「ちっ」


 短い音、しかし、纏う圧倒的な威圧感が、周囲の人間を圧倒する。それだけの迫力が、彼女には備わっている。両儀式は、あからさまに不機嫌な表情をその整った顔立ちに浮かべながら、広大な東京駅構内を彷徨い歩いていた。

「なんだ、ここ……」

 彼女は、改札を出ていない。すなわち、ここが東京駅である、ことは間違いないはずである。

 だが、具体的な場所が分からない。「新幹線乗り場」に向かっていた筈なのだが、その「新幹線」という文字を記した看板を見なくなって久しい。

「……どうして、こう……」

 額に青筋を浮かべる勢いで、眉間にしわが寄る。それでもなお凄みのある美女であることは変わりないが、周囲に与える印象は「畏怖」の一言であった。両儀式は、東京駅構内で明らかに「迷った」のだ――――が、その事実は絶対に認めたくないし、気付きたくもない。否定しなければならない……と、結局、怒りのオーラが彼女を中心に拡散し、周囲の人間を戦慄させる帰結になっているのである。

「……阿呆みたいに広いんだ、この駅は……!」

 それは、仕方ないことである。あらゆる意味で、未だに東京は「日本の中心都市」であり、日本全国から人、モノが集積される地なのである。その物流、人の流れの基幹を担う「東京駅」がそれなりの……というか、かなりの規模になるのは当然の成り行きなのだ。

 だが、今の式にとって、そんな社会的事実は知ったことではない。人混み、目的地にたどり着けないイラつき――そして、そんな時に側に居ない幹也への苛立ち――もっとも、最後のひとつは八つ当たりのようなものだが、諸種感情相まって、式の不機嫌指数は高まるばかりであった。

「京葉……線?」

 京葉、すなわち、東京=千葉を表す単語。いよいよ以って、西進する新幹線とは関係なさそうな掲示が式の視界に入る。
 流石に延々と続くこの通路の先に新幹線は無いだろう。式は嘆息と共にそう判断すると、踵を返し――

「……ん?」
「え?」
「……!」
「あらあら、まあまあ」
「あ」




 ――その「四人」と、目を合わせることになった。




「やっほー! 式じゃない。こんなところで奇遇だね!」
「ああ、アルクェイドか。久しぶりだな……と」
「……両儀、式さん、ですね。お久しぶりです」
「秋葉、だっけな。久しぶり……、……」

 式はそう呟いた後、傍らに視線を移し、少しぎょっとした表情を浮かべた。

「翡翠、……と……」
「琥珀ですよ〜。あらあら、お忘れですか?」
「……いや、忘れたくても忘れられん」

 いつぞや、とある喫茶店での出来事が、式の頭を駆け巡る。琥珀の底抜けに明るい顔の造形は、式にとってはある種のトラウマと言っていい。何せ、彼女と瓜二つ、ドッペルゲンガーをこの世に体現させたかのような「ある魔法少女」に、「魂を入れ替えられた」のである。今だからこそ苦笑交じりに振り返ることが出来る過去だが、もし入れ替わったままだとすれば――そう考えれば、背筋が寒くなる事実であったことには間違いない。

「……ところで、式さんはなぜこちらに?」

 こほん、と咳払いをして、秋葉はそう切り出した。式からすれば、「こっちの台詞だ」と言いたいところだが、機先を制された以上はそれに答えるのが礼儀である。  ただ、素直に理由を話すのはおもしろくない。

 ……いや、違う。断じて、迷ってなどいない。すべては、幹也が悪いのであり。

「幹也のせいだ」
「?」
「……で、そっちもどっか出かけるのか?」
「あ、はい。私たちは新幹線で神戸に行く予定なのですが、兄さんのせいで……」
「……?」

 秋葉は遺憾の表情を浮かべ、兄・遠野志貴に対する恨み事を呟いた。兄のせいで……何だろう。式は少し疑問に思ったが、それを追及するのは止めておいた。どことなく、墓穴を掘りそうな予感がしたが故である。

 それより、話題としてはこちらだろう。

「神戸、か。オレもこれから神戸なんだよな」
「え、式も? ますます奇遇だねー」
「ああ、そうだな……?」


 ……いや。

 ……奇遇? 

