――――――」


 と。

 セイバーの雰囲気が、少し変わる。
 こんな顔をしている彼女は、いつも――――


「どうした?セイバー。」
「ええ、少し。昔を、思い出していました。」


 ――――ひとつ、呼吸を置いて。
       彼女が王だった時代のことを、少し話してくれた。


「ローマの浴場は有名でしたから。いつか、平和な世が来れば……我が王都にも、民の為、立派な浴場を作ろうと考えたこともありました。
 今となっては遠い過去ですが………ふふ。皆がこうして浴槽を使えるというのは、平和の証なのかもしれませんね。」


 懐かしむように――――叶わなかった過去を、かみ締める。

 こんな時いつも、俺は、語る言葉を持たず。
 ただ。セイバーの手を、しっかりと握り返してやることしか出来ない。


 しっかりと握る手で、そんな昔の思い出を、一緒に支えようと。そう、静かに決意する。
 握り返してくれるその手が、確かに、彼女が今ココに居ることを示してくれた。






「それにしても。」

 そんな沈黙は、彼女が破ってくれた。握り返してくれていたその手はいつしか、手を手繰るような格好になって、俺とセイバーの距離を縮めている。

 そして。彼女は、必殺の一撃を、俺の理性に叩き込む。

「広いお風呂は素晴らしかったのですが、一緒に入れなかったのは残念ですね、シロウ。」
「―――――――――――!」

 心臓が、いつもより一割ほど稼働率を上げた。セイバーの温もり、そして香りが、五感を通して………。


 ああ。だからいつも、俺は彼女には勝てないんだ。


「ふふふ。どうですか?伝え聞く温泉には、混浴なるものもあるとか。」
「あー、どうだろう……混浴は最近滅多に無いし……でも、温泉はいいよなー。」

 その、家族風呂とか。
 ………………………………いかん、のぼせてるか、俺。

「そうですね。見ていると、とても気持ち良さそうです。いつか、行ってみたいものですね。」
「ああ……うん、そうだな、是非。」


 雲ひとつない同じ夜空を、いつか、露天風呂で見るのも悪くない。


「ええ、楽しみにしています。」


 そう、楽しそうに語る彼女を見れば――――うん。ソレは、素晴らしい旅になるだろう。





 いつしか組んだ腕から、彼女が側に居る嬉しさをかみ締めて。
 少し早いかもしれないが。そんな未来に、俺は思いを馳せ始めていた。




 〜Special thanks, Seiran-kai Sama!〜





 というわけで、銭湯ものをおひとつw んー、コレを書くために久々に行ったんですが、やっぱり良いものですねー。
 銭湯といえば誰しもあのフォークを思い出すと思うのですが、生憎衛宮邸には立派なお風呂が。ならばよし、と、ぶっ壊れて頂きましたw 銭湯に行く日常の1コマとして、そしてほんのり甘い珈琲牛乳のようなテイストをこめてw

 最後のほうにもちょっぴり示唆込みでw 何時になるか全く以って完全不明の温泉話が出てきましたら、コレが端緒と思って頂ければ幸いですw 実はちょっぴりシリアス成分も考えたりしてまして(もちろん基本はほのラヴですからご安心くださいw)、二人の昔話をちりばめたのはそんな所からです。

 背景は、晴嵐改様に描いて頂きました!!!!いやホント、ありがたやありがたや。わざわざどうもです!!

 それでは、御拝読ありがとうございました!!


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