「結局のところ、タップとクリックはどう違うのでしょう」

 と、可愛らしく首を傾げているのは、アルトリア“セイバー“ペンドラゴン。かつて、ブリテンにて名を馳せた騎士王である。カルデアと「衛宮邸」に謎のパスが出来てから数か月。今では時折、カルデアに顔を出しては散歩するまでになっている。

「さて」  そんな彼女の手には、端末が握られている。もとい。ちょこんと乗っている、と表現したほうがいいだろうか。  一般的なスマートフォンよりは大きく、タブレットの中では小ぶり、という程度のもの。背面にはカルデアの紋章が刻まれた、シルバーメタリックのデザインである。

 これが何か、というと。一節で表現するなら「カルデアの構内ネットワーク環境を用いた快適生活補助端末」ということになる。

「なるほど、SNSの機能はほとんどTMitterのようなものですか」

 SNS以下、基本的な複数機能が積まれているもので、セイバーはその使い勝手を試しているのであった。  少し操作してみて、得心し、彼女は少し微笑んだ。勝手は分かる。「カルデアッターベータ版」という全くひねりのない仮称が掲示されているあたりがサービス黎明期を感じさせるが、使うことに支障はなさそうだ。

「それ以外だと食事や生活雑貨の注文も可能、と。カラオケの食事注文に似ていますね。……カルデア食堂@エミヤセレクションコーナー……? なんでしょう、このフリーダムっぷりは」

 笑えばいいか渋面を作るか微妙な心持になりつつ、彼女は画面をタップする。
 さて。なぜ、正確に言えば「カルデアの所属ではない」「ゲスト的な立場である」彼女が、この端末を使っているか、というと――。




  ☆




「はあ。外部モニタリング、ですか」
「うん、そのとおり」

 時間は、2時間ほどさかのぼる。カルデア散歩に来ていたセイバーは、廊下でばったり出逢ったルネサンスの偉人、ダ・ヴィンチちゃんから工房へと招かれた。そこで手渡されたのが、「その端末」である。

「見たところ、タブレット端末、ですね。あれと大差ないように思いますが」
「そうだね、その見解は正しい。ただ、わざわざモニタリングをするだけの理由もあるんだ」
「ほう、というと……」
「まあ、まずは起動してみて欲しい」

 言われるまま、セイバーは電源ボタンを押し、端末を起動させる。
 すると、画面には可愛らしくデフォルメされたセイバーの顔アイコンと、「SNS「発注」「通話」「写真」と大きく記された4つのボタンが表示された。アイコン横には「アルトリア“セイバー”ペンドラゴン」と、アルファベットで記されている。

「カルデアにどんどんサーヴァントが増えている、というのは知っての通りだ。サーヴァントである以上霊体化も出来るが、そこはほら、『第二の人生』という表現は的確では」なかもしれないが、せっかく日常生活も経験できる機会なのだから、快適なカルデアライフを送ってほしい、というのが我らがマスターの考えでね」
「なるほど」

 それは、大いに理解できる。現に彼女も、遠い時代を超えて現代に縁を持つ者である。これが貴重な機会でなくて、いったいなんだろうか。
 そして、彼女も知る「カルデアのマスター」であれば、その日々が充実することに心を砕くのは自然なこと、と思える。その人柄は公明正大にして温和。一個人でありながら世界の滅亡に相対した胆力は、平時においてはサーヴァントへの心遣いとして発露する。

「そのために居住設備その他、各サーヴァントからもリクエストを受けて諸々整備していっているんだが、その一環で情報や通信についても最適化することにしてね。各サーヴァントがマイルーム、カルデア内のどこに居ても快適に暮らせる工夫ってやつさ。
しかしながら、ここで問題がある。サーヴァントといっても古今東西千差万別老若男女、様々なタイプが居るわけだ。つまり――」