 式の頭に、その単語が少し引っかかる。字面どおりに取れば、奇遇、とは、奇妙な偶然、を意味するはずだ。が、――この、状況。ここは、アーネンエルベという、あの異空間じみた喫茶店ではない。確かに日本最大という形容詞がつくとはいえ、ただの「駅」だ。まあ、普通の駅でも、時にはホームとホームの間に分数のついた幻のホームがあったりすることがあるようだが……彼女は、そんな知識を、子供に読み聞かせた小説から得ていたりもする。


 ……話が、逸れた。とにもかくにも、これだけの面子が揃っている。

 しかも、目的地も同じ、という。

 更に、旅行の発端になった、ある人物の名前。

「……橙子……」
「? 式さん?」
「……ああいや、なんでもない」

 ふと、そんな響きが式の頭に蘇った。

 ……まさか? それとも、やっぱり?


(――ま)


 そんなことは、どっちだって構わないのだが。しかし、善意悪意いずれにせよ、発端が彼女であることは変わりない。相変わらず、迷惑千万はなはだしいことだ、と、式は内心苦笑を浮かべざるを得なかった。

「それにしても……琥珀」
「はい? なんでしょう秋葉様」

 秋葉は周囲を見回すと、ため息と共に侍女のほうに向き直り、呆れたような表情を浮かべた。

「どうも、新幹線乗り場に向かっているようには見えないのだけど? 本当にこっちなの?」
「……んー、流石は秋葉様。難しい質問をなさいます! いえ、仰るとおり、確かにそうは見えません。ええ、私にも。しかしですね、習いたての占星術によりますと、確かに方角はこちらの方角を示しておりまして」
「……」
「――」
「……」
「――星?」

 翡翠、アルクェイド、式、三者三様の沈黙の後、秋葉は唖然とした様子で呟いた。

「琥珀。私は貴女に、『新幹線乗り場はこっちでいいのかしら』と聞いたわよね?」
「ええ、その通りでございます。遠野家の首魁たる秋葉様が余人に聞くのは恥と思い、せめて身内の使用人に聞くことで活路を切り拓こうとなさったのは良くわかっているつもりですから、私も精一杯お答えしようと思いました……ですが、秋葉様。私とて、東京駅は初参上……御屋敷内が生活のメインフィールドな身としては、碌なアドバイスが出来る自信などございませんでした。ですので、私の持ちうる手段でもっとも確度が高いと思われる方策で、導きうる最良の答えを提示させて頂いたのです!」
「……」
「――」
「……」
「――その星占いは、どこで習ったのかしら」
「通販で御座います秋葉様! ボーナス一括払いイチキュッパ、通信講座『エジプトな神秘! アトラス占星術の全て』です! ……ええ、私が頂いているのは実に少ない、すずめの涙ほどの給金……しかしながら、大切な秋葉様の、引いては遠野家の財を裾分けて頂いている身。幸い、衣食住に不自由がありませんから、何かしら主家に貢献できるものに使えれば、と思っておりましたところ、休憩がてら見ていたテレビで紹介されていたのでございます」
「……あ、アトラス……?」
「えー……まゆつばー……」
「……だな。現に外れてるだろ、それ」

 秋葉が形容詞に首をかしげ、アルクェイドがぽそっと呟き、そして、式も合わせて大きく頷く。星読みの類は確かに学べば習得できる類のものではあるだろうが、「通販」というのはいかにも怪しい。たとえ出自が怪しくても、その技術を「真」にしてしまうだけの凄みを持つ琥珀ではあるが、この場合は外れのケースと言っていいだろう。

「ええ、確かに今回は私としても失敗と認めざるを得ない可能性が高くなっていることは百も承知です……が、人間とは、失敗から成長の燃料を得るもの。まだ習い始めて三日、そういうこともあるでしょう! しかし、いつの日か通販型占星術から、薬物植物毒物の知識も交えて百発百中コハク式占星術へと昇華させるのがわたくしの夢なのです。なので、今回の経験も立派なこやしになってくれるでしょう!」
「――」
「……」
「……と、とにかく」

 場に流れた微妙な空気を払うように、秋葉が咳払いとともに切り出した。

「こちらではなさそうな以上、来た道を戻るべきです」
「わたしもそう思うなー。もしかしたら志貴もこっちを探してて、ミイラ取りがミイラになってるかもしれないし」
「……あ」

