湯けむり旅情。古今東西、日本人は其処に憧れを抱く者が多い。普段行けない秘湯、浴衣で過ごす和室、山間の侘び寂び……などなど。


 自分が行っているわけでなくとも、旅番組が視聴率を稼げるのはそういう憧憬が背後にあるのだろう。少しずつ日本になじみつつあるこの二名にとっても、それは例外ではなくなりつつある。

「……いいですねえ、温泉」
「……いいわよね、温泉」

 ほとんどシンクロしたように、セイバーとイリヤは呟いた。春の昼下がり、とある演歌歌手や元捕手の奥さん等が出ている旅番組。その再放送を見ての感慨である。

 ただ、彼女たちとて、もとより温泉に馴染みがない人間ではない。
 むしろ十分、そこに憧れる素養はあると言っていいのである。

「おや、イリヤスフィールも温泉を嗜むのですか?」
「当たり前じゃない。実家の近くにはバーデン・バーデンもあるのよ? 寧ろセイバーの方が……って、あ、そうか」
「ローマ人は温泉が好きでしたからね。遺構もありましたし、建物として生きていたものを利用していたこともあります」

 外国人だからとて、湯治に縁がないとは限らないのである。殊、ローマ人が入植地の何処にでも公衆浴場を作っている程の湯治好きであることは、史上に明るい。

「でも、こういうのは無かったわよねー」
「ええ。この家の浴槽も木製ですが、なんとも言えない情緒があります」
「川の側にあるのとか、入ってみたいと思わない?」
「そうですね。それに……、……!?」

 山の幸に彩られた食膳が画面に映る。セイバーの視線は、その豪勢さを見てフリーズしてしまっている模様である。

「……なんと」
「へー。こんな趣向もあるのね。日本人が温泉好きになるわけだわ」

 目が輝いているセイバーを、横目で観察するイリヤ。その表情からは、ある一点に志向した意志が読み取れる。
 その瞳には、既に悪戯っぽい輝きが宿っていた。

「ふーん……」

 イリヤは意味ありげな微笑を浮かべ、セイバーへと一言。

「行きたい?」
「……!? ……な、何を言うのですか急に」
「えー、行きたくないの? 温泉でゆっくりのんびり、しかも美味しい山の幸……。シロウのお料理じゃないのは残念だけど、たまにはゆっくりしたいと思わない?」
「く……そ、それは……」
「表情に滲み出てるわ。ふふ、セイバーもやっぱり可愛いわよね」

 今度は明るく笑うと、イリヤはセイバーの懐へと飛び込み、下から見上げるようにして言葉を継いだ。

「おねだりしちゃえばいいんじゃない?」
「――――!?」

 そして再び、小悪魔スマイルでイリヤはセイバーを弄ぶ。

「シロウも、可愛いセイバーの頼みなら断りきれないでしょうし、ね」
「……………………!」


 そんな、莫迦な。
 ここまで日常シロウに世話になっていて、その上温泉旅行をねだる?
 厚かましいにも程があろう――――と、セイバーの理性は問いかける。


 が、本能に語りかけるのは――――そう、抗いがたい、湯煙の誘い。
 もしソレが適度な熱さだとすれば、それはもう至福の時であろう。
 湯上りに士郎と浴衣で情緒在る町並みを散歩したりして、帰ってきたら海千山千の幸が満載なのである。



 セイバーは、頭を抱える。負けるか、勝つか。内心の葛藤は果てしない。



 ……だが。
 端から、勝負は見えていたのかもしれない。


 湯の記憶。いつか味わった、身体の芯から緩まるような、あの快楽。
 どんな聖人であれ――――その感覚から逃れるのは、至難の業なのである。













「で、えみやんはどうするの? ゴールデンウィーク」


 などと聞かれたのは、本日の勤務中であった。さて、黄金週間。何も考えていなかったが、そういえば後一週間程でそんな期間に突入するのである。話題に上るのも、ごく自然なことであった。

