「準備は出来た――さあ、農業の時間だ」
「ええ。かつて農村を護るため、故国の原野を駆けた記憶が蘇るかのようです」


 やたらと気合の入ったつなぎ&長袖シャツといった農業スタイルでキメている衛宮士郎、そして野球帽めいた蒼いキャップをやや目深にかぶり、マフラーを面頬(メンポ)のように巻いた、短パン&ジャージ着用のセイバー。晩秋の突き抜けるような青空の下、二人は、とある「果樹園」の入り口に立ち、その心意気を天高らかに宣言していた。

 彼らが居る果樹園の真名は「アインツベルンふるうつ園」。位置するは、冬木郊外、とある欧風城館のほど近く。開闢は、名前が示す通り、アインツベルン家の御嬢様、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、である。士郎とセイバーは、この農地にかかる『とある合うバイト』を請負い、この地に立っているのであった。



 そう。暇を持て余してか、土地を遊ばせておくのもどうかと思ったのか――あるいはテレビで見たアイドル農業番組に影響を受けてか、「果実」が病気を治すキーアイテムとなっている漫画でも読んだのか――なんにせよ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、春頃急遽思い立ち、高級フルーツ専門の農園を一夏で作り上げたのである。その収穫は、衛宮邸で披露されたこともある。高貴なる身の食卓に上るのは高貴なる実でなくてはならない、と、一切の妥協を排して栽培したその果実は、衛宮邸の住人を唸らせるほどの美味であったのを、士郎はよく覚えている。



「にしても、すごいよな。魔術とか使ってないんだろ、これで」
「そのようですね。害獣が多いゆえ、防御には多少その手のモノも仕込んであるとのことですが、農作物は完全な『お手製』とか」

 ビニールハウスにせよ露地栽培にせよ樹木に生る系統のものにせよ、全てがアインツベルンの人脈を通じて集められたものではあるが、士郎の言う通り、これらは全て「農の業のみを用いて」の成果であった。

 園主たるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが優雅に紅茶を口にしながら述べて曰く、

「土を、大地を、地球を感じながら作るの……」

 とか、なんとか。収穫されたフルーツをふんだんに使ったタルトを傍らに置いた彼女からは、作物に対する強烈な自身が溢れ出ており、謎の気品を醸し出していた。

 とはいえ、実際のところ、相当多数の作業はセラとリズが執り行っているのだが――それでも彼女のこだわりが実を結んでいる果樹園であることは間違いない。

 ではなぜ、その果樹園に、士郎とセイバーが居るのか。
 回答だけなら、至極簡単なものになる。「イリヤに頼まれたから」、であった。




   ☆




 ――時は、二日前に遡る。

「ええ、急にドイツに戻らなくちゃいけなくなったのよ。それで、お兄ちゃんにお願いがあって来たの」

 と、イリヤが衛宮邸の門を叩いたのは、夜も八時を回ったところだった。その日は珍しく衛宮邸に客人が居らず、士郎とセイバー水入らずで食後ののんびりタイムを過ごしていたところであり、突然の彼女の来訪は、まるで春雷の如きであったという。

「お願い?」
「ええ。私の果樹園、この前紹介したでしょう?」
「ああ、あの時の。メロン、大変おいしかったですよ、イリヤスフィール」
「当然よ、礼には及ばないわ。市場に出すには表面に瑕疵があったし、でも中身は美味しいこと間違いないから、日ごろのお礼に……って、そんなことはどうでもいいのよ。お願いは、明後日からしばらくの果実管理と――あなたたちにしか頼めない、特命が一件ね」
「特命……?」
「そ。本当ならアインツベルンで解決すべきことだけど、今回の帰国は私が実家の実権を握るのに不可欠だから、先送りも出来ないのよね。だから、知り合いで一番農業に向いてそうで、実力もありそうな二人に声をかけたってわけ」
「お、おう」

