「やっほーシロウ!!お祭り行こうー!!」
「先輩ー?お支度できましたかー?。」
玄関まで迎えに来てくれたのは、桜とイリヤ。
盆踊り当日、そろそろ町内も騒がしくなってきており、祭りの気分を高めてくれている。
「ちょっと待ってくれー。すぐ行くー。」
俺はというと、セイバーの着替え待ちである。俺が着付けを教えてあげられれば良かったのだが。セイバーは自分がやると言って聞いてくれなかった。どうやら遠坂を御師匠さまに、七夕に着ていた浴衣で練習を積んでいたようだ。
しゅる、という衣擦れの音は、ちょっとした刺激である。障子越しに動くセイバーの気配が艶かしい。
いや不純だね、どうも。
「お待たせしましたシロウ。………あの、入ってきていただけませんか?」
す、と。障子が少し開いて、セイバーの声が俺を誘う。楽しみであり、少し怖くもある。選んだ浴衣は、似合っているのだろうか?
中に入る。
そこで。俺はまるで、ど素人に弄繰り回されたPCのようにフリーズしてしまったのだった。
「あ………セイバー」
結局、二人で選んだものはごくごく単純な柄。藍色の生地に花火の柄をあしらったものだった。
それが、こうも――――
セイバーは、はにかんだ表情で品評を求めている。
俺は、――――あまりにキレイで、一瞬、声を失っていた。
「――――とても、似合ってる。綺麗だよ。」
そんな言葉しか出てこない。でも、それで形容するしかなかったりもする。それが限界。
「ありがとうございます。やはり、二人で選んだ着物ですから。」
思い出の一着になりそうです、と。セイバーは、喜びを顔いっぱいに表してくれる。
「初めて見せるのは、シロウにしたかったのです。我侭を言って申し訳ありません。」
それは、とても嬉しい言葉だった。
じっと見つめてくるセイバーと、顔を赤くしながら対する自分。
雰囲気は上々。
折角二人きりなんだから、ここは――――――
しかし。
俺の大それた野望は、見事に頓挫した。
「しーーーーろーーーーーう!!!まだなのーーーー???!!!」
はっ、と、我に返る俺&セイバー。甘甘モードに突入していた二人は、そこで現実に引き戻されてしまうのだった。
至近にある互いの顔を見つめあい、苦笑する。
「ふふ……。仕方ありませんね。続きは後にとっておきましょう。」
少し残念そうにセイバーは呟き、そのまま距離をとる。
置き去りにされた感もあるが、まあ、後の楽しみならまだまだわかるまい。ほろ酔い気分で、なんてことも期待しちゃっていいのかな。
「今行くよー!!
………じゃ、セイバー、行こうか。」
「はい。とても楽しみです。」
多少、名残惜しく。でも、祭りの囃しは確実に、俺たちを宴へと誘っていた。
玄関で待つ二人の少女を、和服美女と形容することにどこの誰からも批判されることはないだろう。どこからどう見ても完璧な着物美女&少女である。手にした巾着がまたいい感じ。
桜はその名の通り、桜をあしらった柄。可憐な感じがすごく良く似合っている。巾着はお手製だろうか?
イリヤは……藤ねえのお古?しかし、生地が新しそうなので、もしかしたら新調なのか。いずれにしても、虎柄が勇壮である。
「あ、セイバーさん。そのお着物、とても似合ってますよ。」
「シロウも浴衣?でも地味ねー。言ってくれたらライガのお気に入り持ってきてあげたのにー。」
確かに、白地に適当な模様が入っただけの味気ない浴衣である。そう言われても仕方ないが、セイバーのを褒めてくれたのは結構俺達にとっては嬉しいものだったりする。
「はは。待たせて悪かったな。二人とも似合ってるよ。」
「あ、あ、そ、そうですか?ちょっと、奮発したんですよ。」
「私のはタイガが選んでくれたの。どうかと思ったけど、着てみるといいものね。」
桜もイリヤも、お気に入りの一品だったようだ。やっぱり、夏の一大イベント。めいめい思うままに着飾るのが正しい過ごし方ってものだろう。
「二人とも似合っていますよ。おや桜、それは?」
セイバーは、手元の巾着を見つめている。ちょっぴり、羨望の眼差しが入り混じっているのに気付いたのは俺だけだろうか?
