混沌と言ってしまえば簡単だが、それ以上に何かしら狂っていたような宴会は、盛況のうちに幕を閉じた。
 参加した銘々、酩酊した者、酔いつぶれた者様々だが、最後には一様に「また来年も」と口を揃えていて、




 それがとても、嬉しいことに思えていた。




「セイバー?」

 二時間で抜けきるような酒量では無かったが、それでも頭が素面に戻るには十分な時間。撤収も終え、皿洗いを済ます頃には10時を超えていた。
 今こうして、セイバーの部屋を訪れているのは、まだ眠れない理由があるからで。

「あ、シロウですか?少しお待ちくださいね……」

 かさこそ、と、多少焦った様子でセイバーが動く気配が感じられる。先日ミスタードーナツでポイントゲットしたポンデライオンクッションが大層お気に入りな王様が、部屋の中で何をしていたのか非常に興味深いところだ。

「どうぞ。」

 セイバーの許可と共に、障子を開け、中に入った。手にしたお盆には、お茶を二つ。

「これはありがたい。今丁度、台所に向かおうかと思っていたところでした。」
「ん、じゃあ丁度良かったな。はい、どうぞ。まだ熱いから気をつけて。」

 自分とセイバーの前、湯飲みを二つ。セイバーは笑顔のまま湯飲みを引き寄せると、そのまま息を吹きかけて冷まそうと試みる。……何度も見る光景だけど。非常に愛らしさを感じるのは俺の気のせいなのだろうか。

「ん……はあ。素晴らしいお手前です。
 時にシロウ、何か御用があったのでしょう?」

 そう。どうせだから。一度見たモノでも、空の色が違えば随分と趣が違うし、何より飲み食い騒ぎは楽しかったが、花を専心で見る、ということはああいう席では望めないわけで。


 何よりも、自分が、そこに行きたいと思っている。


「ああ。今から、桜を見に行かないか?」
「桜、ですか?ええ、勿論、シロウと散歩に出かけるのはやぶさかではないのですが……しかし、突然何故です?」


 そう言ってもらえればこっちもとても嬉しい。ちょっと訝しげな顔を浮かべるセイバーに、おそらく彼女が未だ見たコトがないであろう景色の名を、告げた。


「今日は月も出てるし。夜桜が綺麗だと思うんだ。」













 満天の星に美しい月、もいいものだが、そこに桜色が加わるとソレは一層胸に迫る景色となる。どんな数寄を凝らした趣向も、こんな夜には敵いそうも無い。


 思うままに伸びた木々に、電球が一つずつ介添えをして。それは、どんな舞台照明より雄弁に、今宵の主役を引き立てる灯となる。


「―――――………………」


 セイバーと手を繋いで、夜中、人も少なくなった公園をもう一度回っている。昼とは別の顔を見せている公園の花。セイバーは静かに、じっと見入っていた。

 昼間、大騒ぎしていた辺りを通り過ぎる。喧騒がウソのようだが、何気ない言葉でも「また来年」と言ったコトは記憶に残っている。


「―――――夜桜、とは」



 感嘆が籠もった声だ。どれほどまでの感慨が籠められているのか、そんなコトが、じかに伝わってくるような。


「かくも、素晴らしいものなのですね。」
「ああ―――――」






 本当に、美しい。






 この夜行は、昼間急に思いついたようでもある。でもやっぱり、大分前から心にあった予定であることを、今は否定しなくていい。皆で楽しむ桜も良いが、やっぱり二人で見たい、という気持ちが抑えられず。



 去年は。一緒に、見られなかった花の下で、共に歩いている。



 きゅ、と、セイバーの手に力がこもる。



 一つ前の年、同じ場所で、胸に迫っていた思いはどんなものだっただろう。そして、当時の俺は、それをどう受け止めていたのだろう。
 あの頃は、ただ、セイバーが居なくて。それを、当たり前のように受け止めているような自分が居て。
 

 その時は、認めてやれなかった思いが、今、胸を一杯にしている。
 誰も、どんな運命も、二人がこうしていることを妨げてはいない。


 今は、そんな想いを肯定できる。



 あの、何より気高く美しかった彼女と。満開の桜を、眺めたいと思っていたのだ。



「………シロウ。」



 頬をつたうのは、一筋の涙。去年同じ場所で、流すはずだったもの。憂うことなき今。今その想いが、溢れ出てしまっている。

 そっと、セイバーが涙を拭ってくれた。これじゃ形無しだな、と苦笑しようとしても、中々思うように行かない。


「セイバー、と、」


 あくまで柔和に微笑んでくれている彼女に、精一杯の気持ちを、伝えようとして。
 

「一緒に、見たかったん、だ。去年は、無理だった、から。」


 嗚咽が、上手く発音することを許してくれなかった。それでも――――


「ありがとうございます、シロウ。」


 ちゃんと、セイバーはわかってくれていた。


「――――私も。
       ここでこうして、貴方と居られる奇跡が、嬉しい。」


 目を閉じて、そっと、俺の胸に手を起きながら。


 さあ、と。側を吹き抜ける風が、また桜の花を少し散らし、心の雲も晴らしていく。


 彼女が居る今に。彼女を、この世界に戻してくれた奇跡・・に、感謝した。


「そして、皆と過ごせる日々が、何より楽しいと思っています。今日、ここに居られることも含めて。
 本当、いつまでもこうしていたいくらいに………。」


 だが、それは叶わない。桜の花はすぐに役目を終え、土に還って行く。

 だけど、また来年、同じ季節でなら。


「セイバー……」

 少しだけ、欲をかいた。自分も、そこに居たい、と。そう、思えるようになったのは。

「来年も、見に来ような。皆と、……それと、二人で。」

 ――――――どんな、心境の変化だろうか。

「――――――ええ。是非。」




 これからも、大切にしたい人々のことを思う。
 こころの中に満ちた、あたたかい気持ちに抱かれながら。


 幻想的な景色は、ゆっくりと、そうすることを許してくれるように感じられて。
 もう少しだけ、愛する人と。こうしていたいと、そう思った。








 桜前線はかなり北上してしまいましたが、季節ものをお届けにあがりました。

 前半は、これからも当館SSではキャラクターさん達に変わらぬご愛顧を、という意味をこめて、それなりの人数を出してみたり。後半では、甘さ分を補完してみたり。

 ほんのちょっとだけ。士郎君が、周りと、自分とのかかわりを見つけてみたり。

 そんなSSでしたw お楽しみいただければ幸いなのですがw あと、ちょっとだけ帰還一周年SS(たぶん、開架一周年記念w)の前フリがあったりします。

 各キャラクターのお酒強度が少し違っているかも……。案外皆飲むという先入観があるのですが……w

 それでは、御拝読ありがとうございました!!



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