 さらり、ととんでもないことを言い出した気がしたが、士郎は敢えて突っ込みを入れなかった。桜も凛と協力して間桐の家の実権をその手に握ろうと暗躍しているようであり、友人の氷室鐘は政界に打って出るべくあらゆる人脈を己が策のうちに取り込もうとしているようであり――等々、どうも士郎の周囲の女傑には陰謀の香りが色濃い、と、内心苦笑せざるを得ない。

「で、その特命ってのは?」
「果樹園荒らしの逮捕、よ」

 スパッと、イリヤはそう言い切った。

「果樹園荒らし、というと、盗み食いか、盗難? 害獣か?」
「どれかと言えば、多分一番最初のが近い、かしらね。でも、あまりにも意味が分からないのよ」
「?」

 イリヤは、ことの次第を解説する。事実としては単純であり、イリヤの果樹園に昨日一昨日と2日連続で侵入者があり、ちょうど収穫期のフルーツが数か所で食べられてしまっていた、ということだった。

 だが、「アインツベルンふるうつ園」の性質を考えれば、その異常性がすぐに理解できる。

「って、確か、イリヤの果樹園って……害獣対策は完璧なんじゃなかったっけ」
「ええ、リズの見回り、結界、罠――対策は完璧だったはずなのよ。それなのに、【奴】は私たちを出し抜いて、フルーツを食べて行った」
「魔術的な作為をものともしない相手、ということですね」

 セイバーが、イリヤの言葉を受け、解答を出す。

「正解よ、セイバー。アレは、『普通』の猪や狼なんかじゃあり得ない。冬木にあの備えを突破できる野生動物がいるなんて、到底考えられないわ。なのに、私たちの備えは破られた。それに……」

 さらに、イリヤは渋面を作り、続けた。

「一昨日被害があったから、昨日はリズの警戒を強化させて万全の備えを敷いた筈だったの。それなのに、またやられた。アイツに……そう、【不可視の侵入者】に」
「不可視? 見えなかった、のか?」
「そういうことね。リズと私がヤツを取り逃したのは、第一にその不可視性が原因よ。あとは、異様なすばしっこさね。予想の出来ない動き、果樹園を傷つけるわけにはいかないこっちの事情、あらゆる要素がこっちのマイナスに出てしまったわ……。かといって、あっちも何故か樹を傷付けないように動いていたし……。
 そして、謎がもう一点。食べ跡が、綺麗すぎるのよ」
「と、いうと?」
「皮、種、食べられるところを余すところなく食べた後の残骸が、綺麗に整えて置かれていたのよ。バカにしてるのか、何なのか……でも、単なる野生の獣の仕業じゃないことは、それで分かるわ」
「なるほどな……」
「ね、手強そうでしょ? というわけで、二人に頼みたいのは、果樹園の管理、それと【奴】から被害の防止と、出来ればその逮捕ね。期間は4泊5日、泊まり込みになるけど、城を自由に使ってもらって構わないわ。お礼も弾むし、どうかしら?」

 士郎としては、妹であり姉でもある彼女の願いを聞き届けない理由などない。もとより、頼られれば応えるのが衛宮士郎、という存在である。無報酬でも喜んで出向いただろう。

「ん、了解。明後日からだな……セイバーは、どうする?」
「もちろん、お供します。家の留守は大河にお願いしましょう」
「ありがと♪ お土産もちゃんと狩って来るから、よろしくね、二人とも♪」

 少し漢字が違うような気もしたが、士郎は気のせいであろう、と敢えて黙殺することにした。かくして、士郎とセイバーは「果樹園警護」のアルバイトを請け負ったのであった。




   ☆




 そして、時は戻り、「アインツベルンふるうつ園」。士郎とセイバーは、早速仕事に取り掛かっている。

「今は異常なしみたいだし、取り敢えずフルーツの世話からはじめようか。セイバーは園内を見回って、だいたいの構造を把握しておいてくれるかな」
「了解しました、シロウ」