 式は、アルクェイドの言葉を聞き、思わずそう呟いた。……確かに、可能性は高い。志貴の性格までは知らないが、彼女の伴侶のことを考えれば、既にこちらを探し始めているとみて間違いない。

 が、彼女の言葉は、幹也に当てはめてみれば、正確と評することは出来ない。
 と、いうより、ありえない。


 なぜならば、幹也という人間は――――


「……あ、いたいた。おーい、式」

 ――殊。

「捜索」という一点に於いては、天下無双の才能を持っているから、である。

「いや、探したよ。ごめんね、ちゃんとホームの場所を教えとくべきだった」

 苦笑して、未那の手を引く幹也の目をしっかりと見据えた式は、思いっきり不機嫌「そう」な言葉を幹也に浴びせかけた。

「ったく、遅いんだよ。だいたい、先に行き方を教えとけばこんなことには……って……」
「あ、こちらの方々は……」

 幹也は、そこで初めて、式の側にいる者達に気付いたようだった。式がそのことに気付き、彼女達のほうを振り返ると、

「――」
「……」

 アルクェイドをはじめ、一向は狐につままれたような顔で立ち尽くしている。

 ……ああ。
 なんとなく、理由は分かる。

 式は、しかし、あえて自分から「そのこと」を切り出すことはしなかった。

 幹也はそんな式に気付いてか気付かずか、律儀に挨拶をはじめ、

「ああ、先日喫茶店でご一緒した。こんにちは。式がお世話に――」


「か、かわいい!」
「……!」
「あらあらまあまあ!」
「え、いや、嘘……こ、子供……さん?」


 四者四様の反応に、見事に言葉を遮られてしまっていた。彼女達の驚愕の対象は、視線の先にいる存在――娘の未那であることに、まず間違いないと言っていい。

 ――さて。

 天下御免の財閥当主。謎の妖しさを纏うメイド、謎の薬物知識を持つ使用人。そして、地球最強と銘打ってもおかしくない「真祖の姫君」。騒がしくも、それぞれが一騎当千、いや、三国無双と言っていいクラスの曲者達から注がれる、好奇の視線。未那は、それにどう対応するのだろうか? 式は、表面上仏頂面を続けつつも、そこに興味を魅かれないではいられなかった。

「――皆様、」

 当の未那は、そんな視線が自分に向けられていると知るや、父の右手と繋いでいた自分の左手を離し、姿勢を正すと、綺麗なお辞儀を以って、それに応えた。

「はじめまして。式、幹也の長女・未那と申します。父、母と皆様は旧知の仲であられるご様子。日ごろより、両親が世話になっております」

 両手を前にそろえ、適度なお辞儀をしつつ、丁寧に簡潔に自らの紹介を済ませた少女。正真正銘、彼女は五歳に満たない女児なのだが、端で聞いていた式も苦笑するほどの完璧な挨拶である。……いや、本当に。どんな大人になるんだ? コレは。

 そして、母である式でさえ、そんな印象を抱くのである。初対面である、目の前の女傑たちは――そう、式の予想通り。狐につままれたような顔で立ち尽くしている。

 ……ま、そうなるよな――と。

「ちょっと、式!」

 式が思いながら眺めていた、そんな呆然とした一行の中で、いち早く正気(?)を取り戻したのは、アルクェイドだった。彼女は式も一歩下がるほどの剣幕で式のほうに詰め寄ると、その美貌を式の眼前に、ずい、と寄せた。

「……な、なんだよ」
「なんでもっとはやく紹介してくれなかったのよ! 超かわいいじゃない、あの子!」
「……は?」

 言うだけ言うと、アルクェイドは俊敏に未那の傍らにより、彼女を両手で抱き上げると、思い切り抱きしめた。

 ……凄い腕力、と言っていい。

「え、えっと、あの」
「自己紹介ありがとう! わたし、アルクェイド。アルクでいいよ!」
「あ、はい、……アルクさん、で宜しいでしょうか」
「出来れば、アルク姐さんがいいかな?」
「わ、分かりました」
「……ああもう、ほんっと可愛いなあ! 人間の子供ってどうしてこう……!」
「……人、間?」