「あ、そうそう。巾着袋っていうんです。セイバーさんのもありますよ?」
そう言って、可憐な花模様の巾着を取り出す桜。良く見れば、色違いだが、三人ともお揃いの柄である。
「桜……。これは、本当によろしいのですか?」
「ええ勿論。二人とも盆踊りは初めてでしょうから。楽しんでもらえればと思いまして。」
「ありがとうございます。……ふふ。何か、温かい感じがしますね。」
浴衣も、巾着も、と、彼女は呟く。浴衣を二人で選んだことまでは秘密であるが。
「さ、行きましょう。お祭りが私たちを呼んでるのよ!」
大はしゃぎのイリヤ。やっぱり、お祭りなんか初めてだろうし、楽しみなんだろう。
家を出るとき、何となく、思った。
楽しいお祭りに、なりそうかも。
「あ、やっと来たわね。ちょっと遅いわよ?」
交差点では、遠坂が待っていた。レッドでキメた浴衣がカッコいい。
「あ、姉さん。ふふ、浴衣まで姉さんらしいですね?」
「そ?有難う桜。あらセイバー。綺麗じゃない。なに?士郎もスミに」
「っと、早く行こうみんな!俺腹減ったみたいだ!」
どうも、遠坂に対しては分が悪い。一発で見抜く辺り、性質が悪い。ついでに、知ってて暴露しようという辺り性格も悪い。
「へえー。ま、いいわ。貸しにしといたげるわね♪」
………貴女に貸しだけは作りたくないんだけどな。しょうがない。
普段なら、静寂のうちに侘びを感じるような柳洞寺への参道も、今日ばかりは趣を別にしている。既に夜店は立ち並んでいるし、人通りもかなりのものだ。
ちなみに、夜店の配置は毎年ほぼ同じで、非常に巧妙に配置されている。最初の方においてあるのは、携帯しても問題ないようなどんぐりあめとか、フランクフルト、はしまきなど、すぐ食べきれる類の食品。寺にあるのは、がっつりいける食べ物や、ゲームの屋台といった寸法である。
今年は少し夜店の数の比率が動いているようだ。多分、セイバーと俺が原因の一端を担っているのだが。
柳洞寺は先の聖杯戦争で全壊。再建の折、土地に余裕を持たせたので、屋台や櫓を組めるスペースが増えたのである。
「ふむ。なかなかに興味深い。リンゴが丸ごと入っているのですね。」
ぺろぺろ。しゃく、ぺろ。
セイバーはどんな食べ物でもよく似合う。
というか、早速請われてリンゴあめを買ってあげた俺は、やっぱり甘いのだろうか?女性四人、仲良くりんごあめ談義に花を咲かせている。
他にも物欲しそうなセイバーの目線が中々痛かったが、冬木の盆踊りは霊が帰ってしまった後も夜通し騒いでるので、夜店は帰りもある、ということを説明すると、その目線を取り下げてくれた。
いつもの長い階段も、人がこう多いと、普段の寂しさは全くと言っていいほど無い。
「お。みんな、やっと来たわねー!」
門をくぐるや、活気ある中で一段目立つ、虎柄の祭り装束に鉢巻を巻いた冬木の虎が、俺たちを迎えてくれた。
傍らに浴衣メイドが二人控えているのは目の錯覚なのだろうか。
「あ、イリヤちゃんもいるわね。話があるんだって。」
錯覚じゃないのか。奇妙な、というより、似合ってない訳ではないのだが、なんかこう………。
「二人ともやっぱり来たのね。あれほど必要ないって言ったのに。」
「お言葉ですがお嬢様。このような人ごみの中で、護衛もつけずに歩くのは危険だとあれほど申し上げた筈です!目を離すとすぐこのように………」
「セラ、とっても楽しみにしてた。」
「リーゼリット!余計なことを!………と、兎に角です!この先は私たちと一緒に行動して頂きます!」
素直じゃないなあ。イリヤと一緒に回りたいならそう言えばいいと思う。
で、イリヤはどうなんだろう?いつものように拒否権を………
「ふーん。いいわよ。だけど、タイガにも案内してもらうわ。初めてだからね。」
………発動することもなく、あっさりとついていってしまった。あれ?
くるりと振り返ったイリヤは、小悪魔スマイルを浮かべて宣うた。
「と、いうわけだから。お兄ちゃんはゆっくり楽しんでくるといいわ。
でも、油断は禁物だからねー。」
じゃあ二人も一緒にどうだ、と言う前に、撤退を決め込んだアインツベルンのお嬢。さて、いつもの彼女らしくない気もするのだが。
考えてる間に四人はもう夜店に繰り出したようで、タイガーイリヤコンビがメイドコンビと合体してちょっとした異世界をつくり出していた。
「イリヤさん、楽しそうですね。」
「ええ。さすが、一家の当主だけあります。臣の心に応えてあげるのも役目というものなのでしょう。」
なるほど。セラが素直じゃないことはリズとイリヤが一番良く解ってる、ということなんだろうか。ある意味、一番お子様なのはセラなのかもしれない。
「ま、いいわ。私たちは私たちで楽しみましょ。ほら士郎、女の子にお金出させないでよね?」