 士郎は色々な伝手で近隣の農作業を手伝うことも一度や二度ではないし、セイバーはセイバーで彼女の言葉通り、かつては農地と農民を護るために立ち回った歴戦の勇将である。つまり、農園警護のプロ中のプロ、と言っていい存在であり、人選としてはこれ以上確かなものはない。士郎はセラに託されたマニュアルを手に目を輝かせ、セイバーは蛮族撃退の心意気で果樹園の巡邏を始めていた。季節は初冬、既に森の空気は冷たくなっている――しかし、イリヤに仕事を託された二人の血潮は、わりとホットに煮立っていたりするのだった。




   ☆




 ――が、いつ「不可視の侵入者」の襲撃があるか、という緊張感とは裏腹に、初日の昼間は何事も無く過ぎて行った。

 その夜、イリヤ城。バスルーム、キッチン、居間、寝室まで完璧に揃えた高級ホテルの様相を呈しているゲストルームのダイニングで、士郎とセイバーは二人で夕食を取っている。

「肩透かしだったなあ、今日は」
「そうですね。とはいえ、じっくり防御態勢を整えることは出来ました。地勢も確認しましたし、これで相手が如何な存在であれ、後れを取ることもないでしょう。……いや、それにしても、お肉が美味しい」
「ん。イリヤが高級食材沢山置いといてくれたからな。素材の味を活かすラインナップにしてみました」
「大正解、大正解ですよシロウ。このステーキ、塩と胡椒だけでも……いや、焼き加減もまた最高だ……なんであの時、我が国の肉はここまでの味を出せなかったのか……この糧食が我が軍勢の標準レベルであれば、もっと私たちは……」

 もきゅ、もきゅ、とステーキを咀嚼しつつ、セイバーは大いに頷きながら舌鼓を打っている。メニューはステーキのほか、野菜の付け合わせやサラダ、フルーツ等々。特に凝った味付けは一切せず、シンプルに大胆に、素材の味を引き出す形で調理している。
 士郎の言った通り「城を自由に使っていい」という範囲には冷蔵庫や冷凍庫、食品庫も入っており、イリヤは士郎とセイバーの滞在を見越して、4泊5日は優に賄えるほどの高級食材を用意しておいてくれていたのであった。

「ふう……ごちそうさまでした。大変美味しかったです。朝食も期待しています、シロウ」
「おう、任せとけー。えーっと、風呂は……全自動で入れられるのか、スゴイなこの城」

 士郎は客間に備え付けられたマニュアルを読みつつ、感嘆して天を仰ぐ。たかだか客間の風呂であるのに、全自動給湯のみならず、スチームサウナやジャグジー、果ては人工温泉機能で疑似炭酸泉まで再現できる機能までついている。これもまたイリヤの城いじりの結果なのだろうが、原資を持っている貴族はやはりあらゆる意味で「強い」と思わざるを得ない。

「シロウ、お風呂が出来るまでの間、DVDを鑑賞しても構いませんでしょうか」
「ああ。そういえば、続き借りて来てたんだっけ」
「ええ。『ミュージアム』との決戦はすぐそこです!」

 と、そんな士郎の慨嘆を他所に、セイバーはそう宣うと、レンタルDVDを旅行鞄から取り出し、ダイニングに用意されているプレーヤーにセットした。

「さあさあ、はじまりますよシロウ!」

 大画面テレビの前に置かれたソファーに陣取り、目を輝かせるセイバー。最近、サッカーなどを共に遊ぶ子供たちに特撮を教えられたらしく、日曜の朝が大変熱いことになっているのが現在の衛宮邸であった。過去の名作鑑賞にも余念が無く、今回は4泊5日の泊まり込み仕事、ということもあり、セイバーはそれなりの枚数のDVDを用意して来ているのである。セイバーが示した作品は数年前のものだが、未だに支持者が多い名作のひとつであった。