「いえ……特に考えてはいませんが」
「ふーん。旅行とかないん? お友達と」
「……え」

 旅行。そう言われてみれば、それを考え付かなかったほうが不自然かもしれない。あるいはセイバーと旅行など、なんとも心躍るイベントではないか。

「……でも、もう流石に遅いですよね。どこも一杯でしょうし」

 世の宿という宿が既に、新約聖書冒頭並みの予約済みとなっているであろう今の段階では、もう遅いに違いない。
 全く以て、迂闊だった。予めカレンダーを見る習慣でもつけておけば、こういうミスも犯さなかっただろうに。

「ふふふ。そうじゃない、って言ったら、どうする?」
「え?」

 と。
 ネコさんはそんな俺を見て、我が意を得たり、というような顔をしている。

「心当たりでもあるんですか?」
「うん」

 あっさり頷くと、ネコさんは自分の財布から一枚の紙を取り出す。どうやら、名刺らしい。

「ここね、知り合いが最近始めた店なんだけどさ。足でかき集めた穴場宿ばっかり扱ってるから、興味があったら行ってみるといいよ」
「JRG旅行・深山店……ですか」

 Japanische Reisen Gesellschaft。そんな社名と、女の人の名前が書いてある。どうやら、その知り合いたる人は旅行代理店に勤めているらしい。そういえば、そんな店が4月の頭あたり、深山の商店街に出来ていたような記憶があった。

 しかし。……というか、これは、

「ドイツ語……ですね。でもコレ、英語に直すとJTび」
「はいストップ。それ以上は禁句、いい?」
「……いえっさー」

「ーですよね。訳し直しただけなんじゃ」、と続けたくなったが、それは取り敢えず触れてはいけないことらしい。が、一応の選択肢を与えてくれたことには、素直に感謝である。

「えーと、これ、貰っても?」
「うんそのつもり。これも営業、ってね」

 何の気なしに名刺をポケットに入れ、再び業務に精を出す。
 しかし、もし行けるのだとしたら……

(温泉とか、いいかな?)

 定番過ぎて自分でも唖然としそうなところだが、定番には定番になるだけの意味があるものである。
 とりあえずは、懐具合を確かめつつ。希望を聞いてみるのも、悪くないだろう。












 セイバーの様子が、何処かおかしい。


 ご飯時。支度を手伝ってくれるのはいいのだが、その端緒が、いつもの彼女らしくない。

「え、セイバーさん? 私がやりますから、休んでてくださ」
「いえ桜。いつも貴女にばかり負担をかけるわけにはいかない。今日は私にやらせてください」
「は、はあ……」

 ……と、中々迫力のある剣幕で迫るのである。かといって、特別なことをやるでもなく、普通にお手伝い、といった感じ。今日の晩御飯はカレーの為、特段の用事がない、という理由もあるのだが。

 しかし、到って普通のセイバー……という評価も、当たらない。

「……」
「……シロウ。今晩のお風呂には、温泉の素を入れても宜しいでしょうか」
「ん、いいよ」
「ありがとうございます。やはり、ツムラ名湯シリーズは格別です。
 時にシロウ、この前頂いた浴衣は何処にしまってあるのでしょう?」
「浴衣……ああ、箪笥の……何段目だったかな。後で見とく」
「ありがとうございます。温泉にはやはり、浴衣ですよね」

 ……と、やたらと温泉にこだわるのである。
 さて。これは果たして、どういうことだろうか?

「温泉、行きたい?」
「……………………………」

 軽く、ジャブを放ってみる。が、コレが案外効果的だったらしい。セイバー、平然とした表情を保っているが、それを見抜けない俺ではないのである。微妙に揺れるアンテナ、それがセイバーの感情起伏を表す、ということに気付いたのは、さて。何時頃だっただろうか。

