突然であるが、自己紹介をさせて頂きたい。
名を、バゼット・フラガ・マクレミッツと言う。以前は魔術協会に所属し、各地を転戦していた魔術師である。
が、諸事情あって今はフリーランス。一介の浪人として、冬木・衛宮邸の客人として過ごしている。
今日は、少し話を聞いてもらいたい。当家に滞在しておよそ二週間。私なりに、衛宮士郎、セイバーの主従を眺めてきた。その感想を共有したい次第である。
「おはようございます、セイバー。」
「おはようございます、魔術師。」
穏やかな朝、縁側に姿を現した少女と挨拶を交わす。多少、冷え込みも気になりつつある季節と言うが、まだ日が差している日は十分に暖かい。朝、こうして庭で澄んだ空気を吸うのも、すっかり日課になってしまった。
今までが、殺伐としすぎていたのだろうか。
一日、その始まりを迎えるのが、今は楽しい。
私にとって、冬木での生活は若干心穏やかなもの。それは、どうやら彼女にとっても同じらしい。
聖杯戦争を「セイバーのサーヴァント」として過ごした彼女。真名はアーサー王、凛々しい立ち振る舞いはさすが騎士中の騎士。それは今も変わることは無いが、彼女もここに安らぎの場所を得ているのだろう。
戦場に出るものの職業病と言っても差し支えない、ピンと張り詰めた感覚。
今の私達には、それを、最大限保ち続ける必要が、無い。
緩んでいる、というのではないだろう。真に、安息に足る雰囲気が、この邸に備わっているだけのこと。
当館を建立した人物、そして家主である士郎君の性格が、その一件でもうかがえようというもの。
――――――――――――だが。どうも、ひっかかるのだ。
「おはようございます、シロウ。」
「ん、おはようセイバー。もう少し待っててくれ。あと二分で御飯が炊ける。」
「おお、これは………香ばしいですね。いったい?」
「ああ、秋は炊き込みご飯の本場だからな。朝だけど、ちょっと試してみようかな、って。」
「なるほど。ええ、あの具材たっぷりの御飯を朝から頂けるとは、何とも贅沢だ。感謝します、シロウ。」
「いや、これは道楽みたいなもんだからさ。気にしないでくれ。何より……。」
「?何より、なんですか?」
「ああいや!なんでもないんだ!兎に角、美味しいの作るから、期待しててくれ。」
「はい。シロウの作ってくださる炊き込みご飯にはずれなどあり得ませんが、心して待つことにいたしましょう。
できればおこげも少し。」
「了解。」
そうして、嬉しそうに二人笑って、台所談義に華が咲く。
どうも、決まってサクラさんが居ない日にこうなるようである。もし彼女が居れば、笑顔の騎士が食卓に着座することになるのだけなのだが。
さて。これは、どういうことだろう。
台所に関して言えば、長が士郎君、そして副官が桜さん、ということでほぼ間違いない。
セイバーは料理という部門ではほとんど食べる方専門である。そんなわけで、サクラさんと士郎君が料理をしている限り、その遂行に際してセイバーが率先して台所に立つことはそうそう無い。手伝い、という場面を除けば、サクラさんと士郎君の邪魔をすることは滅多に無いはずだ。
だが。これでは、――――
「はい、お待たせ。どうかな、多分、バゼットにも気に入ってもらえると思うんだけど。」
「あ、ありがとうございます、士郎君。もう二週間になろうかというのに………。」
料理を運んできた当家の主人と挨拶を交わす。あのセイバーの舌を唸らせるところからも窺い知れようものだが、彼の料理は素晴らしいものがある。所詮は栄養補給に過ぎない食事だが、これはこれで悪くは無い。
いや。些事に楽しみを見出すコトが、これからの私に課せられた課題なのか。
さらに言うなら、度量もなかなか。聖杯戦争に於いては直接の対面は無いが敵同士。その上こちらは「元執行者」なんていう物騒な魔術師。だが、彼は一週間、との当初の約束を伸ばして滞在する私を、何も言わず置いていてくれる。
何と言えばよいか。礼はいくらしても足りないだろう。
「いや、気にしないでくれ。まあ、元々大所帯だし………。」
「そうそう、バゼットさんはしっかりしてるもんねー。もっとこう、士郎の最近の腐りきった性根バシッと強制してくれないかしら?」
「な、大河!聞き捨てなりません。士郎の性根は………多少曲がっているかもしれませんが………く、腐ってなどはいません!」
―――――セイバーが小声で何を言っていたのかは置いておいて、それでもやはり、この食卓は私にとって常に新鮮だ。
藤村大河。藤村組の娘、と言うが、破天荒にも程がある。私のこれまでの人生には確実に居なかったタイプだし、奇人、という意味では並み居る時計塔の変人にも劣ることはないだろう。
だけでなく、時折保護者としての面も垣間見せる。この辺り、彼女を教師とする生徒は幸せだと思う。こうも情緒豊かな人間に教えを受ければ、色々な意味でよい経験を得ることになるだろう。
今は居ないが、イリヤスフィールや遠坂の跡取り娘、サクラさん、時にあのカレン・オルテンシアまでもが食卓に加わる。
さらには、幻視だろうか。時折、武士の亡霊らしきものが見えることまである。
………悪魔憑きの影響、か?