「いざ!」

 セイバーはリモコンを持ち、いよいよボタンを押す、という段階まで来た。

 ――だが、しかし。

「!?」
「これは……」

 その再生ボタンは、押されることが無かった。セイバーの指がボタンにかかるかかからないか、という瞬間、警告音がゲストルームに鳴り響く。それは、果樹園を囲む「結界」を、何者かが破ったことを意味していた。

「行くぞ、セイバー!」
「はい!」

 二人は、即座にゲストルームを飛び出し、城の間近にある果樹園へと走った。結界の反応から見る侵入者は、一名。だが、結界で押しとどめられた形跡がない以上、イリヤの言っていた例の「侵入者」である可能性が高い。

「セイバー、どこに侵入者がいるか、分かるか?」
「大雑把には、程度ですが。恐らく、みかんの栽培区域ではないか、と思われます」
「分かった。二手に分かれよう。見つけたら、合図を頼む。挟撃しよう」
「了解!」

 二人はそれぞれ、昼間打ち合わせた通りに行動を開始する。士郎とセイバーは、それぞれ区画ごとに侵入者があった場合を想定し、それぞれの動きを事前に定めていた。計画通りに動けば、まず間違いなく侵入者を追いつめることが出来るだろう。仮に、相手が不可視であったとしても、何故かその賊は「果樹園を傷つけないように動いていた」ことは間違いない、と、イリヤは言う。自らの餌場を荒らさないためか、それとも他の理由か――だとすれば、動きを制御することも可能なはず――、


 と、想定していた、のだが。


「く、……この……!」
「うわ、わ、っ!」

 その「不可視の侵入者」の動きは、二人の想定をはるかに超えていた。いや、「読まれている」と、言っていいだろうか。確かに、「それ」はみかん栽培区域に居たのだが、士郎とセイバーの挟撃をいともたやすくかいくぐり、追いすがる二人の動きを翻弄して見せたのだ。

「ああもう、なんなんですかコレは!」
「分からない……分からないけど、素早……わ、うわっ」

 いや、翻弄している、というよりは「読んでいる」と言うべきか。まるで熟練の剣客でもあるかのように、「後の先」を取られている、と、士郎はそう感じざるを得ない。

(それにしても、どういうことだ……!?)

 イリヤが謎、と言った意味が、別の角度からも理解出来た気がしていた。士郎はともかくとして、セイバーほどの武芸の達人は、人類史上でもそうは居ない筈なのだ。だが、そのセイバーすら、相手に動きを見切られている。不可視である、ということも手伝って、二人は完全に裏をかかれ続けてしまった。

「くっ……逃げられた、か……!」
「ええ、そのようです……力、及ばず……」

 結局、数分にわたる捕物の結果、士郎とセイバーは「不可視の侵入者」を取り逃してしまった。跡には、綺麗に剥かれ、樹の根元に置かれたみかんの皮が二組。完全に、盗み食いを成功させられた形、である。

「アレは、手強いな。リズを撒いたって聞いてたから相当だと思ってたけど、まさか二人がかりでも、なんて……、セイバー?」

 士郎が悔しさをあらわにする傍らで、セイバーはしかし、沈思の表情を浮かべている。

「どうした?」
「シロウ……あるいは……」
「ん?」
「――不可視のカラクリが、分かったかもしれません」
「え……そうなの?」
「はい。仮説が正しければ、ですが。もう一度侵入があれば、試してみる価値は、あると思います」