そう言われると思って、貯金はしっかり下ろして来ている。悲しいかな、その辺ぬかりはない。
「ではシロウ、早速グルメと行きましょう!」
セイバーの意気も上がる。まあそりゃそうだな。見渡す限り、食べ物屋とゲーム屋の山である。これは、大変な出費になりそうだ。
そんなこんなで、暫く夜店を一軒一軒念入りに食べ歩いた。セイバーはよほど感激していて、余りにも目を輝かせて注文するものだから、サービスも結構多かったりする。
ゲーム屋台ではセイバーの負けず嫌いが炸裂。だが、それもまた微笑ましいのでよしとするべきだろう。
それにしても、である。
「桜、この珍妙な食べ物は一体?甘くて美味しいのですが、不思議な食感だ。」
「綿菓子っていうんですよ。お祭り以外ではあまり見かけませんからね。」
「ボリューム無いから、セイバーにはちょっと物足りないかもね。」
「む。凛、それでは私が量ばかり追い求めているように聞こえます。量は二の次、まずは質こそが大事なのです。
………ごちそうさまでした。」
「ふふ。でも、セイバーさんの健啖家ぶりは見てて気持ちいいくらいですよ?」
「それは、シロウと桜の腕がいいからです。ええ。質量共に最高級の料理人が二人も居てくれるとは、私はなんと幸せか。世が世なれば高給で召し抱えを考えたでしょう。」
「あら、私もお願いしたいものね。セイバーの城ならさぞいいお給料だったでしょうし。」
「もちろんです。凛の中華料理もまた絶品だ。
おや、ここはたこ焼き……ではないようですね。明石焼き、ですか。スープの中にたこ焼きが?」
「そういう食べ方もあるんです。地元では“玉子焼き”っていうらしいですよ。だしでたこ焼きを食べるんです。
セイバーさん、タコはもう大丈夫なんですか?」
「はい。シロウに特訓して頂きましたから、あからさまに生でなければ大体は。
しかし、出汁で食べるたこ焼き、興味深い。店員の方、一つ所望できますか?」
「私もー。」
「私もお願いします。」
…………年頃の娘さんの会話ってのは、こうも割り込みにくいものなのだろうか。
「……おじさん、俺にも一つ。お茶ももらえますか。」
何となく、疎外感を感じる。顔なじみの組員さんに救いを求めるが如く、三人に追随して明石焼きを注文した。
「はいよ。しかし、大将もスミに置けないねえ。両手どころか、抱えても持ちきれねえ位の花をお持ちになってる。」
「はは……。持ちきれないって所だけは確かかもしれませんね。儲かってますか?」
「そりゃあもうね。ここの住民は舌が肥えてるから、こっちも手は抜けねえってもんですが。」
アツアツの明石焼きを吹いて冷ます。こいつをいきなり頬張るとちょっとしたしっぺ返しを下されるので、こちらも用心が必要だ。
しかし、お隣のお嬢さんに先に注意してあげるべきだったことに気付く。
「はふ?!ひ、ひほう、ほれはほへもはふいふぇふね」
セイバーがいきなり頬張ったのか、熱いのを口の中で持て余しているようだった。ちょっと涙ぐんでいるところが可愛らしい。
「食べながら喋るのは良くないぞー。それに、これは一個ずつ食べた方がいい、って、もう遅いかな。ほら、お茶。」
言って、ペットボトルを差し出してみる。セイバーは渡りに船とばかり、一口口に含んで、冷まそうと試みていた。
「はふ……ふう。……いや、驚きました。中までああもアツアツだとは。
しかし、素晴らしい味だ。ソースとはまた違った趣がありますね。」
「そうですね。だしがよく効いていて……。そうだ、セイバーさんが気に入ったんなら、今度家でも試して見ましょうか?」
「明石焼きか。そういえば、たこ焼き機もお蔵入りのままだしな。一回やってみよう。」
「自宅でもこの味が食べられるというのですか?!素晴らしい。冬はベストおやつにカウントできそうですね。」
嬉しそうに、セイバーは目を輝かせる。うん、そうだな。今度、自家製のダシを研究しておかないと、彼女の舌を満足させることは敵うまい。
「それにしても、ねえ。」
ぽそっと。遠坂が、ニヤニヤしながら呟き始めた。
こういう時の遠坂は碌なこと言わないもんだけど――――
「さらりと間接キスなんて、士郎も結構やるじゃない?」
「ぶっ……!!」
「ふふん。ま、いいんじゃない?今更、間接なんてメじゃないんでしょうし」
言わんこっちゃ無い。こういう時、事実に反論する術が無いのが恨めしい。
「あのな、遠坂。ここは公共の場だ。そういう不穏当な発言は謹んでだな。」
「あら、なによ。オアツイのを見せ付けられるこっちの身にもなってほしいんだけど?ねえ桜。」
ひどい言い草だ。オアツイのが好きなら、自分だって恋人の一人くらいすぐ持ってこれるだろうに……!
助けを求めるようにもう一人を見やる。桜は俺たちの味方、だよな?