―――――さて。
「ふむ、………やはり………、味わい深い………」
「――――――」
はむはむ、と食べ、味に納得してこくこくと頷くさまは、まるで愛らしい小動物。本当にこの人が英蘭の英雄だったのかどうか、疑いたくなる一瞬だ。
そして、そのセイバーを眺める士郎君の顔。心からの慈愛に満ちた、仕事をやり遂げた男の顔である。
「―――――?シロウ、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ。美味しいかな、って。」
「それはもう。具の旨みが良く絡み合っていて、素晴らしい。今日は良い一日になりそうだ。」
「ん。良かった。そろそろお代わり要るかな?」
「ええ。では、早速所望したい。」
二人の呼吸は阿吽。まるで、食べ終わるタイミングを計っていたかのようだ。
…………しかし。如何にサーヴァントとマスターとはいえ、ここまで来ると…………。
「ん、バゼット、どうした?何かついてるかな。」
「いえ。何でもありません。それより、私ももう一杯所望したいのですが。」
「ああ勿論。まだ沢山あるから遠慮せず。」
「士郎ー。私もー。」
「はいはい。じゃ、お盆に載せて。」
てきぱきと、希望人数分の茶碗を盆に載せる士郎君。主夫、というのは正に彼のような人を言うのだろう。
多種多様な人物が彩る、楽しい食卓。
今まで体験したことの無い空間。居心地が悪かろう筈が無い。つい、長居してしまうのも、道理道理、と自らを納得させる始末。いや、居心地が良すぎる、というのも考え物なのかもしれない。
そんなこんなで、嵐のような朝食は過ぎ行く。食後はお茶を飲みつつ、束の間の休息。この二週間、士郎君が「余裕を持て」と教えてくれた賜物である。以前の私なら、こんな時間は考えられなかった。
残念ながら、リクルートには全く反映されていないが。
そうして、改めて、士郎君とセイバーについて思いを巡らしてみる。
(……………ふむ。)
実は、ここがこの二週間最大の懸案事項。そして最大の疑問。どうも、これを解決しないと心地が悪い。
やはり、どう見ても衛宮士郎とセイバーの関係は普通ではない。サーヴァントとマスターだというのに、………むう。
如何に信頼できるサーヴァントであれ、それは戦時に結ばれた関係である。サーヴァントとマスターならば、斬るか斬られるかの緊張感が……それがこのような平時であれ………少しは存在していて良いはずだ。
何より、「主従」関係なのだ。あの二人を見ていると、その辺りに疑問が多い。
(……………何か、特殊な契約でも?)
