「あけまして、おめでとうございます」
年越し蕎麦、紅白、格闘技、そして行く年来る年。旧年度は喧騒の内に去り、気持ちも新たに新年を迎える。
その足で初詣。沿道の夜店など冷やかしつつ、帰った後は冷え切った体を風呂で温める。その後は……うむ、まあ、新年だし、ね。
おせちの準備は旧年度中に完遂。大掃除も完璧にこなし、自分が言うのもなんだが家が輝いて見えている。
そして、セイバーと二人で初日の出を見、せっせと新年初の朝餉支度をして、今。
「今年もよろしくお願いします」
眼前に展開する光景に、思考フリーズ。
ええ、うん、よくぞやって下さった遠坂師匠。
時刻は、午前八時半。普段から入り浸り人の多い我が家だが、紅白を見て、除夜の鐘が鳴ると同時に、年越し蕎麦を共に食べた住人の殆どが一度自らの持ち場に帰っていった。大晦日〜元旦未明にかけてはそれぞれ用事も多いのだろう。組の定めに老人介護、暗黒ミサにアルバイト。種類は人それぞれだが、社会的地位には責務も伴うのだから、仕方ない。
というわけで、今は遠坂、セイバー、俺の三人しか居ないことになる。遠坂は家に来る途中で初日の出を見たらしく、その辺りはどうやら気を利かせてくれたらしい。……そう、やっぱり黎明というのは、俺とセイバーにとっては大切な時間なのである。
で、初日の出の直後に現れた遠坂は、予め用意していたことを実行に移していたのだった。セイバーと共謀……という意味では、中々やると言っていい。男、というより、主夫の悲哀はこういう所にあるのだろう。本来は俺が気づいてあげなくてはいけないことなのだが、年末の家事にかまけてその辺りのことはすっかりお留守になってしまっていた。ホント、どうしようもない。セイバーのそれはとんでもなくキレイだというのに……。
「……シロウ、その、どうでしょうか……」
「……似合ってる。物凄く」
艶やかで、あった。
振袖の遠坂、そしてセイバー。鮮やかな赤の前者、白を基調にした後者。どちらも、彼女達の美をより伸張させる素晴らしいチョイスになっていた。
因みに、発注はアインツベルンだそうである。やった、毎年違うデザインを調達できる――しかも、身銭を切らず、と。遠坂が腹の中で思っているかどうかは、明らかでない。
「あらあら。新年そうそうお惚気ね……。ま、構わないけど」
「と、遠坂がそう仕向けたんだろ!」
「だって、聞いたらそんな話はしてない、ってセイバーが言うんだもん。振袖のひとつくらい用意してあげなきゃ、可哀想でしょ」
「……その通り、です」
「よろしい♪」
セイバーと遠坂が二人でなにやらやっている間、既に配膳は済んでいる。御屠蘇におせち。すこしずつ頂く酒と、目のやり場に困るような二人の美女。いい気分になるには事欠かない環境、である。
……やっぱり、正月はこうでないと、いけない。
「あけましておめでとうございます」
「…………………」
「―――――――」
「……………ウソ」
次の来客は、居間でくつろいでいた俺と遠坂を震撼させた。セイバーが迎えに出てくれていたのだが、そのセイバーでさえ驚きで声を失っている。
「……あ、あの、何か、おかしいのでしょうか? 一応、きちんとデパートで採寸していただいているのですが」
「あ――あ、いや、全然そんなことないぞ。うん、あけましておめでとう。今年も、宜しく」
バゼット・フラガ・マクレミッツ・ウィズ・フリソデ。
……不覚である。バゼットとて乙女であることを、何故忘れていたのだろうか。
おそらく、遠坂もセイバーも同じだったはずだ。そしてまた、その振袖が似合っているのである。
「そ、そうでしたか……。それはありがたい。奮発した甲斐があったというものです」
デパートの、ということは、去年の歳末に企画でやっていた呉服市だろう。確か、相応の高級呉服店主催だったから、相当値が張る逸品のはず。流石、職は不安定でもブルジョアである。……因みに彼女は、年始をコンビニバイトで過ごしていたはずだ。
しかし、本当に意外であった。その理由は、ひとつに集約されるのだが、それを言うのは流石に――
「でも意外よね。てっきり、着るなら羽織袴で来るものだとばっかり思ってたわ」
言った。言ったよこの人。己遠坂、人の家だと思って……!