   ☆




 機械への適正。それが問題なのだ、と、叡智は宣うた。
 神代に近い存在のはずなのにあっさりと現代の電子機器に慣れる者もいる。他方、現代に比較的近い割にその方面が苦手なサーヴァントだっている。それらを総合的に勘案し、導入される予定なのが、セイバーも持っている機器を端末としたネットワーク、その名も「カルデア・コンビニエンス・コンシューマー」。通称「C・C・C」であった。

 無論のこと、刑部姫や黒髭氏を筆頭とした「タブレットだろうがパソコンだろうがペンタブだろうが使いこなす」勢は、その機器からアクセスが可能である。セイバーの持っているのは、あくまでも「機能を最適化した端末」。機能を絞り、極めて単純な操作でカルデア内の快適サービスが受けられる優れもの。某フィフや某但のように老眼が見込まれる初老以降のサーヴァントでも――そも、サーヴァントに「老眼」の概念があるかどうか、というと極めて怪しいが――機械に拒否反応を示しがちな者でも、ばっちりはっきり操作するところが分かるように設計されているものであった。

 彼女(彼?)はまた、外部の目も欲しかった、と言う。そこで、部外者であるセイバーに白羽の矢が立った、というわけであった。

「その他にも役割はあるようですが……、……なんとアーチャー、冬のスイーツ大特集フィーチャリング☆ブーディカとは。興味深過ぎるではないですか」

 セイバーは独り言ち、端末を夢中で操作する。カロリー高めながらもジューシーな甘さを感じさせる逸品が画面に踊るさまは、相当にテンションを上げてくれる光景だ。

「では、シナモンアップルパイ……おお、ご注文を受けてから焼き上げコースまで。他に……ブーディカお手製ブリタンニアクッキーなど、シロウのお土産に最適ですね」

 モニター期間は基本無料、ということだったので、セイバーは何点か食堂に注文を済ませた。ポップアップで「カルデアッターに投稿!」というボタンが出て来たので、すかさずタップする。

「カ ル デ ア で 注 文 な う、と」

 効果音と共に、注文したメニューと打ち込んだ文章が、タイムラインに反映される。出来上がりまでは20分ほど。その間、のんびり散歩でもしましょうか、と、セイバーは腰をあげた。

「む」

 そして、2〜3歩進んだところで、端末が振動する。それも、連続で。

「貴公ら……」

 端末を起動してみると、それはセイバーの呟きに反応があったことによるものであった。最速で反応していたのは円卓の騎士、である。試行の段階では、C・C・Cの利用者として見込まれる全サーヴァント、あるいは関係職員のアカウントが全てデフォルトで相互フォローとなっており、セイバーもまたこのグループに加わったため、既に使い始めの段階から端末が五月蠅かったのだが、今回はそれを超える広がりであった。 ちら、とタイムラインを見てみると、曰く

「王の選ばれたアップルパイを記念する」
「アップルパイなんて頼むなんて案外お子様だよな! まあでも気にならねーってわけじゃねーな! ちげーし好きだから頼むとか父上が注文したから頼むとかそーいうんじゃねーし!」
「王マジアップルパイ注文とか可愛くて当時と乖離してるけどそれがいい」
「王のアップルパイが分からない、頼んでみるほかない」
「王の存在が貴い、しんどい」
「なるほど。アップルパイに毒を仕込むという方法もありますね」

 等々、阿鼻叫喚である。その他、単純に「アーサー王」が発するお言葉に等しいものがあるため、彼女の人気の高さも相まって、その程度の呟きですら燎原の火の如くリツイート&わかるが回っていくのであった。

「ま、まあ……通知を斬っておけばいいでしょうかね」

 苦笑しながら、セイバーは設定を切り替える。生前……といっても、この時間軸の「自分」とは違うのかもしれないが、そのしがらみがあるからか、円卓の面々は、なかなか素直に出て来てはくれない。だが、こうやって見てみれば関心は持ってくれているのは間違いない。あるいは、何かしらの方法で、ここでも交流できれば――と。セイバーは、そんなことを考える。