 アルクェイドの勢いとテンションには、流石の未那も翻弄されているようだった。さもありなん、と式は思う。かの真祖のお姫様は、文字通り「天真爛漫」なのだ。自分の運命を超えて尚、彼女はそんなあり方が出来るほどに高潔な精神を持っている。末恐ろしさこそ感じさせるものの、未だ幼児で世界を知らない未那には、新鮮な人格だろう。

 それは、さておき。 

「ええ、とても愛らしいレディですこと。こんにちは、未那さん。私は遠野秋葉。そして、こちらの二人が……」
「琥珀です! 以後、お見知りおきください!」
「翡翠です。よろしくお願いします」

 未那を見る四人の表情は、それぞれ緩んでいる。無表情に見える翡翠でさえ、微かに笑みをたたえているのが分かるほどだった。対する未那は、といえば、すましているように見えるが、戸惑いを隠しおおせるには至っていない。顔に、アルクェイドにいきなり抱き抱えられたときに浮かべた驚愕の色がまだ残っている。

 まだまだ青い、ということか――式はそう思い、くすり、と笑った。

「ところで、皆さんはどうしてここに?」

 そんなやりとりを笑顔で見守っていた幹也は、そこで初めて遠野家一行に問いかけた。秋葉が、それを聞いて渋面を作る。気位の高い少女であるがゆえに、「迷った」とは言いづらいだろう……と、式は、自分のことを棚に上げて考える。

 事実、そのとおりらしい。

「あはは、実はまよ」
「いえ、社会見学、と言ったところでしょうか。この翡翠と琥珀はあまり屋敷の外のことを知らないものですから、広い東京駅の隅々まで一度見学させるのも良かろうか、と考えまして」

 未那を抱きしめながら、笑顔で「迷った」ことを暴露しようとしたであろうアルクェイドを、光速で秋葉が遮る。完璧な社交笑顔。成る程、遠野家の当主という存在は伊達では無い。……発言内容は、荒唐無稽もいいところなのだが。

「そ、そうでしたか」
「ええ。ところで、幹也さんにお聞きしたいのですが……」

 後ろに控える侍女二名も、主に調子を合わせて「普段通りの」表情を浮かべている。そして、無言である。すべては、秋葉の意のままに。そういうことだろう。

「先程、そちらも新幹線で神戸に向かう、と聞きました。こちらは九時半ののぞみなのですが、そちらは……」
「ああ、それでしたらこちらと同じ新幹線ですね」
「あら、それは嬉しい偶然ですわ」

 ……うん。やはり、この少女は凄い。「社交用」の笑顔を一瞬も崩すことなく会話を続けている。きっと、純朴な幹也はこの笑顔を本物と信じるだろう――とはいえ、偽物と断じることも出来ないのだが。秋葉が「偶然の一致」を、心から喜んでいるのは間違いない。これで、目的地までは幹也に連れて行ってもらえばいいのだから。

 しかし……

(……奇遇……偶然、必然……あるいは)

 行き先が同じ、という時点で、既に相当の珍現象。しかし、更に同じ便でさえある、という。
 もう、驚きもしない。偶然ではないかもしれない、と考えたが、それにしてもおかしい。

(……どちらでも、ある……ね)

 ややこしいことを考えることすら式には煩わしかったが、現時点の材料で判断すればそうとしか言えなさそうではあった。それ以上踏み込むのは時間の無駄である。

 ――さて。

 果たして今後、どうなることやら。何も起こらないで済むとは思えない面々を眺めながら、式はひとつ、大きなため息をついた。
 しかし、表情は暗くない。もちろん、笑顔があるわけでもないのだが――ともあれ、少々、にぎやかな「家族旅行」になりそうだ――と。彼女は、そんな感慨を胸に抱いていた。

「では、ホームまでご一緒しましょう。折角ですので、そちらと親睦を深めるいい機会にしたいと思っております」
「ご丁寧にありがとうございます。それでは、行きましょうか」

 まんまと幹也の後ろについていくことに成功した秋葉をぼんやりと眺めながら、志貴と呼ばれたあの少年は拾えるのか、などと考えてみたりする。どのような世界の意図があるにせよ、この旅行はやかましく、騒がしく、輝いたものになるだろう。そんな予感をさせる光景が、式にそんな表情を浮かべさせていた。