「せ、先輩!」
あれ?桜の様子が…………
「わ、私も!口の中が、あつ――」
「あ、桜。こんなとこにいたか。そろそろシフト回ってくるから出勤だぞ。」
唐突に、美綴が表れた。シフト、とは……ああそうか。弓道部主催の茶店があったっけ。
「え、あ、ホントだ。こんな時間……。うう。ひどいです、先輩……」
俺の方を見て、恨めしそうに呟く桜。
いや……なんでさ。
「じゃ衛宮、また後で。セイバーさんも連れて、屋台に金落としてってくれよー」
からから笑いながら、これまた唐突に去っていく美綴。恨めしそうな桜の顔がちょっと怖い。何かしたのか、俺。
「…………納得行かん。」
「アンタが納得しなくても世界は回るのよ。さて、と。私もお暇しようかな。これ以上はお邪魔虫だもんね。」
じゃーねー、と、これまた笑いながら去っていく遠坂。
………なんだかな。勝ち逃げされた気分は如何ともし難いが………。
「…………シロウ。」
「どうした?」
「ごちそうさまでした。」
見れば、ちょっとサービスされていた明石焼きは綺麗に平らげられていた。こちらのやり取りは耳に入っていなかったのだろうか。
「はは……。そうだな。じゃあ、次行こうか。」
こちらも急いで残りを食べて、次なる楽園に向かうとしよう。
折角、二人きりになれたんだし。
――――が。
問屋っていうのはやはり商売上手であり、そう簡単に言い値では下ろしてくれないのだった。
二人でベビーカステラをつまんだり、ヨーヨー掬いにチャレンジしてみたり。ひもが切れても、彼女は負けず嫌いだから何度でもやり直そうとして、そんな向きになる可愛い彼女を見て微笑ましく思ってetc.
そんな甘い妄想は幻想に過ぎない。こんな公共の場で、対価もなしにそんな時間はやってられないのだった。
まず出会ったのは蒔寺、氷室、三枝。
「ふむ。衛宮士郎、隅に置けぬな。最近金髪美女の伴侶を得たとの情報、確かだったようだ。やはりセイバーさんでしたか。」
氷室鐘。グレーのシンプルな浴衣をさらっと着流している。
「出所は…………また、後藤か?」
セイバーはきょとんとしている。そのきょとんは、意味が解ってないのか、当然ではないか、という意思表示なのか、どっちだろう。後者ならちょっと嬉しい。
「なぬ?!そんな情報あたしゃ聞いてないぞ?!おのれ衛宮、遠坂というものがありながら何たる不埒な悪行三昧!あの愛夫弁当、ウソだったのか?!!」
蒔寺楓。言っちゃ悪いが、イメージとは程遠い高級感溢れる浴衣である。素人の俺が見てもその生地の質が半端じゃないのは解った。
というかな。なんてこと吹き込んでくれたんだお前。
「な……シロウ?!貴方は凛に……?!」
ほら言わんこっちゃ無い!火の手が!しかも激しく!!
「ちーがーう!!蒔寺、話をややこしくするな!!」
「ふわー。でも、お似合いですよー?」
三枝由紀香。浴衣において一番シンプルな藍の地に幾何学模様の浴衣だが、不思議とそれがほんわかしていい感じである。そして、頬を紅くしながら嬉しいことを言ってくれる所もありがたい。
そしてこちらもまた、顔を赤らめて嬉しそうな表情に変わるセイバー。うん。この三人は、こっちの心臓に非常によろしくない。
「ふふ、蒔の字。こう見えてこの男はやり手のようだぞ。いや、無意識のうちにやり手と化しているところが尚更厄介と言うところか。」
「そーそー。全く、スミどころかローカにも置けないっつーの。」
「あの弁当箱も、嬢せめてものアピールだったのかもしれんな。」
「かぁーっ!健気だねえ遠坂!…………って、アイツがそんなタマか!」
相変わらず漫才みたいな組み合わせだ。因みに俺も、遠坂の件はうっかり隠し忘れたほうに一票を投じたい。あれ程ばれない様にしろ、と申し付けておいたのに……。
いつか吊るす。
「さて御両人、楽しんでこられるが宜しかろう。セイバーさんも、日本の祭り、心行くまでお楽しみください。」
「ええ、ありがとうございます。」
「それじゃ、また。頑張ってくださいね!」
何を頑張ればいいんだろうか?三枝さんの意味深なガッツポーズがちょっと引っかかった。………後藤(多分)はどこまで吹き込んでいったのだろう。
こうして三人は喧々諤々、楽しそうに去っていった。そういえば、後藤よりむしろ蒔寺の方が情報発信源としては怖いんだよなあ。何とかならないだろうか。
「相変わらず、元気な人たちですね。」
セイバーは嬉しそうだった。そういえば、同年代の女の子と話をする機会はこの時代で初めて得たはずだし、遠坂や桜以外とはあまり会うこともないだろう。おしゃべりっていうのは、彼女にとって貴重な体験に違いない。
しかし、いつか、これが普通になってくれればいい。それが、現実を生きる少女にとって至極当然のことだし、そうなった時には、ホントにこの時代に溶け込んだ、と胸を張って言えるようになるだろうから。
「そうだな。蒔寺なんかはある意味バーサーカーみたいなもんだし。」
「ふむ、狂戦士、な。が、あれはあれでそれなりに女らしいところもあると見るが。」
次いで表れたのは、一成だった。
一成、だっ、た。
「………………。」
「こんばんは。どうです。セイバーさん、祭りは楽しんでいますか?」
………………毎年、このカッコウには驚かされるのだが。
当人は到って冷静なのである。なんでも、柳洞家の伝統だとか。
「おお、一成、その装束は一体?」
セイバーは興味津々である。
無理もないだろう。
捻鉢巻。
法被。
腹巻。
褌。
気合入ってる、と言えばこんな装束を指すのだろうか?
