「ふぅむ……」
正月二日、冬木市新都・総合商業施設・ヴェルデ。多種多様な店があるこの施設には、当然案内板が欠かせない。そのうちのひとつ。1Fの広場に設置された売り場案内の前で、金髪碧眼の少女が腕を組みながら唸っている。
「がお? がおー」
「おっと、少し待ってくださいセイバーライオン。そうですね、あと二分で、行き先を決めます」
その少女と「そっくり」な、ライオン少女――と、形容すればいいのか――セイバーライオンに手をくいくい引かれた彼女、セイバーは、そう言うと、再び看板に目を向けた。
一月二日。新春初買い。正月に話題に上り、次々と情報が伝播して参加人数が増えに増え、衛宮家に関係する人物の大半が参加することになったこの「買い物」。セイバーもまた、士郎に貰ったお年玉を握りしめ、こうして消費のために参画しているのだが――
「……うーむ……」
「がうっ」
セイバーは、ヴェルデに到着して十数分、未だに看板の前で腕を組んでいた。迷っている間に待たせるのも悪い、と、一緒に来た人々にはめいめい先に行ってもらっている。普段は果断の人であるセイバーだが、珍しく逡巡していた。
その悩みの内容は――ずばり、「お年玉の使い道」である。
正月、衛宮家で皆揃って新年のお祝いをしていた時、士郎からもらったお年玉。額にして一万円。時折アルバイトに出るようになったセイバーではあるが、この臨時収入は非常に大きい額である、と言っていい。
さて、何に使うか。貰った時、セイバーは士郎に「自分のために使うんだぞ」と念を押されていた。そのシーンを思い出せば、セイバーには苦笑いが浮かぶのだが、ともあれ、そう言われた以上は「自分のため」に使うことを基本に考える必要がある。
そこで、セイバーは使い道を何パターンか考えてみた。半分貯金して残りはおやつ、一挙全額投入で欲しいものを――など、思いついたプランは5つほど。しかし、どれも甲乙つけ難い。「コレ」と決めるには、どれも「自分のやりたいこと」である以上、差異、決め手に欠けるのである。
「……セイバーライオンは、もう決めているのでしたか」
「がうっ! がおっ!」
「ほほう……肉の食べ比べ、ですか……」
「がおがおーん!」
「なるほど、新都と深山の精肉店を周り、買った肉をシロウに調理してもらうのですね」
「がうっ! がおっ!」
迷えるセイバーは、同じく士郎からお年玉をもらっているセイバーライオンの意見に耳を傾けた。野生な彼女の欲望はシンプルで、まっすぐだ。一万円もあれば相応の肉が買えるだろうし、士郎の手による料理であれば大満足の使い道になるに違いない。
振り返ってみれば、セイバーも、どのプランを選んだところで、相応の満足を得られるだろうことは明白だった。逆に言えば、どのプランを取ってみても、はずれのプランが出来るのである。そう考えたセイバーは、もう一瞬だけ考察して、自分の行き先を決断した。
「……ふむ」
このプランであれば、「自分のため」にお年玉を使うことになり、かつ、場合によっては、士郎にも楽しんでもらえるかもしれない。
「それでは、行きましょうか、セイバーライオン。お肉は生ものですので、最後でいいですね?」
「がおがおーっ!」
セイバーはセイバーライオンに声をかけると、手を取ってエスカレーターへと向かった。さて、新春初買い。先にそれぞれ買い物に向かった家人や友人のうちには、目的地を同じにする人物も居るだろうか……?
(つづく)
そんなわけで、新春記念SSのはしりをアップしてみました。あけましておめでとうございます!
本来なら大晦日にSSを考えていたのですが、あまりの多忙で果たせず(笑)。そして、何故に今回冒頭のこんな箇所で切れているか、といえば、本人が絶好調風邪気味なうえ、ヒマな筈の三が日に相当な用事が入りこんだため、だったりします。申し訳ない……(−−;
と、それはともかく。短めになるとは思いますが、セイバーさんの「初買い」光景を書いてみようかな、と考えています。宜しければお付き合いくださいませw
それでは、お読み頂きましてありがとうございました!
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