 ――その、ほぼ同時刻。
 場所も同じ、東京駅。

「……全く、厄介なことになったものです。もう少し、まともな戦力を寄越してくれればいいものを」
「んー、こればかりは仕方ないですね。身内の、しかも手に負えない子供の不祥事ですから。切符がグリーン車なのが、せめてもの誠意じゃないですか?」
「……安い誠意もあったものね」

 広く、多種多様な人々が集う東京駅の中でも、その二人は「異色」と言っていい出で立ちをしていた。まずもって、その服装――修道女の僧服、というのが日本では珍しい。そして、それを着ているのは、二人とも見目麗しい少女であった。

「えーと……新幹線は九時半ですね。まだちょっとありますし、何か買っていきませんか?」
「カレーは止めてください。車内の方々に迷惑ですから」
「あはは、それくらい分かってますよー。カレーパンくらいにしておきます」
「……」

 ……それで手を打つべきか、もう一段階突っ込むべきか。いずれにせよ、徒労に終わるだろう――と、銀のウェーブがかった美しい髪を持つ少女は、ため息をついた。相手を弄り回して翻弄するのが彼女の趣味だが、この相手の、青の髪を持つ眼鏡の女はどうにもペースに巻き込めない。上司に近いポジションに当たる人物、というだけではなく、どこか飄々として、自分のような「毒」さえ代わらず平等に食べてしまう、というのだろうか……?

「さて、それじゃ行きましょう。せっかく公費で温泉にいけるんですから、楽しまないと♪」
「まあ、そこについては同意しますが」

 この任務は、ありとあらゆる費用が彼女たちの「上」に当たる機関から出ることになっていた。無論、第一の目的は任務の遂行であり、行き先がとある関西の温泉地である(予定)なのは全くの偶然に過ぎないのだが、そこはせっかくの「偶然」を活かすべきだ。その点では、銀髪の少女も、眼鏡のシスターも意識を共有している。  ついでにいえば、今回の任務の「馬鹿らしさ」についても。

(……そういえば)

 ふと、銀髪の少女の脳裡に、知己たちの顔が浮かぶ。上からの呼び出しがあったときには半ば諦めていた、温泉旅行への参加。しかし、形はどうであれ、行き先は同じになった。思い浮かべていたものとは多少違う「旅行」になりそうではあるが、空振りよりははるかにマシだ。

 さて。任務は気乗りしないが、名湯という存在に触れるのは悪いことではあるまい。何より、からかいのある諸兄淑女達が一堂に会している――そこに、この女も加わる。それだけで、胸躍る――――そう、とても胸が躍る、「修羅場」が予想されるではないか。

(……ふふ)

 カレンは、口の端に少しだけ笑みを浮かべ、先を行く彼女の背中を追った。
 波乱。胸に去来する予感は、彼女にその二文字を感じさせるものだった。





 つづく





 温泉話8話目は前回の続き、東京駅編でした。両儀家・遠野家邂逅&教会関係者登場篇ですね。ここに出ていないシオンさん以下も、今後出ていただくつもりですよー。

 今回は色々と遊びました。琥珀さんの占星術あたりが最たるものですねえw また、コミック版AATMのネタも交えています。あれ? それでいいの? アレはオールキャラクターでしょう? という疑問をお持ちのかたもいらっしゃるかと思いますが、解釈的には、アーネンエルベは常時存在するホロウの世界をイメージしております(笑)。この温泉話自体が私擬AATMっぽい位置づけなので、その辺りはあそびとして考えて頂ければ幸いです。

 にしても、琥珀さんは難しいw どのあたりまで暴走させていいか、測りかねているところがあります。まあ、アンソロなどの彼女を見ていれば、どこまででも行っていいのか、と思わないでも無いですが……ふむ。もっと研究が必要ですね。

 なお、背景には実際「京葉線」と書かれている看板がある東京駅のものを加工して使用しております(笑)。背景の加工に関しましては、サークルでご一緒させて頂いているすてまる様にご協力を頂いております。……ウチも写真屋さん持っていれば自分で出来たりするんですけれど、こればかりは仕方ないですね。

 さて、次回は衛宮家篇……の、予定なんですが、ちょいと今どっちがいいか考えています。もしかしたら、新幹線道中を先にやるかもしれません。宜しければ、またお付き合い頂ければ幸いです。

 それでは、お読み頂きましてありがとうございました!<(_ _)>  



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