「これですか?いやなに、盆踊りの太鼓は柳洞家の男の仕事でね。自分も不肖ながら、受け持っているのですよ。」
初めて見たときは零観さんとセットだったっけな。普段クールな美男子で通ってる分、どこの誰かと本気で思ったのが懐かしい。
ふむふむ、と頷くセイバーに、一成は説明を続けた。
「やはり、盆踊りは地域の定番行事。寺の子として、疎かにするわけにはいきませんのでね。
しかし………ふむ。セイバーさんの浴衣は衛宮が選んだのか?」
………………。
やっぱり一成、遠坂と波長が似てるんじゃないのか。
「そう。二人で選んだんだけどな。」
一成の中では俺たちは夫婦認定らしいので、こんな話題も平気で出せたりする。からから、と、いつものように笑った一成は、
「やはりな。衛宮の趣味は隠せぬようだ。大変お似合いですよ、セイバーさん。今日は存分に楽しんでいってください。」
「ありがとう一成。ダンスの時の太鼓、期待しています。」
「最善を尽くしましょう。ではな、衛宮。」
そう言って、去っていく一成。
法被に染め抜かれた「祭」の一字が輝いて見える。
「いや、驚きました。一成は毎年あのような装束を?」
「そうだな。ああ見えて、太鼓は結構勇ましく叩くぞ?後でわかると思うけど。」
零観さんにはまだ及ばないが。
「太鼓ですか。踊りは、だれでも参加できるのでしたよね?」
「うん。セイバーも踊るか?体験してみるのも面白いかもしれないし。」
「ええ、是非。シロウに教えてもらいたいですね。」
「勿論そのつもりだよ。さ、次はいか焼きだな。」
「いか焼き………とは、やはり烏賊を焼いたバーベキューのような?」
「そういうのもあるけどな。卵入りのが美味しいんだ。おじさん、二枚ください。」
「卵ですか。なるほど、それは面白そうです。」
踊るなら腹ごしらえもしなくちゃいけないし、な。
さて、今度こそ二人きり。気の済むまで食べ歩くとしましょうか。
その後、更にいくつかの味をセイバーに味わってもらった後、弓道部茶店によることにした。あれだけ主食級を食べたら、お茶が恋しくなるのである。
「お、やっと来たか衛宮。セイバーさんもお変わりなく。」
「ええ綾子。貴女も元気なようでなによりです。」
「………いらっしゃいませ、先輩、セイバーさん。………こちら、メニューになります。」
なんとなく桜の視線が怖い気がする……。気のせいだろうか?
因みに、この茶店は伝統的に我が校の弓道部のバイト先である。伝統といってもここ最近だが。あまり多くない部費の足しにすべく、藤ねえにかけあって実現した屋台なのであった。
「では、みたらし団子と緑茶を所望します。」
「俺も同じのでいいか?あー、やっぱウーロン茶がいいかな。」
はいよー、と、営業スマイル全開で奥に行く美綴。結構な繁盛なのは、やはり美綴と桜という二大マスコットガールのなせる業なんだろうか。
「………あれ、衛宮先輩?」
「そ。大事なお客様なんだから、粗相ないように。私、飯だから。しっかりやっときなよ。」
後ろの方では、美綴姉弟の会話が聞こえてくる。さて、普段はどんな力関係なんだろうか。美綴の射に関する弟評を聞く限りでは、正直実典に勝ち目はなさそうである。
「お待たせしました先輩。ったく、美人の彼女持ちなら諦めてこっちもさ………」
ぶつぶつと呟いて、注文の品を置いていく少年実典。さて、桜との仲は進展してないのだろうか。この茶店はチャンスだと思うのだが。
「ちょいと失礼。はー、疲れてるとソースヤキソバも天上の美味だね。御両人は仲良くやってるかい?」
美綴が俺たちに並んで緋毛氈に腰を下ろす。浴衣は桃色で、女の子らしいデザインを見事に着こなしていた。
「む。綾子には仲が悪く見えるのですか?」
団子をパクつきながら、ちょっと不満そうに口を尖らせるセイバー。ちょっと嬉しい。
「いえいえ。セイバーさんがあんまり幸せそうな顔をしてらっしゃるからね。ちょっとからかってみたくもなったんですよ。
しかし、衛宮も度胸ついたもんだねー。」
「度胸?なんでさ。」
「だって、こんな大衆の目が光りまくってるところで、そこまでアツアツカップル振りを披露してるってことは、もう度胸以外の何様でもないだろ?