 と、

「おや」

 視線の先に、知己の姿が映る。マシュ・キリエライト――体格の近い、セイバーの親友の一人である間桐桜から借りた洋服を着ている――に、たしかタマモキャット……そして。

「あの子はどこにでも居ますね……」

 と、思わず苦笑いを漏らす。あたふたしている様子のマシュ、その面前では、タマモキャットとセイバーライオンが対峙しているのであった。

「こんにちは、マシュ」
「あ、こんにちは、アルトリアさん」

 戦闘態勢に入っている二匹……二人はまずおいて、マシュに声をかける。彼女の「今」を形作っている経緯もあり、セイバーとしては何かと世話を焼きたくなる少女、でもあった。

「で、これはどういう」
「ええ、実はですね……」

 マシュは、端的に経緯を説明する。ざっくり表現すると、タマモキャットと談笑していたところ、突如として光と共に「その獣」が現れた、のだという。

「ああ、そういう」
「ええ、そういう」

 それが、セイバーライオンである。とある世界の聖杯がかかわった事件により爆誕した、奇跡のアルトリア種。目の前にいるのは、セイバーと親しく、よく衛宮邸にも表れる、セイバーの妹分的な彼女であることに相違ない。
 未だカルデア界にはその姿を現したことがないらしく、突如として現れた可愛らしさバフ熱盛の存在に対して、タマモキャットは恐らく本能的脅威を覚えた……のかもしれないし、そうでないかもしれない。いずれにせよ、四足歩行の状態に立ち戻り、ビーストもかくやと言わん勢いで鼻息荒く対峙しているのであった。

「そこに立つるソレの姉、今は言葉をかけずともよいぞ。何故ならこれは英霊聖獣三十分一本勝負、すなわち決斗、マスコット級王座決定戦。カルデアの獣枠を賭けた聖戦なのであるからして」
「がおー! がうー!」

 今にも飛び掛からんといった風情。二人の内心はともかくも、傍目から見ればあまりにも「なごむ」光景であった。セイバーは思わず、端末を取り出してその相対する光景を激写。即座にカルデアッター(仮)にアップロードする。そして、

「まったく、少しは落ち着きなさい」
「がう」

 ひょい、と、セイバーライオンを抱き上げるのであった。

「……っ!」
「ふむ。ま、姉が止める裁定とあれば仕方なし。なるほど、ルーラー&セイバーのダブルクラスというのも新しいのでは」

 アルトリア本家がアルトリア獣を抱き上げるそのあまりの可愛らしさに、マシュは思わず絶句。自分の端末でその様を激写しアップロードに到る。他方、タマモキャットはメタだか何だか分からない発言を繰り出した。関係各所からのわかる、リツイートの嵐がカルデアッターベータ版に吹き荒れる中、セイバーは構わずセイバーライオンの頭を優しくなでる。

「その野性は貴女の個性ですが、まずは対話からです。それがいい文明というものですよ」
「がお」

 気持ちいい箇所を撫でられ、かつ慣れたセイバーの腕の中に納まったセイバーライオンは、その闘気を急速に収束させていた。ありていに言えばリラックスモードである。

「すみません、彼女が迷惑をおかけしたようだ」
「い、いえ。ちょっとびっくりしましたけど。アルトリアさんのお知り合い、なんですね」
「ええ。妹のような、親友のような」
「がうー」
「……〜〜っ!!!」

 つぶらな瞳が、マシュを捉えている。ある意味、魅了持ちと言えるだろう。マシュもすぐに、この愛らしい聖獣の虜になったようであった。

「あ、あの、抱かせてもらっても!?」
「ふふ。この子に聞いてみましょうか?」
「がう!」

 セイバーが腕を緩めるや、マシュに飛びつくセイバーライオン。

「わ、わ」
「がおー」

 ふわふわにもふもふが合わさって最強に見える……とは、この光景を傍で見ていたタマモキャットの述懐である。実際セイバーライオンの毛並みは地上最高の質であると言っても過言ではなく、抱きしめたマシュを否応なしに籠絡していた。