 居間に視線を移すと、こちらを見てイリヤがニヤニヤしている。どうやら、昼間に何かあったらしい、と見当はついた。
 そして、テレビ。

「温泉かああああ。ひっさびさに行きたいわよねええええ!」

 某演歌歌手や某極道の奥様が出ている番組が、今当にオンエア中。画面の中で蕩ける旅人とシンクロしたか、画面前の虎までもが蕩けきった表情を見せている。

「こうさ、日頃の垢って言うのかな。教師に積もり積もった有形無形のストレス、一気に洗い流したい……いっそ、棲みたい。いいじゃない温泉郷、秘湯に住まう神秘の虎! 美女の経営する隠れ家宿。これ、引退後の理想よね!?」
「美女、っていうのは無理があるわ。でも、温泉でゆっくりのんびり、はいいかも。――――ね、セイバー?」

 最後の「ね、セイバー」に、やたらと力を籠めるイリヤ。
 とすれば、これはほぼ間違いないだろう。この番組、昼には再放送も行っている。二人がそれを見ていたとしても、何ら不思議ではない。

「なあセイ」
「――――いえ。これは、私の口から言わねばならない」

 くつくつと煮えるカレーが、食欲をそそる午後七時前。
 セイバーは俺を右手で制すると、丹田に力を籠めるように深呼吸をひとつ。
 伏せられた顔を上げると、そう。其処には、いつものように――凛々しい、気合の籠められた表情が現出していた。



 そして。



「――――シロウ。
 時代は、ゴールデンウィークで、温泉です」



 ――――と。
 何か、微妙にズレたことを宣うた。



「……え、えーと」
「…………………」

 言った瞬間の凛々しさは何処へやら。直後、セイバーは顔を赤くして俯いてしまっている。
 何故そうなるかは、分からない。だが、言いたかったことだけは理解したつもりだった。

「温泉、行こうか? ゴールデンウィーク」
「……………!」

 今度は、喜びの表情。パッと顔を上げたセイバーを見て、自分の読みが間違いでなかったことを知る。

(ネコさんに感謝しなきゃ、な)

 財布に入れてある名刺が、今はありがたい存在だった。
 温泉などどうだろう、と考えた先刻の自分は、なにやら電波でも受けていたのかもしれない。


 次の週末、二人で深山の商店街へ。色々とプランを見てみるのも、悪くないだろう。











「JRG深山支店……ここですね」


 店の前には色々プランの載っているパンフレット、あるいはポスター。建物も新しく、ガラス張りで店内の雰囲気も明るく、中では二組ほどが旅行の相談をしているようだった。

「いらっしゃいませー」

 扉を開けると、店の雰囲気を反映したような挨拶が帰ってくる。それだけでも、人間の印象は変わるもの。「入りやすい店」は、商売繁盛の基本線なのである。

 応対に出てくれた女性の店員さんが、カウンターの椅子をすすめてくれた。二人で腰掛けると、お茶が二つ前に置かれる。こういう所も、行き届いた店らしい。セイバーは店内に興味津々なのか、目が色々なところを飛び回っている感じ。

「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょう?」
「どうも。知り合いの紹介で来たんですけど……」

 そんなセイバーの様子に苦笑しつつ、ネコさんから貰った名刺を見せてみる。印刷面を見た店員さんは、どうやら渡した相手に心当たりがあったのだろう。

「あ、もしかして、衛宮士郎君? オトコの言ってた、大河の知り合いさん?」
「はい、そうです。蛍塚さんの紹介で」
「そういえば、そんな苗字だったわね。いつもオトコだのネコだの言ってたから」

 気さくな喋り方からは、大手の代理店には無い親しみやすさが感じられる。共通の知り合いを持っていれば、打ち解けるのも早いものなのだ。

「営業もしておくものね。えーと、今日は旅行の相談、でいいのかな?」
「はい。ちょっと遅いんですけど、ゴールデンウィークの旅行についてお聞きしたいんですが」

 4月も20日を越え、世は既に目前に迫った黄金週間に浮き足立つ時期を迎えている。こんな日程で旅行を入れよう、というのは本来おこがましい考えなのだろうが、彼女は特に気にした風も無い。