ほら、さっきから後藤あたりが密着レポしてるの気付いてなかったか?」
「な…………に?後藤が?!」
ふと視界を索敵モードにしてみると、斜め前方45°に、甚平を着て某改造バイク男の面をつけた、見慣れた髪型が目に映る。視線が合うや、V3はさっと人ごみのなかに紛れ、こちらとしては追いようもない。
「ち、あいつ……!」
「あはは。こりゃ、夏休み明けが楽しみだね。ヤツの連絡網は侮れないらしいから、明日から夜道は気をつけたほうがいいかもよ?衛宮♪」
くっ、楽しそうに言ってくれる……!!ニヤニヤしながら、昼間の芸能レポを楽しむような口ぶりの美綴。が、その笑顔には邪さが無い。純粋に楽しんでいる風である。思うに、遠坂のように自ら策すのではなく、成り行きを楽しむタイプなのだろう。
「せいぜい気をつけるよ。……はー。油断したなあ。」
「しかし綾子、何故夜道に気をつけるのですか?勿論私が護衛しますが、聊か今の会話の流れが良くわからない。」
「ああ、そうですね。うん。人の恨みは怖いってことかな。負の感情ってのは人をどこに持ってくかわかんないんでね。」
「はあ、負の感情、ですか……。」
イマイチ掴みかねているセイバー。護衛されない昼間の学校の方が怖い気がしてきた。
「あはは、あんまり気にしないで下さい。それにしても、御似合いだねえ衛宮。あたしもそろそろ考えないとなー。」
「茶化すな。お前の縁談まで俺は面倒みきれないぞ。」
「そりゃそうだ。いや、一つ勝負があってね。それに勝たなきゃいけないんだけど、中々好みの人っていなくてさー。」
「綾子は、どのような殿方が好みなのですか?」
「やっぱり、武芸を修めた人が一番ですかね。それでいて風流で、さらに男らしかったら言うことなし、かな。」
中々に高望みである。理想を挙げれば確かにそうなるのかもしれないが。
そういえば、そんな槍使いも居たような………。
「ごちそうさま。さて、また私は仕事だから、また今度。楽しんでってください。」
「ありがとう。」
再びエプロンをつけ、愛想をふりまく美綴。ここでの儲けは部活動と打ち上げに関るので、それなりに本腰なのだろう。
と、櫓の周りに人が集ってきている。
「そろそろ踊りも始まるかな?」
「メインイベントですね?楽しみです。」
「んー、まあ、冬木の盆踊りはそのあとの宴会も含めだからな。」
が、儀式としては中核に違いない。セイバーに付き合って食べ歩いたので、かなりお腹が重いところではあるが………。
「俺は次のからにしようかな。ちょっと動くにはしんどいし………と」
ふと、人の気配をかんじて前を向いた。そこにはいつかの蹴球少年がいる。
「おや、トリスタンではありませんか。
浴衣、似合っていますよ。」
少年の顔が、少し、いや、かなりわかりやすく紅くなる。こういう年頃は、えてしてそういうものだ。………ちょっと危機感を覚えぬでもないが。
トリスタン少年は、それには答えず用件を切り出した。
「あ、あのさ。そこの兄ちゃんと盆踊りに来たのか?」
「ええ、そうです。シロウに案内していただいています。初めてのお祭りですが、中々に楽しいものですね。」
「そ、そっか。じゃあ、踊りもその兄ちゃんと?」
少年の言わんとすることがわかってきた。さて、どうしようかな。ちょっと、ジェラシーを感じぬでもないが、ここは………
「そうですね。シロウに教えを請おうと思っています。」
「あー、それなんだがな、セイバー。」
一つ、少年の勇気に応えるとしよう。
「ちょっと食べ過ぎたみたいでさ。次のクールからは大丈夫だと思うんだけど、最初は彼に案内してもらっていいかな?」
え?と言う顔のセイバー。
マジ?!という顔の少年。
でも、次から、と釘を刺すことは忘れないところ、俺も器がちっちゃいなあ。
「は、はあ。シロウは、それでよろしいのですか?」
「うん。門辺りに居るから、声をかけてくれればいいよ。」
にじみ出る嬉しさを必死に隠そうとする少年と、何も気付かないで無邪気に踊りに参加しに行くセイバーを見送る。いくら子供とはいえ多少は複雑な気分にもなったが、ここはぐっと我慢である。ああ、こんな時は酒でも喰らってちょっぴり切ない気分を忘れたいもの………
「しーーろーーーー!!一緒にのもーーーー!!!!!」
………茶店の横は、藤村組の皆さんが集う本部のようなテントである。その中でイリヤとリズが若衆さんと輪になって宴会をしていた。藤ねえは踊りの準備があるのか、不在である。