「あったかい……もふもふ……」
「がおー♪」

 抱くマシュも、抱かれるセイバーライオンも幸せそうである。その様子に大いに頷いたタマモキャットは、ひそかに陰で鼻息を荒くしているもう一匹のマスコットに声をかけた。

「某Xのようなことを考えるよりは堂々と張り合った方がよいぞ」
「フォウ!?」

 だが、すぐにその言葉を咀嚼したのだろう。元祖カルデアのマスコットことフォウくんは、事の推移を観葉植物の陰で見守りアンブッシュ態勢に入っていたのだが、急遽解除。飛び出してセイバーライオンを抱きしめるマシュの肩に飛び乗ったのであった。

「フォウ、フォーウ!」
「あ、フォウさん、ちょっと落ち着いてください! 耳はちょっと、やっ」

 直接対決ではなく、マスコットとしての可愛さで勝負せんと試みているのか、フォウのマシュへの絡みはいつも以上に積極的であった。微笑ましいカルデアの一光景。更に一枚、と、セイバーがその光景をアップロードするや、タイムラインは「尊い」「実際カワイイ」の賛辞に溢れるのであった。

「と、そういえば、そろそろですね」
「? 何かご予定でも?」
「ええ、先ほど端末から食堂にスイーツを発注しまして。出来上がる頃合いだな、と」
「なるほど」
「そうだ、マシュも一緒に来ませんか? 食堂の主は良い紅茶を淹れることに定評がありますからね」
「はい、是非!」

 お茶会、女子会。それが現代の少女において甘美なものであることは、セイバーも重々承知している。マシュは目を輝かせ、セイバーの誘いに乗るのであった。




  ☆




 そして、食堂。サーヴァントたちが続々と召喚されてくるカルデアにあっては、トレーニング室や娯楽室、シミュレーター等を凌駕する勢いであらゆる存在が集う場所、である。一般職員の利用もあるため、歴史と現在が混交する、ある意味ではカルデアの中の特異点、と言えるかもしれない。
 もとより専門スタッフもいるが、サーヴァントの中には食堂に立つことに対して極端に適性が高い者も居る。筆頭格が「カルデアのオカン」ことアーチャー・エミヤであるが、セイバーを猫かわいがりすることに定評のあるブーディカ等々、その他も綺羅星の如き鉄人が揃っているあたりも、カルデアの恐ろしいところであった。

「いらっしゃいませ、と」
「お疲れ様です、アーチャー」
「おそろいでようこそ。焼き上がりまではもう少し先だ。寛いでいてくれたまえ」

 そう案内を受けた二人&二匹は、適当なテーブルに腰かける。ざっと見まわしただけでもテーブル稼働率は6〜7割に到っているようで、その繁盛ぶりがうかがえる。中には、明らかに寝不足の表情でヘッドホン着用&怒涛の如く筆を走らせている作家、一角の座敷席で茶を立てて一服している剣聖、その目の前で美味しそうにうどんをすすっている剣豪、コーヒーと新聞が最高に似合うコートの復讐者等も居て、当に梁山泊の観を呈している。

「おや、どこかで見たような見ないような、いややっぱり魂に響くものがあるような少女を発見」
「大河、ではないのでしたね。ええと」
「そう、よく虎と間違えられる……いや、この身としても既に虎であるかジャガーであるかは魂が迷っているのであるが、いずれにせよ真名ジャガーマン。神様であるわけだ」
「がう」

 本日何人目かの獣神性に触れ、セイバーライオンまでも苦笑しているようであった。

「なるほど、やはり大河との。しかし、カルデアの召喚式とは一体何なのでしょう。円卓に由来するとは聞き及びますが」
「ええ……そのあたりは、なんとも言い難いというか……」