「……ミス・遠坂? それは如何なる意味でしょうか。私とて、いつまでも男役トップとか言われ続けて安穏たる気分で居られるとは限らないのですよ」
「ま、待てバゼット! 振袖にグローブは似合わないから、な?!」
全く以て。
……正月から大工仕事だけは、ご勘弁願いたいものである。
しかし、そんな自分の希望を完膚なきまでに打ち砕くのが、この後来る人々だったりするのだ。
「あけましておめでとう。こう言うのだったわね、この国では」
「あけましておめでとう、カレン。今年もよろしく」
「ええ。……でも不思議ね、人間は。一歩一歩確実に寿命に近づいているというのに、目出度いだなんて……」
自ら神の国を志向するはずの善き基督者は、どこぞの禅僧のようなことを言い始めた。年始からいきなりコレである。流石はカレン・オルテンシア。年越しミサに赴いた人は精神汚染されなかっただろうか。甚だ心配である。
「でも、良く着付けできたわよね。知ってたの?」
「これくらいは、少し学習すれば出来るものです。“わざわざ店まで赴いて自らの財産を費消していた何処かのコンビニ店員さん”とは、訳が違います」
「…………………言いましたね」
寒くなったのは、冬の所為ではないだろう。因みに力関係では明確に下位にあるカレンが平然としているのは、当然こちらが抑止力になることを知っているから。性質が悪い。
「待てバゼット。暴挙に及ぶなら教会でやって欲しい」
「く……」
「あら、ひどいのね……。人々の信仰対象を破却しようなんて、正義の味方の名が泣くわ……」
「…………」
年が変わっても、変わらないものは多く存在する。
聖女の毒舌も、そんなもののひとつだったらしい。
そして、変わらないと言えば。
「帰ーってきたぞー♪ 帰ーってきたぞー♪ ふーじむーらーまーん!♪ あけおめ! ことよろっ! デュワ!」
「Frohes neues Jahr! シュワッ! ところでタイガ、私はIQレスラー? 100勝投手? どっちの方?」
「んー、そうね、精々、ツインテールが関の山?」
「言ったわねタイガ……! ツインテールは海の中では強いのよ!」
かくして、大晦日の公共電波に大いに影響を受けた英語教師(独身貴族)と小悪魔(本物貴族)は格闘を開始する。速攻で襷掛けなどするものだから、折角の晴れ着が台無しである。似合ってるのにな、二人とも……。特にイリヤは、本当におてんばお姫様そのもの、と言った感じである。
まあ、半分想像してはいたが、実際来てしまうとその半分が全部になるからどうしようもない。こればかりは正月恒例。イリヤが加わって、手が付けられない度は更に上がっている。
「ぎゃー! 貴様、何処でそのとび蹴りを……!?」
「流星キックをなめてはいけないわ! 何時までも負け犬でいるのはカッコわるいことなのよ、タイガ!」
こちらの忠告など怪獣には聞き入れられるはずも無いので、ここは傍観しかない。やっぱり、結局は大工をやる羽目になるんだなあ、と、流石に溜息のひとつくらいはつくのだが。
「……イリヤ、何時の間にあんなに強くなったの?」
「さあ。バリヤーでも破ろうとしたんじゃないのか……」
「……? ところで、ツインテールって? 私?」
「美味しいエビ、ですね」
「……セイバー、ちょっと違う」
ああ、また障子が……と、少しお酒が身に染みる。 まあ、いいか……。生中継で格闘技が見られると思えば……レベル高いし、な。
「あけましておめでとうございます!」
「よ、あけおめー」
そして。
似た感じの桜色の晴れ着が艶やかな、美綴と桜。二人が入ってきて、場はより一層賑やかになる。
しばらくはこのまま……というか、毎年こんな正月になるような気がして、仕方がなかった。
「ふふ、どうしましたか? シロウ」
そんな喧騒の中、セイバーは落ち着いたものだった。隣に座っていると、着物姿の彼女に心音が高鳴るのは、さて。酒のせいだけではないだろう。
「いや、まあ……慣れたもんだけど、騒がしいな、って」
「ええ。ですが、それがこの家のいい所です」
セイバーはそう言うと、空になっていた俺の猪口に吟醸を注ぐ。
「ありがとう」
「いえ。では……改めて」
ささやかに乾杯。うん、そう、こんなのもまた、お正月のいいところだろう。
「今年も宜しくお願いします、シロウ」
「ああ。こちらこそ」
互いに少し笑って、杯を酌み交わす。
今年もまた、セイバーと共に歩むのだ……と、これはそんな、約束の杯になるだろう。
と。
「先輩……? ふふふ、なんだかいい雰囲気ですねぇ……」
「さ、桜? わ、顔赤いぞお前……! 大丈夫か?」
「へ? 先輩わぁ……わたし、が、酔っ払ってるっていうんですかぁ?」
「や、そのままだろ……って、美綴! 桜に何飲ませた!」
「ん、別に? アタシはただ桜の話を聞いてただけさね。ま、酒量が進む話の内容ではあったけど」
「先輩……許しません。今日という今日はぁ……許さないんですからねぇ……」
絡み酒、である。 セイバーは既にタジタジ、桜は何故か背後から黒いオーラを発し、ジリジリと詰め寄ってきた。
なるほど。
やはり今年も、騒々しい家になるらしい。
だが、それも悪くは無いだろう。
楽しく元気に過ごせれば、それは素晴らしいことなのだから。
謹賀新年。
どうか今年も、良い一年になりますように。
というわけで、即興SSでしたw 大晦日の話題も少しずつ盛り込んでありますw 特にタイガーとイリヤの件は、ちょっとウルトラマン知らないと厳しいかも……w
今年も一年、どうぞ宜しくお願い致します m(_ _)m と、そんな意味を籠めて。多分、どっかに幽霊もいたんじゃないでしょうかw 美女がこれだけ集れば、彼もよってくるでしょうからw
それでは、御拝読ありがとうございました!
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