セラは真っ先に潰されたんだろうなあ。藤村の若衆は盃をすすめるのが上手い。ぐったりして寝息を立てている。
「未成年は飲酒禁止だぞ。建前は。」
「いいのよ。治外法権って言葉を知らないの?ここは天下の藤村組屯所よ!公権力なんて怖くないんだから。」
イリヤ、その発言はどうかと思うぞ。
「そうそう。衛宮の旦那も固いこと言っちゃあいけねえよ。ささ、一杯。」
「お酒、おいしい。」
リズや若衆さんも、めいめいで楽しんでいるようだ。これも一つのお祭りの楽しみ方と言えよう。
「まあ、お祭りですしね。それじゃ、頂きます。」
盃を受けながら、しばし歓待を受ける。リズやイリヤにお酌なんかしてもらって、これはこれで悪くない。何はともあれ、セイバーが行ってしまった寂しさは、十分にまぎれてくれた。
そのまま三十分ほどすごしただろうか。どうも、酔いが回るのが早いようだ。
「いい飲みっぷりでしたね、旦那。そこそこきつめの酒だったんですが。」
「………ごちそうさまでした。ちょっと外で風に当たってきます。」
「あ、シロウはもうおしまい?ついていってもいい?」
「や、ちょっと一人で落ち着きたいな。イリヤ、また後で、踊りの時に会おう。」
「んー、ま、シロウがそう言うなら退いてあげるわ。ちゃんと教えてよ?」
そんなやりとりをして、テントを後にした。
少し、喧騒から離れたい。静かなところで、一服入れるとしよう。
「ふう。飛んだ災難だった、な。」
まだ、頭は多少クラクラしているようだ。山門の近くで座り込み、一休みすることにした。
――――さあ。
一つ、腰を下ろした俺の横を、風が通り過ぎていく。夏真っ盛りのはずだが、不思議と風は心地よい。
――――さあ。
木の葉が揺れる。壁の向こうでは大勢の衆が祭りを楽しんでいるはず。それなのに、この静寂はなんだろう。
音は、それだけ。
さあ、と。葉と葉が触れ合って奏でる共振は、一番心和む音色なのかもしれない。
まるで、俺だけが別世界に迷い込んだような感覚。だが。不思議と悪い感じはしなかった。何か、懐かしい。
さて。この、感覚は――――?
――――。
どれくらい経ったのか。時間も空間も、なにかあやふやな感じ。
そんな中で。ふと。
聞き覚えのある声が、かけられた。
「ふむ、セイバーのマスターか。連れはどうした?独り身では祭りも寂しかろう。」
「――――え?誰―――?」
辺りを見回す。しかし、ヒトカゲなど存在しない。あるのは塀と、森。
が、声ははっきりと、俺の耳に届いてくる。
「さて、聞き覚えが無いのなら多少物覚えが悪いというものだ、少年。よもや、忘れたとは言って欲しくないな。」
誰も彼もない。言葉を交わした回数は少ない。だが、その声音は、そうそう忘れられるものでもなかった。
しかし。そんなはずは無いのだが―――
「姿が見えぬと気味が悪いか?どれ、少々疲れるが、少しは見えやすいようにしてみるか。」
――――。
俺の目の前に、信じられないものが表れた。
はっきり実体とまでは行かない。だが、それは目視するには十分な濃さを持つ。
そこには、確かに。
「佐々木、小次郎………アサシン、か?」
「明答だ。なに、懐かしい顔が座り込んでいたものでな。昔語りも野郎とでは趣が半減しようが、この際構うまい。祭りの夜に嘗ての戦相手と語らうのも、あるいは風流と言えるやもしれぬ。」
…………いや、ちょっと待ってくれ。いくら酔っているとは言え、これは無いだろ。
「………よっぽど酔ってるか?俺。……幻覚に、幻聴?」
「なるほど、酒が入っているのは確かなようだが、幻とはあまりな言い草だ。
なに、英霊としても至極中途半端な呼び出し方をされたのでな。幽霊として残留してしまったらしい。」
…………中々凄い理屈である。だが。
「待て。それが正しいとして、なんで霊のアンタと話せるんだよ。」
「さて。そのあたりの事情には疎いが、盂蘭盆はあの世と衆生界の境目が曖昧になる時期なのだろう。
我ら英霊が霊体化することを“知って”いる。そんな人間ならば、こうして霊が彷徨っていることも理解することができるのだろうよ。」
………無意識下で存在を理解してしまってる、ってことか?………無茶な。
「魔女の手練を覚えているのでな。実体にはなれぬが、目視くらいはできるようになっただろう。」
「………で、浮いてるのはアンタだけなのか?」
「ふむ。そうとも言えるし、そうでないとも言える。何、そちらの方は気付くこともあるまい。」
………?