「ん、どっか検討してるところ、あるかな? ウチはこういう時期に強いから、色々用意できると思うわよ」
「あ、はい。近郊の温泉で、って思ってます。2泊3日で、男が1、2人、女性が……えーと、7、8人ですかね」
「ん。中々のハーレムぶりだね、少年」
「ハ……?! い、いえ、そんなことは」
「あはは。ところで、温泉なら何処でもいいのかな? 日にちはどうする?」
「そうですね、近場ならどこでもいいです。日程は、週末であれば」
「了解。ちょっと待っててねー」

 カチカチ、とキーボードを叩き、店員さんがパソコン画面とにらめっこを始める。
 と、店内観察を一通り終えたのか、セイバーは出されたお茶に手を伸ばそうとしていた。

「何か面白いの、あった?」
「そうですね。旅行代理店には初めて入りましたから」
「あ、そうなの? じゃあ色々パンフレットとかあるし、興味あれば何でも持ってっていいよー」

 キーボードを叩きつつ、店員さんはそんなことを勧めてくる。

「ありがとう御座います。それでは」

 セイバーはそれを受けると、予め目をつけていたのか、迷うことなくパンフレットをピックアップし、席に戻って来た。
 枚数にして6枚。近郊が多いのは、セイバーに地理感覚が備わってきた証拠だろうか。
 選ばれたのは、日帰りグルメツアーや、遊園地めぐりツアー。1泊、2泊の小観光もある。

「初夏の味覚もいいな。遊園地っていうのもアリか?」
「……え、ええ。USJには非常に興味がありまして」

 そういえば、この前ピーナッツ……所謂スヌーピーに異様なまでの興味を示していたのを思い出す。なるほど、これはUSJへの興味、というより、世界で最もユーモアのある、人間以上に人間らしい犬への興味、と言うべきだろう。

「行く?」
「……! …………い、いえ、……その……」
「あ、それならウチで切符取ったらいいと思うよ。色々サービスもあるからね」

 しっかり営業するあたり、意欲的な店員さんである。ともかくも、これは選択肢としてメモしておくべきことだろう。何より、可愛いもの好きのセイバーが遊園地に行ったらどんなことになるのか、見てみたい気がする。

「でも、日帰りも結構プラン多いんだな。セイバーは何食べたい?」
「初夏の味覚という意味では、コレなど如何でしょう」
「黒鯛か。なるほど」

 自分で調達してきてもいいが、旅で食べるフルコースにはまた格別の趣があるものだろう。温泉宿の楽しみもそこにあるわけで、勿論セイバーの喜ぶ顔が見られれば嬉しいものである。

 と。

「うん、大体こんなもんかな。出てきたよー」

 店員さんはモニターを回すと、開いている宿の情報をこちらに提示してくれた。いくつか在るが、料金や条件はほぼ同じ。違うのは場所くらいだろうか。

「凄いですね。この時期にここまで用意できるなんて」
「それはこっちの営業努力だね。例えば、繁忙期以外でもお客さん取って来るかわりに、ギリギリで対応できる部屋も取ってもらったり、とか。ウチみたいな駆け出しの店、大手さんで対応できないとこを守備範囲にしないと、ね」

 なるほど、と首肯しつつ、モニターのプランを見比べる。良さそうなのは有馬温泉の二つ。これなら、予算的にも地理的にも問題ない。

「んー……」
「お、迷ってる? どれかな」
「あ、この二つですね。ほとんど条件も同じで」
「確かにね。じゃ、プリントアウトしてきてあげる。そうね、返事は明日でもいいから、今日考えればいいよ。うん、久々にいいもの見せてもらったし」
「? いいもの、ですか?」


 話の飛躍に、多少戸惑う。
 いいもの、とはさて、何であろうか――――


「やー、若いっていいよね。うん、彼女さん、大切にしてあげなよ?」
「――――?!」
「…………な、なにを!?」
「だってさー、旅行の相談してるとこなんか、新婚さんみたいじゃん?」