 ジャガーマンと戯れ始めるセイバーライオンを眺めつつ、二人は首を傾げ合う。そのうち、淹れたての紅茶及び焼き菓子、そして注文していたシナモンアップルパイが提供され、ちょっとしたパーティーとなった。

(それにしても)

 こちらの世界は人理の危機にあった、と聞いていたが、目に見える光景は和やかで、戦の明確な兆しは見られない。あるいは、彼女、彼らの先には大いなる戦いがあるのかもしれない、けれど。これはこれで、疑いなく、幻ではない、一時の幸せ。それが貴重であることは、言うまでもないことだろう。

 マシュと、そんな話をしよう。あるいは、この機会であるから、彼女を伴って円卓の騎士たちを訪れてもいいかもしれない。

 セイバーは、そう思いながら、紅茶のカップを置き


「――、――ッ!?」


 ドオン、と。
 その衝撃音を、耳にしたのであった。

「ば、爆発?」
「何やらエマージェンシーな予感! このあたりは動物的なサムシングを信じて欲しい!」
「ジャガーマンさんも落ち着いてください! でも、これって……」

 その衝撃は、下から突き上げる直下型の地震のようでさえあった。恐らくは、何かの爆発によるもの――少なくとも、尋常の現象ではない。その証拠に、けたたましい警報音が鳴り響いており、煙のような臭いまでも漂ってきていた。
 食堂には、こういう事態に慣れていない一般職員も多く来訪している。もちろん、海千山千のサーヴァントたちはこの程度ではびくともしないが、命を守る手段に乏しく、激務から疲労もある彼らにとっては激しい心理的動揺を惹起する現象であった。

 パニック状態に陥りかける彼らはしかし、強制的に落ち着きを「取り戻させられる」ことになる。そう――。

「皆、落ち着いてください。爆発は連続するものではないようです。原因を突き止め、対処しましょう。マシュ、モニタリングを」
「は、はい!」

 即座に普段着から鎧を纏い、颯爽と、凛とした大音声で言い放ったアーサー王、セイバーによって、である。彼女はそして、端末の音声入力を用い、カルデアッターベータ版上で檄文を発した。

「我が下へ、騎士たちよ」

 次の瞬間、RTやわかる、呟きとほぼ同時に、疾風のように食堂へと集う者たちがあった。跪く騎士たちを代表し、サー・ベディヴィエールが王へと伝達する。

「ここに、我が王」
「うむ。卿らを率いるかつてを懐かしむのも良いが、その暇はない。我に続け。万一会敵の際は、連携して対処せよ」
「はっ!」

 ベディヴィエール、モードレッド、ガウェイン、トリスタン、ランスロット、マーリン――。カルデアに在る「かつての円卓」が、その勇姿を見せつける。誰よりも早く無双の英霊たちを従えたセイバーは、マシュの先導に従ってカルデアの廊下を駆けた。

「こっちです……って、ここは……」

 そして、しばらく走ってのち。濛々と立ち上る煙の中、マシュははたとある事実に気付いたようだった。
 その部屋は、とある女神に割り当てられた個室である。
 内部犯のテロか、あるいは外部からの攻撃か。
 そうした懸念を抱いていた面々だったが、「そのこと」を知った瞬間、誰しもが「ああ、もしかして」と思ったのだ――という。

「風王結界……」

 セイバーは、宝具を開放し、その煙を吹き飛ばし、現状が明らかになる。
 見事なまでに部屋の壁が吹き飛び、窓が正面に在れば割れていたであろう勢いで、廊下側の壁に焦げ跡がはっきりとついていた。

 では、その爆心地には何が?
 それはもう、皆が皆、予測していた。
 シュメルの駄女神こと――明星・イシュタルが、目を回してへたり込んでいて。
 それを目撃したセイバーは、静かに、旗下の円卓に解散命令を下したのであった。