 どのみち、このままでは警護を任せてくれたイリヤに面目も立たない。とすれば、やってみる以外の選択肢はない、だろう。

「よし、次、だな。絶対、捕まえよう」
「ええ、任せてください!」

 セイバーの力強い言葉に、士郎も勇気づけられる。決戦は、次だ。負けようと、次勝てばいい――士郎はそう心に誓い、破られた結界の修復作業へと向かっていった。




   ☆




 ――翌日。決戦の機会は、意外にも早く訪れた。


「シロウ、侵入者です! 方角は、南東……これは、ラフランスの栽培区画、か!」
「行くぞ、セイバー!」

 不可視の侵入者は、度重なる勝利に味を占めたのか、白昼堂々の侵入を試みて来たの。農園で作業をしていた二人は、すぐさま果樹園南東の西洋梨樹林へと駆けつける。

「――居ましたね、侵入者」
「……」

 セイバーは、いち早く賊を捕捉する。昨夜の対峙を経て、既にセイバーにも相手の動きを読むだけの要素は得られていた。一筋縄ではいかない、と思ったのか、不可視の侵入者もじり、じりと間合いを取っているかのようであった。
 即応が幸いして、未だ被害は出ていない。故にこそ、今がチャンス。セイバーは、被っている野球帽のツバに手をやり、賊が居るであろう方角に向けて、目を見開いた。

「人が手塩にかけた農作物を略奪するなど、許し難き蛮行。ですが、それもここまでです。既に、『カラクリ』は見破りました――その正体、今こそ暴いてやりますとも! 貴方の敗因はたったひとつ……そう、貴方は私を怒らせた!」

 セイバーはそう言うと、自らの剣を構えた。

「風――そう、風、です。昨日の対峙で、感じ取ったもの――頬を撫でたその風、私が知るモノに、凄く似ていた……」

 その剣もまた、「不可視」である。
 彼女の持つ、宝具のひとつ――「風の鞘」、風王結界。
 そして、それが、「不可視の侵入者」攻略の糸口、でもあった。

「!」

 セイバーは、相手の動揺を見て取った。侵入者もまた、悟ったのであろう。セイバーが、何を考えているのか、何をしようとしているのか、を。


「冬木……いい風が吹く……。
 さあ、あなたの罪を、数えなさい!
 ――風王鉄槌(ストライク・エア)=I」


 直剣一閃。セイバーは、直近でハマっている特撮にモロで影響を受けたマキシマムなドライブを、不可視の侵入者に向けて撃ち放った。「風王鉄槌」――セイバーの勝利剣・エクスカリバーが纏う鞘、風を解放し、敵にぶつける荒業、である。

「!!!」

 咄嗟に、侵入者は風の襲来を避けようと試みた。だが、セイバーの攻撃が、一瞬早かった――セイバーの放った風は、過たず侵入者を直撃した。


 そう、「風」である。セイバーは、昨夜の対戦時に感じた「風」から、その不可視性が、自らの剣に纏わせている「風王結界」と同じ原理を持っている、と推理したのであった。その仮説が正しければ、不可視性を解いてやる方法がひとつある。


 風を以て、風を制す。
 果たして、セイバーの仮説は、正しかった。
 風王鉄槌は、侵入者が纏っていた風を、見事に打ち破った。
 そして――。

「な……」

 その、現れた侵入者の正体は。

「がお、がうう……」
「……せ、セイバーライオン!?」
「え、マジか!?」

 セイバーと、遅れて到着した衛宮士郎を、驚愕させるに足るものだった、のであった。




   ☆




「はあ……なるほどね」

 然り而して、事件は解決を見た。4泊5日の行程を終え、ジビエめいた猪肉やソーセージを手土産に帰国したイリヤスフィールは(やはり「狩る」とはそういう意味合いであったのである)、アインツベルン城の客間にて業務報告を受けていた。

「つまり、この子がウチのフルーツの美味しさに感動して、野生のままに動いた結果、ってこと?」
「そういうこと、だな」
「がうう……」

 客間に居るのは、イリヤスフィールと、左右に控えるセラ、リズ。そして衛宮士郎、セイバーと――ドゲザのポーズを崩そうともしない、セイバーライオン、であった。
 神出鬼没、気まぐれで、時折居心地の良さを求めて衛宮邸にも現れてのんびり滞在することもあるセイバーライオンは、イリヤが自前のフルーツを披露した際、たまたま衛宮邸に居合わせていたのだった。当然、フルーツは彼女にも振る舞われており、彼女はその時、イリヤの果樹園で大変美味しい果実が獲れることを知ったのである。