意味不明な言い回し。今の頭には、それを追求するだけの回転数が足りない。酔っ払いは物事を深く考えることを放棄する。
「………ま、いいか。酒でも持ってれば良かったな。」
「霊に飲めるものがあれば………いや、手向けに使うならばそれも良かったかもしれぬ。」
「手向け?誰か、いるのか。」
アサシンは、すぐには答えない。
少し懐かしそうに、境内の方に視線をやった。
「――……一応な。
これでも根は律儀な方だ。かつての主人夫婦、菩提を弔ってやるものもおらねば化けて出るやもしれん。幽霊でもないよりはマシだろう。
知る由も無かろうが、アレは仲睦まじい夫婦だった。」
「え………。もしかして、キャスターと、……?」
「左様、葛木宗一郎だ。そちら側から見れば無慈悲な魔女だったかもしれぬが、中々どうして人間らしい部分もあった。
そうだな。熱さ加減では、セイバーとそのマスターにも劣るものではなかっただろう。」
「…………ちょっと待ってくれ。なんで知ってるんだよ。」
くくく、と、皮肉屋っぽい笑いを浮かべるアサシン。
「何、この門に依ってはいるが、今の自分は地縛霊でもなければ怨霊でもない。
時には街に下って花を愛でることもある、ということだ。」
………最悪。こいつ、どこまで見てるんだろう。
「………次から気をつけるよ。」
「ふっ。冗談だ。盗み見などは趣味ではない。が、熱気に当てられて、ということもあるからな。」
……………言ってくれる。前から口が回るとは思っていたが、俺程度では相手にもならないようだ。
―――――さあ。
風はどこまでも清く、涼しい。
アサシンと、セイバーのマスター。かつて、互いの立場で対峙した者。
戦場は、遠い。あれから、半年が過ぎた。
「色々あったな……。」
思いを馳せれば、感慨に尽きるところはない。
出会い。
戦い。
別れ。
「一介の門衛にわかることなど少ないが。………だが、良しとすべき経験だったのではないか?
少なくとも、そうだな。あの折よりは成長しているように見えるな。」
――――そして、再会。
「そうか?そうでもない気がするけど………。」
それもこれも。彼女が居るから笑って話せることだ。
「男子3日会わざれば刮目して見よ、という。自分に自信を持つことだな。
日進月歩。目指すものがあるなら、道を過つこともあるまい。側で支える者があるならば、尚更だ。」
当たり前のようだが、それもそうかもしれない。それしか見ないのでは、周りは見えない、か。
「為になるな。アンタと話してると。」
「なに、口が回るだけだ。それも、道楽の一つだがね。」
「よく言うよ―――と」
「―――ロウ。シロウ、いらっしゃいませんか?」
門の方から、探す声が聞こえる。
時を忘れての歓談。だが、それも、終わるときは来るのだ。
「人気者よな、少年。あれほどの女子に惚れられるのは冥利に尽きるだろう。」
「ん。惚れた自分も褒めてやりたいけど。」
さもあろう、と皮肉っぽく笑う幽霊。
「よいしょ……と」
「行くか。」
「そうだな。そろそろ、あっちに戻らないと。
会ってくか?セイバーも、もしかしたら喜んでくれるかもしれないし。」
刃を交えた相手でも、戦場を過ぎればこうして語りあえる。セイバーとなら、尚更だろう。
―――しかし。
「申し出はありがたいが。遠慮しておくとしよう。なに、思い人が居る女子に懸想するのは無粋というもの。何時かまた、遠くから愛でさせてもらうとしよう。」
アサシンはそう言って、申し出を断った。
「そうか。………それじゃ、また、会えるか?」
「………縁があれば、な。せいぜい、化けて出るような死に方をしないことだ。」
「忠告受け取ったよ。またな。」
瞬きを、一つした。
語らった姿は、早、無い。
――――ユメか現か。
ただ、楽しかった事実だけが残る。
――――さあ。
風だけがただ、俺の横を吹き抜けていった。
「シロウ、ここに居られましたか。探しましたよ。」
「ん。セイバー、もういいのか?」
「ええ、そうですね。トリスタンに教えてもらっていましたが、他の子供達にどこかに連れて行かれてしまいまして……。抜け駆けがどうとか。」
「はは……。そりゃ、災難だな。」
「それでですね、その」
セイバーは、なにかもじもじしている。
「あの、もう一度、シロウと夜店を回りたいのですが……。踊りも是非、指南して欲しい。」
可愛らしく眼差しを向けてくる。その申し出を断るなど、誰が考え付くだろうか。
「了解。今日はとことん付き合うよ。」
「本当ですか!?では、早速!」
セイバーは俺の手を取り、まだまだ喧騒続く境内へと誘った。
――――最後。去る前に。
「じゃ、またな。」
見えぬその男に、声をかけた。
「?どうかしましたか?シロウ。」
「いーや、なんでもないよ。さ、行こう。」
楽しい祭りへ。まだ、夜は長いのだから。
思えば、不思議な夜。
夢か現かも知れぬ語らい。
だが、そんな時間も、決して悪くはなかったと思う。
夏の夜は深く。
遼き戦友と語らった時を、俺は忘れない。
と、いうわけで、夏祭り編お送りいたしました。ゲストはアサシン小次郎さんw 正直、最後の場面だけが最初のネタでしたが、どうせならオールキャストの夏祭り情景でも出してみようと思いまして、そこそこ長くなりました。前半は、甘さ成分補正w
もちろん小次郎君の残留理由は御都合主義全開。キング・オブ・風流 in Fateな彼は、セイバーさんを除けば一番好きタイなサーヴァントなのです(次点槍アニキ)w ぼーっと今回のような話を考えたので、ご登場願いました。これから出てくるかは………出した方がいいですか?w
なにぶん長いもんで、チェックの及んでないところもあろうかと思いますが、御容赦くださいませ。
それでは、御拝読ありがとうございました!!
面白ければ是非w ⇒ web拍手
書架へ戻る
玄関へ戻る
|