…………と。
「おーいバゼット。そろそろ行かなくていいのか?職安が……」
考え事でつい過ごしてしまうところだった。こういう箍は、しっかりとはめ込んでおかねばならない。
「ええ、そうですね。それでは、また後ほど。」
そう言って、席を立つ。
だが今日は土曜日。あまり職探しの当てもなし。ならば、少しこの疑問について聞いて回るのもいいかもしれない……。
さて。
そんなこんなで、一日、会う人ごとに、二人についての所感を聞いてみた。
だが、何と言えばいいのだろうか…………。まあ、とにかく、各人の言い分をまとめてみたい。
先ずは、彼女。士郎君の後輩、衛宮邸の中でも藤村大河に次ぐ古参。丁度、ばったりヴェルデで会ったが僥倖。喫茶店で、少し話を聞いてみることにした。
「ここのケーキ、前から食べてみたかったんですよ♪ありがとうございます、バゼットさん。」
「いいえ。礼には及びません。こちらから呼び止めてしまったのですからね。
それより、早速本題なのですが……。」
〈E氏の後輩、S・Mさんのお話 at某喫茶店〉
「先輩……と、セイバーさん、ですか?」
「ええ、そうです。あの二人について聞いてみたいと。」
「お二人……ええ、とても仲が良いですよね。」
「それは端から見ていても感じますね。サーヴァントとマスターとして、これほどの好相性である二人は無い。」
「それに、何処で見ても先輩の目が優しいんですよ。いつでも、お互いがお互いの事を考えている、というか。
うらやましいですよね。何処に居たって想ってもらえてるなんて。」
「なるほど。常に互いの無事を確認しあう。それは重要、だ………、……(ゾクッ)?」
「………とっても仲が良いですからね………。ふふふ、そう、以前は私ももうちょっと先輩と仲良しだったんだけどなあ。もちろん、今だって先輩は優しいし、仲だって良いつもりなんですけど………ね。」
「………あの、さ、サクラさん?(ビクッ)」
「だけど、ああまで仲が良いと…………うふふ。相対的に、っていう話ですよね。…………今までの私って何だったの?って時々思うんですよ?朝、先輩を起こしに行ったり、……くすくす。それも、今では時々障子をあけるのが怖いこともありますね。未だ台所で一緒にお料理するのは私の役目ですけど。………私、知ってるんです。晩御飯の支度の時、時々、ちゃんとカットしてある野菜が用意されてたり、捌いた魚が用意されてたり。気になって少し覗き見したら、先輩ったら、優しく包丁の手ほどきしてあげてるんです。うふふ、おやつ作りくらいならまだ解るんですけどね。いつか厨房に?そうなったら私の居場所は?どこになっちゃうんでしょうね……。」
「―――――……………(ガタガタガタ)!!!???」
「………ねえ、バゼットさん。それで私もっと赦せないんです。やり場が無いんです。あの二人天然なんです。動じないんです。意識しないで自然とそうなってるんです。………私のこの感情、どこにやったらいいんでしょうね?………ふふ、もう一つケーキ頂こうかな。とってもおなかがすいてるし。………バゼットさん?聞いてますか?自然だから、天然だから、責められないんです。だから、こういう感想が、内側に留まらざるをえないんです。とってもとってもお似合いだから、天然でああだから…………!!だけど憎めない。だから私…………!!!!!(ゴゴゴゴゴゴゴゴドドドドドドドド)」
「さ、サクラさん、私そういえば、次の面接があるのでした!またこの話は後日!」
「あ、バゼットさん!?まだお話が」
話もそこそこに、十分な勘定を置いて喫茶店を逃げ出す。
………正直に言おう。非常に怖かった。どんな相手にも、魔術師にも怖れを抱いたことなどないというのに……。あの黒い影のようなスタンド、敵に回せば、確実に私は死んでいた……!