 突然の発言に、むせるセイバーと、赤面する自分。

 その後は、もう何を言っていたか、よく思い出せない。





 それにしても……何でこう、藤村大河――蛍塚音子と繋がる人々には、こういう方が多いのだろうか。
 もしかすると、穂群原には、そういう人間を育てる土壌があるのかもしれない、と。


 セイバーと、江戸前屋の大判焼きを頬張る帰り道。
 俺は、そんなことを考えていた。
















「で、こんなプランがあるわけだ」
「なるほどね。有馬なら近いし、丁度いいんじゃない?」

 家人も集まる前の夕刻時、セイバーと俺、イリヤでプランを見比べる。ほとんど同じプランだが、やはり周りの意見が最終的な決め手になるだろう。

「内装はほとんど変わらないわね。景色はこっちの方がいいかしら」
「温泉の種類はこちらの方が豊富なようですが?」

 セイバーとイリヤ、着眼点の違いも面白い。藤ねえや桜ならどんな見方をするか、それも楽しみである。さて、時間的には、そろそろ――――






 と。
 次の瞬間。
 その人物が持つ雰囲気だけで、居間の空気が重く沈み――――そして、澱んだ。






「――――――――――――――――――――――」
「……ふ、藤ねえ……?!」
「タイガ、どうしたの!? そのマイナスエネルギー、怪獣が出るわよ?!」
「そうです大河! 同じ先生とはいえ、貴女では責任が取れない!」


 セイバーとイリヤの驚き方がマニアックなのは置いておくとして、魔術師のイリヤ、あるいはそういった雰囲気に敏感なセイバーが鋭敏に反応するほどである。それほどに、居間に入ってきた藤ねえの暗さが半端ではなかった。

 何か、あったのか。例えば、職場でセクハ……いや、それは二重の意味で無い。仮にあったとしたら、相手が冬木の港に沈む。そも、対象にならないだろう。そうではなく、あるいは休日出勤の疲労――――いや、これもいつものことと言っていい。


「――――――――――――――――――――――」


 そんなこちらの憂慮もよそに、幽鬼は部屋に入ってくる。その動きは、某ゲームの屍人にそっくりであった。
 そんな藤ねえはいつもの席に座ると、ちゃぶ台の上にぐったりと突っ伏し、延びる。

「タイガ? タ・イ・ガー?」
「……返事がありませんね。ただのしかば」
「セイバー、ストップ。それにしても、コレは……」

 完璧なまでの打ちのめされぶり。あるいは、死闘を繰り広げた後、失神KOで幕を閉じたレスラーの如く。……道着と虎マスクを被ったそんな姿を幻視したのは、果たして俺だけだろうか。

 だが、藤村大河、温泉は好きなはずなのだ。手許にあるプランを提示すれば、フリーズドライの味噌汁の如く、華麗な復活を遂げるに違いあるまい。


「ふ、藤ねえ。これなんだけど、どっちがいいかな」
「――――――――――――――――――――――」


 大河、僅かに動く。死んだ魚のような目で俺の提示した2プランを見ると、聞こえるか聞こえないがギリギリの音量で、ぽそりと質問を口にした。

「……これ、何?」
「何って……ゴールデンウィークの旅行だよ。藤ねえも、週末なら行けるだろ? だからプランを――――」


 そう。
 それは、俺がそう言った瞬間だった。















「休みが無いから落ち込んでるんじゃこのボケえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」













 引火した。

 そう、それは、戦闘力53万の宇宙人が「綺麗な花火」と形容したくなるほど、見事で派手な音量の爆発であった。


 俺は、結局の所、見抜けなかったのだ。ゾンビ藤村の発火点が、異様に低くなっていたことに。そして、藤ねえの周り――――沈澱した雰囲気は、まるで気化したオイルの如き存在だったことを。


 部活顧問の黄金週間休日返上が、高らかに宣言された、土曜日午後の穂群原学園。
 藤村大河の楽園は、其処で崩れ去っていたのであった。













「そっかー。残念だったね、それは」


 そして、翌日のJRG深山。俺とセイバーは断りを入れるため、JRG深山を訪れていた。
 だが、彼女も藤ねえの職業は知っていたのだろう。事情を説明すると、笑いながら申し込みの中止に応じてくれた。