 だが、そこから先が「野生」だった。サバンナの習性を自らに包摂している彼女は、未だ「野生の木の実」と「果樹園の果実」、この概念の差を理解していなかったのだ。
 そして、彼女はもとより、そこらの魔術結界程度はものともしない。結果、「美味しい木の実の成っているところ」としてアインツベルン城近くの果樹園をインプットした彼女は、再び冬木市にやって来た際、その美味を求め、アインツベルンふるうつ園へと侵入したのであった――。

「どんな凄い魔獣か、と思っていたんだけど……いや、実際凄い魔獣ってのは間違いない、か」
「私からも謝ります、イリヤスフィール。妹分の不始末は、私の教育不足でもありますから」

 食べ跡がきちんと整えられていたのは、衛宮邸でその作法を教わっていたから、であった。何のことはない、謎など最初から無かったに等しかったのである。ちなみに、セイバーライオンが纏っていた風王結界類似のモノは、某「セイバーの軍師」から譲り受け、自らの保護のために使っていた、とかなんとか。その事実を聞いた際、セイバーから顔色が喪われたのは言うまでもない。

「ま、いいわ。こうして全力で恭順の姿勢も示していることだし、いろいろと新しい果実のタネも貰ったことだし」
「がおお……」

 セイバーライオンは、セイバーに正体を暴かれたのち、懇々と「何がいけなかったのか」を説かれた。もとより優れた知性を持つ彼女は、その非をすぐに悟ると、イリヤへの詫びのために東奔西走し、帰国までに果樹園で栽培できそうな野生種――希少な種というだけではない、ロカカカッとした、誰もが初めて見るような種まで――を揃えて帰参、帰国したイリヤのもとへと出頭したのであった。
 供物をささげ、恭順の意を示すセイバーにそっくりなライオン。その姿を見て、イリヤの頬もつい緩む。こうなれば、勝者はむしろドゲザをしている側、と言っていい。

「――許してあげるわ。悪気がなかったのは明らかだしね」
「がお!」

 イリヤは笑いながら、赦免を宣言した。その言葉を受けたセイバーライオンは、顔を上げて喜色をあらわにした。イリヤはその様子を見て頷くと、士郎の方へと向き直る。

「今回はありがとうね、お兄ちゃん♪ またお手伝いお願いしちゃうかも」
「おう、いつでもいいぞ。色々面白そうだしな」
「ふふ。私も手伝えることがあれば、いつでも」
「がうー♪」

 かくして、初冬の農園を襲った不可解な出来事は、士郎とセイバーの活躍によって解決した。イリヤは新たな果樹を得、士郎とセイバーには、ちょっとしたアルバイト先が増える結果となったのであった。  





 随分とお久しぶりになってしまいまして申し訳もないところで……(汗)。
 ですが、その間もちょこちょこ士剣分は己が内に溜めこんでいまして、
 今回はこんな形で出してみました。C89の同人原稿、HP版でございます。

 目指したのはホロウ的なドタバタ日常。とはいえ、あくまで自分のHPで
 やっている世界の延長線上で、ではありますがw あの手のノリにおける
 型月=サンのはっちゃけぶりは最近のFGOでもよく見られるところなんですが、
 楽しいので是非自分も乗って行きたいなあ、と思うところでありw
 ただ、激甘士剣も欲する体でもあり、そのへんはまた次回以降対応して
 行きたいところですw

 タイトルはもちろん「ウルトラセブン」から。内容的にはあまり
 共通するところはないのですが……w


 それでは、お読み頂きましてありがとうございました!<(_ _)>

 面白ければ是非w⇒ web拍手


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