とはいえ。一端整理してみると、なるほど、周りから見てもあの二人は好相性らしい。流石、アーサー王などという英霊を呼び出しただけのことはある。生来的に、性格が合うのだろう。
だが、それだけで説明がつくのだろうか?なるほど、確かに戦闘を旨とするサーヴァントが現代でも生きていけるよう色々と手ほどきをしているのは良いことだと思う。………もっとも、私の槍術師はあっさりと適応しきっていたのだが。もう一人のアレは……そもそも適応、ということに縁遠かったような……。
一つひっかかるのは、「天然」と言う単語。さて、これが何を意味するのか。この辺り、次に詰めなければならぬ課題だろう。
そして、次に会ったのは、冬木の管理人、遠坂の跡継ぎである彼女。学友と連れ歩いていたところ、高めのパスタ店で昼食をおごる、という条件で話を聞いてもらうことにした。屋敷内の人物だけでなく、学校で士郎君を見る学友に話を聞いてみるのも有益だろう。
指定されたパスタ店の中に入ってみると、落ち着いた音楽の流れる中々に洒落た店だった。もっとも、栄養価と値段がつりあってない気はするのだが。
「何でも頼んでいいのね?」
「ええどうぞ。持ち合わせに困るほど落ちぶれてはいませんから。」
「あはは、悪いですねえ。なんかこっちは関係無いのに……。」
「いえ、付き合っていただいているのはこちらです。遠慮なさらず。」
さて、本題に入るとしよう。まず、聞いてみたいのは――――――
〈E氏の師匠、R.Tさんと、学友A.Mさんのお話 at某パスタ店〉
「――――と、いうわけで。この際、あの二人がどういったマ……いえ、どういった関係にあるのか、一つ聞いてみたいと。」
「――――――」
「…………バゼット。貴女、正気?」
「?いたって正気です。何か?」
「………ええと。あの二人見てて、気付くこととかありませんか?その、バゼットさん、でしたよね。」
「そうですね。主従として、非常に強い信頼関係で結ばれていると。だが、それだけでは説明できない。それは確かだと思うのですが、どうでしょう。」
「………信頼関係、っていうより、ストレートに恋び……むぐ!」
「あら、そうかしら。貴女にとって、信頼関係っていうのはどういうもの?」
(………遠坂!なんで遮るんだ!)
(………綾子は黙ってなさい。ここは私に任せて。まだこの人、色恋経験値が0に等しい田舎もんなのよ。いきなり核心じゃ刺激が強すぎるわ。)
「………今二人の間でどのような会話があったのかは置いておきましょう。
信頼関係ですか。こと主従間においては、互いが互いの背中を任せられる。この点に尽きると思います。」
(遠坂、さっきから主従ってなんなんだ?)
(そういう土地の出なのよ。)
「ふーん。いかにも“狭い世界で生きてきた”っていう回答ね。」
「………おや。それは侮辱ですか?
ミス・遠坂。いささか、この腕も寂しいと訴えているころです。喧嘩なら買いますが。」
(ちょっと!この人もしかして、もの凄く出来る人なんじゃないのか!?寒気がしたんだけど!?)
(大丈夫。武力は100でも知力が10、そーいうタイプだから。)
「喧嘩、ね。でもミス・バゼット?その前に、先ずは人を見る目を涵養してみたらいかがかしら。」
「―――――――」
「これまで、まともな人と交わる、ということが少なかったんでしょう?人間関係を見るには、先ずは“フィルター”を排することね。
………それにしても、確かに、士郎はねえ………。」
「………なるほど。先入観を排せ、と。確かに、それは教訓になりますね………。しかし、士郎君がどうかしたのですか?」
「ううん、なんでもない。確かにお似合いなんだけど、ね。」
「ああまあ………。ちょっと独り身には、ね。」
「?」
「気にしないで。………ちょいとわが身の寂しさを嘆いてただけよ。
しかも天然だから、尚更にね………。」
「そう、天然なんだよな。そこが良いところなんだけど………。」
「???」
結局、料理が来たこともあってそれ以上は踏み込めず。二人は曖昧な笑顔のまま、パスタに舌鼓を打っていた。
だがここで、「天然」と言う言葉がキーワードだということがより明確になった。
「天然」。確か、人為が加わっていない、あるいは天性、といった意味だったと記憶しているが……。出典は……確か中国の歴史書だ。
「士郎君とセイバーが“天然”」。「“天然”のマスター&サーヴァント」……?
………これは困った。これでは意味がまるで通じない。いや、ここは日本。言葉の外にある微妙なニュアンスは、暮らし始めたばかりの異邦人には多少掴みづらいとも聞くし、何かそういう意味合いがこめられているのだろうか………?