「穂群原の伝説も、学校の決定には勝てない、か。うん、人間らしくて可愛いじゃない」
「本当に済みませんでした。わざわざ待っていただいたのに」
「いやいや、これでご縁が出来たんだから、それでいいわよ。ところで、デートコースにこんなのどう? 遊園地、行きたいんでしょ?」
「え、……えーと、その……」
「あはは、隠さなくてもいいってー。一日パスもつくプラン、沢山あるから見てってよ」

 強か、というのはこういうことを言うのだろう。温泉はご破算に終わったが、ゴールデンウィークの外出までは諦めなくてもいい。セイバーも色々行きたがっていることだし、ここは二人きりで――――というのも、アリかもしれない。


 そんなことを考えつつ、店員さん、セイバーを交えて、プラン選びに花を咲かせる。

 想いは既に、春の行楽へ。


 そして。
「温泉に行く」というキーワード。
 それもまた、自分のうちに、しっかりと刻み込まれていた。













 それは、ほとんど同時期のこと。
 当事者達の全く預り知らぬ所ではあるが、世界の各所で、以下のようなやり取りが行われていた、という。



 〜ローマ・バチカンのとある地下室より〜

「だから、日本ではカレーが美味しいんですよ♪ やっぱりアレが一番のおススメですね。香辛料の薬効も期待できますし、身体ボロボロの貴女にもピッタリのグルメですよ♪」
「……私は、湯治のことを聞いているのです。貴女のカレー談義を聞いているのではありません」



 〜穂群原・とある教室より〜

「なーなー、温泉行かねー?」
「……また突然だな、蒔の字。一昨日の旅番組か?」
「お、メ鐘も見てたか! いーよなー温泉。なあ、市長コネクションでどっかないの? 今からでも行ける、黄金週間の秘湯! 湯煙温泉旅情、殺人事件付きで!」
「無い。……しかし、温泉か。それも悪くないな」
「温泉なー。あたしは秋に行きたいかな。こう、役目を終えてはらはら落ちる紅葉を見つつ、一杯……風情だと思わない?」
「み、美綴さん!? まだ未成年だよ?! お、温泉は行きたいけど……」
「……同意するわ」



 〜冬木・とある洋館の一室より〜

「……しかし、ずっと寝てるとはいえ……」
「………………………………Zzz」
「女が風呂にも入らねえ、ってのはどうなんかね? ま、関係ないか……」



 世は、動く。そう、衛宮士郎、セイバーの想いとは別の所でも、世の中は回っている。
 それがどう結実するのか――――それは、神でさえも決めかねる、未来。


 それは、来る秋。
 湯煙旅情篇――@有馬温泉。



 あくまで、予定ですが。






 というわけで、軽く予告編など上げてみましたw まあ、予定は未定……なんですけどねw オールスターでわいわいがやがや温泉旅行させてみたいな、と思っていますので、それを脚色してみた、という感じですw

 実は久々の一人称文章でして、かなり感覚を取り戻すのに苦労しましたw 三人称を延々と書いていると、こういう反動が出るんですねえw 何か、新鮮なリハビリ、と言った感じでしたねー。

 ちなみに自分、USJ未体験(爆)。……どうしよう。そちらの予告編にもしようかなー、と思っていましたが、こちらは本気で未定ですw どうでしょう、体験済みの方、こんなのあったよ! とか、こんなの面白かったよ! というのあれば、少し教えて下さいませw

 最後に。ウチの帰還話ベースですと、実はこの日程は結構無理があったりします。帰ってくるのが15日なので、ちょっとセイバーさんがこなれすぎ、というかw 皆の進路などは全く考えていないので、一年経って〜という風に読んで頂いても構いませんw サザエさんのようにw 基本的には、帰ってすぐの話になるんですけどねw

 それでは、御拝読ありがとうございました! m(_ _)m



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