 ☆




 つまりは、C.C.C端末に搭載されていた、もうひとつの機能による事件であったのだ。

 カルデアの日々を快適にする目的のみならず、ダ・ヴィンチちゃんはいくつかの緊急時用のツールとしてもソレを活用しようと目論んでいた。
 想定のひとつが、カルデアの電源等々が完全喪失する場合、である。多くの場合、サーヴァントは霊体化が可能である。だが実際、直前に起こったセイレム事件では、霊体化が阻害される事態も発生していた。他方、壁をぶち抜けるような破壊力を持たない、文系サーヴァントもまたそれなりの数が居る。こうした面々は、仮に電源全喪失等の事態に自室に居れば、「閉じ込められる」だけの結果になりかねない。

 そこで、ダ・ヴィンチちゃんは――なぜ天才とはそういう発想の飛躍を起こすのか、セイバーは大いに渋面を作ったのだが――、この端末に、脱出用の爆弾機能を盛り込んだのである。

 もちろん、これは奥の手、最後の最後の最終手段。当然ながらベータ版では不要の機能である。ゆえに、爆弾機能はついうっかり搭載してしまったものだが、何重ものロックや安全装置をプログラムして万全の態勢を構築する、という手段を採っていた。


 そう。万全、と思われたのだ。
 その女神が――いや、彼女及び、憑依先の少女が抱く、天性の「業」さえなければ。


 あろうことか。イシュタル神は、端末の操作方法に苦渋した挙句、猿がシェイクスピア文学を書き上げるがごとき奇跡を発揮し、幾重もの保護プログラムを突破。爆破機能を発動させてしまったのであった。
 結果が、あの顛末である。カルデアの予算に甚大な被害を与え、サマーレース事件と合わせて「超絶駄女神」の称号を大嘲笑と共にウルク市長から賜ったイシュタルの存在は、ダ・ヴィンチ司令代理に「安全装置」の定義を根底から考えさせることになったという。




  ☆




「――と、いうわけなんです」
「なるほど」

 翌日、衛宮邸の居間。ことの顛末を、セイバーは楽しげに士郎、そして遊びに来ている間桐桜へと語っていた。もちろんとんでもないハプニングではあったが、過ぎてみればまたそれも思い出のひとつ。日常を彩る、大切なイベントではあるだろう。カルデアの予算としては笑えない事態であったとしても、だ。

「面白そうなところですね、カルデア」
「確かに。そういや、そのC・C・Cってのがあれば、うちでも何か作ったりできるかな」
「あ、それいいですね、先輩。一緒におやつ考えませんか?」
「それもいいな。セイバーは、どんなの食べたい?」
「興味深いですね……商品化前提で食べて嬉しい、となると……」

 談笑の中、三人はブーディカ製クッキーをつまみつつ、色々なアイディアを出し、話に花が咲く。
 季節は冬なれど、あたたかいお茶の香りと、和やかな雰囲気に包まれる衛宮邸。

 遠きカルデアの平和、であるかもしれないけれど。
 その出来事は、確かに冬木の心をも、温めているのであった。





 というわけで、FGO&Fateのアフターなクロスオーバー第2弾です。
 今回は、カルデアを訪問するセイバーさんのお話。
 円卓と直に絡むことはステイナイト本編ではありませんが、
 FGOという世界が提示された今では話は別。今回は直接的には
 少ししか接していないものの、ことモーさんとの父子対面とか
 色々扱ってみたいネタはあります。

 とはいえ、今回のテーマはあくまで「セイバーさんがカルデアを散歩する」。
 そろそろ「第2部」という嵐がFGO世界では予定されておりますが、
 こちらで書く折にはのんびり交流してもらいたい、と思う次第です。

 ところで。
 セイバーライオンさん実装は未だ、なのでしょうか……?


 それでは、お読み頂きましてありがとうございました!<(_ _)>

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