「………なかなか。やはり一筋縄では行かない疑問のようですね………。」
ヴェルデ内の大型書店でひとりごつ。立っているのは辞書の棚。
広辞苑なるこの書物、この国の言葉辞典としては最も拠るべき一冊として定評があるらしい。だが、上の文脈に適う意味は、ここにも載っていない。
そうして、次の書物に手を伸ばしかけた、そのとき。
「あらごきげんよう。職無しのボクサーさん。グローブを嵌めた手に付くような職は見つかったのかしら?」
正直、コレに聞いていいのだろうか?という人物に会ってしまった。
「―――――カレン・オルテンシア。その言葉には果てしない侮辱を感じます。今すぐ訂正してもらいたい。それでは、私が―――――」
「そう?では言い直しましょう。
ごきげんよう、男装の御令嬢。そのスーツを女物に着替えられる場は見つかりましたか?」
「……………………………………………………」
「あら、かわいそうに。そうまで黙りこくる、ということは、そのリクルート装束が報われることは未だに無いのですね。
安心なさい。主はいつでも平等です。今職が無くとも、あなたにいつか相応の幸せをもたらしてくれましょう。……………埋葬機関の下働きでよろしければ、推薦して差し上げますが。」
「結構毛だらけネコ灰だらけ、とは日本の諺だったでしょうか。大変結構な話です。が、獅子身中の蟲を飼うことになってはそちらも大変でしょう?機関には秘宝マニアも居ると聞き及びます。喧嘩になって空位が出来ては業務に支障が出ますしね。」
多少、鞘当のつもりで言葉の応酬を交わしてみる。勿論のこと、カレンに口で勝つコトは難しいのであるが………。
「まあ、無職で居るのも気楽でいいかもしれませんね。
ところで、辞書の棚でさっきから何をしていたのですか?目立ってしょうがありませんよ。」
「貴女こそ何をしているのです。日中は外出が憚られる身なのではなかったのですか。」
「憚られる、というだけですよ。今日は注文していた外書が入る、とのことでしたので。」
そう言うと、彼女はキリスト教関係らしき書物を取り出してみせた。…………この敬虔さが、少しでも他人を労わる方向に向けばいいのに。
「なるほど。実は、私も調べ物をしているのです。
カレン。貴女、“天然”という言葉に特別な用法を知りませんか?」
「特別?………おかしなことを聞くのね、バゼット。さあ、私には良く解りません。何故その単語が?」
「実は、ですね………」
〈冬木市在住のシスター、Cさんのお話 at某書店内喫茶コーナー〉
「なるほど。貴女はサーヴァントとマスターの関係として、あの二人がどこかおかしいのではないか、と。」
「その通りです。貴女はそうは思わないのですか?」
「……………ぽるか・みぜーりあ」
「……………カレン。今何を呟きましたか?その言葉、随分と無礼な響きですね。」
「あら、何か聞こえたかしら。ごめんなさい。最近は耳の調子も良くなくて。
ええでも、そうね。確かにある意味で、あの二人は特殊でしょうね。見ていて、相手に幸せを与えてくれる、と言う点だけでは。」
「幸せ、ですか。」
「ヒトによっては、複雑な気分にもなるかもしれないわね。でも、誰もあの二人を責めはしない。あの二人に与えてもらっている和やかさは何にも変えがたいものだから、尚更に。」
「――――――」
「だけど、それを己が身に当てはめてみると……。
ふふふ。人間って、どうしてこうも哀しい生き物なのでしょうね、バゼット。誰しもが、自分にとっての“そういう存在”を求めているのに、そんなヒトは、一生かかってもめぐり合えるのか解らないのですもの。」
「“そういう存在”?」
「………貴女には縁の無い話をしてしまいました。これは失礼なことを……。貴女の生きていた世界では、そんな感覚も磨耗してしまいますものね。」
「…………(怒)」
「…………あら、怒ってしまったかしら。いずれにせよ、あの二人が特殊、と思うなら、貴女は何か重要な見落としをしているか、見方を間違えているわね。」
「?」
「気付くコトができるかしら……。ありふれたコト、ね。それでは、また。」
結局、つかみどころの無いまま、カレンは書店を後にした。
「………何と言うか、謎をさらに深められてしまった気が………」
禅問答でもあるまいし。あのシスターはいったい、何が言いたかったのか……?
一日、色々考えてみての帰路。
だが結局、私は彼らに、何で違和感を感じているか、解らずじまいだった。
―――――だが。
話を聞いた中で、確かなことが、一つ。
「只今、帰りました。」
「おー、お帰りバゼット。」
もう、五時を回れば大分日も怪しくなってきた。もっとも、これでも故国よりは随分マシな日の入り時刻であるのだが。
靴を脱ぎ、玄関に上がる。こうして、人が居る場所に戻ってこれるのも悪くない、と。私は、そんなコトを考えていた。
「――――シロウ、では、この国にも聖夜がある、と?」
居間から、話し声が漏れてくる。セイバーと士郎君、二人の会話。
「ああ。こっちでは本番は大晦日からお正月だけどな。クリスマスも、皆でパーティーしたりするんだ。」
「なるほど。それは楽しみですね。賑やかな宴になるといいですね。」
「そうだな。今年は去年よりずっと大人数になりそうだし。」
「ええ。…………それに」
われながら、良くない、とは思う。盗み聞きに盗み見。執行者稼業などやっていたばっかりに、これは玄人業に到っているはずだ。士郎君との会話に気をとられたセイバーの警戒網を掻い潜るくらいの自信は、ある。
―――――だが、それにしても。
「そんな日をシロウと、皆と過ごせるのならば、それはとても、嬉しいことだと思います。」
確かなことは、一つ、解った。
見ていて、とてもあたたかい。
そんな、信頼関係で、結ばれている二人。
(だから皆一様に、御似合い、と言っていたのですね。)
「……………くす。」
彼女と、彼のの笑顔を見ていると、何やかんやと思索していた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
それで、いいのだ。サーヴァントとマスター、それを超えた何かがある。それだけで、この二人なのだから、構うまい。
今なら少しは解る気がする。
何の巡り会わせか、ここに居るコトが出来るのだから――――
(あの二人のように生きられれば、幸せなのかもしれませんね。)
さあ、もう一度、この障子を開けさせてもらおう。
あの、心地良い空気に触れて。
もう少しこの家で、あたたかい時間を過ごさせてもらうのだ。
――――――後日のこと。
「な、サーヴァントではない!?そ、それは」
「だから言ったでしょう?フィルターを取って見てみなさい、って。
もう一度良くセイバーについて思い返してみるといいわ。貴女、あの子が今でも“英霊”だと思う?」
「………な、確かに、そうだ。そういえば、あのセイバーは、生身の………何故今まで気付きもしなかったのか……!?」
「そ。何の冗談か、あそこに居るのは英霊として受肉した存在じゃなくて、真面目に“アーサー王”がこの時代に来ちゃってるのよ。
貴女はそれを、ずーっと“セイバーのサーヴァント”としか見てなかったってわけ。色眼鏡、先入観は何時だって判断を鈍らせるのよ。」
「だとすると、あの二人は………」
「正真正銘の恋人同士。もっとも、貴女の想定と違って、“サーヴァントとマスター”でも全く同じ結末だったでしょうけどね。
だからため息もでるってもんなのよ。あんな恋人、居たらいいと思わない?アレが」
「なるほど………だから天然………確かに通じ合った恋人同士なら、あのような行為も自然というもの………ならば、コレが」
「「天然バカップル―――――――!!!!」」
というわけで、メイガス初参上でしたw カレンさんも含め、正直未だ口調も雰囲気も掴みきれて無いので、不自然なのは見逃していただきとう存じ奉ります m(_ _)m
今回のテーマは“第三者から見た士剣”だったり。さて、それが書けていればよいのですが……。
誰もがうらやむ天然バカップル。だけど、ふとわが身を振り返れば、少しわびしくなる、とw ですが、自分はもう士剣さえ見られれば問題ありません(爆)。
ちなみに、遠坂さんもカレンさんも、ちょいといじわるですw カレンさんのぽるかみぜーりあは、ここでは「哀れな女……」くらいな用法で一つw
それでは、ここまでの御拝読、誠にありがとうございました!!
面白ければ是非w⇒ web拍手
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