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「お待たせ……しました」
 
  
 ちらついていた雪も、今はもう止んでいる。雲間からの月明かりが、そう言った逢の顔を、静かに、美しく照らしている。 
 少し上気しているように見えるのは……きっと、気のせいではないだろう。何せ、自分でも少し恥ずかしくなるような、そんな逢瀬の後なのだ。普通で、居られるわけがない。多分……いや、きっと、自分の顔も、少し赤くなっているはずで。
  
 のぼせたのは、お湯にだけじゃない――と、いうことか。 
 僕も、……きっと、逢も。
  
「……うん。じゃあ、行こうか」 
「……はい」
  
 視線を合わせれば、自然と笑みがこぼれてしまう。……こんなに幸せな時間が、来るなんて、思ってもいなかった。少なくとも、一月前までは。
  
 逢と出会ってから、全てが変わったんだ。 
 そう思うと、もっと愛しくなってくる。
  
「――ぁ、」 
「……」
  
 左に居る逢の手を、そっと握ってみた。少し、気恥ずかしいけど――それもまた心地いい、と、そう感じられる瞬間。
 この暗闇。いくら月、星の明かりがあるとはいえ、はぐれてしまわないとも限らない。もう今では――いや、きっと、ずっと前から。彼女は、僕が守るべき人なのだ。だから、この手は、僕が握っていてあげなくてはならない。
  
 ただ。もちろん、それだけではなく――
  
「……」
  
 少しだけ微笑んで、逢も握り返してくれた。どこかに触れていたい、と、彼女も思ってくれているのだろうか? ……いや、きっとそうだ。気持ちが通じ合えた、と、思える今だから、そう言える。
  
「……いいお湯、でしたね」
  
 触れ合って、さっきのことを思い出したのか。逢が、そんなことを呟いた。
  
「うん。また、入りに来たいかな。その、……出来れば、逢と、一緒に……」 
「……!」
  
 
 ……口が、滑った。
 
  
……いや、それが素直な心情だ。こんなに、素晴らしい思い出が出来たのだから――何度でも、彼女とここに来て、思い出を作って行きたい。
 そう思うのは、僕の勝手――か?
  
「……そ、そうですね。先輩が、お望みなら……いつでも……」 
「……そっか。……また、来ような」 
「はい」
  
 はにかむように、逢はそう言ってくれた。その口ぶりが、可愛くて仕方がない。抱きしめたくなるような衝動に駆られてしまうけど……それは、また今度にして。
 
  
 来た道を、二人で引き返していく。
  
 温泉であたたまった身体は、少しずつ冬の夜風に冷まされる。
  
 それでも、温もりが、傍にある。
  
 それくらい、逢と僕は寄り添うように歩いている。
  
 もっと、彼女を感じたい。
  
 近くで、……少しでも、離れたくない、と、そう、思っているから。
  
 好きで好きで仕方ない人を、離したくないと思う気持ちは――きっと、誰でも同じもの。 
  
「……この後は、どうしましょうか?」 
「そうだな……」
  
 いつの間にか、握っていた手は離れて――その代わり、僕の左腕と、逢の右腕が絡んでいる。腕を組むようになれば、もっと距離は近くなる。
  
「今、何時頃?」 
「八時半……くらいです……、あ、……」
  
 その時――彼女から、少し間の抜けた音が聞こえた。 
 時間が分かって、きっと、彼女も「そのこと」に気が付いてしまったのだろう。きゅー、と鳴いたのは、山の動物でもなんでもなく。
  
「……す、すみません……」 
「はは、あやまらなくてもいいよ。逢も、晩御飯はまだなんだ」 
「……ええ。……食べてくれば、良かったですね」 
「んー、そうかな?」
  
 どちらかといえば、そうは思わない。温泉に入る前に一緒に食べるより、この後食べに行くほうが、きっと楽しくなる、と、そう思う。 
 恋人同士で食事に行く、というのは、それだけで心がときめくような――
  
 ――それに。
  
「……?」 
「逢の可愛いところも見られたし。後で良かったんじゃないか?」 
「……! ……先輩の、いじわる」
  
 ぐい、と、組んでいる左腕が引き寄せられる。ふくれているような口調でも、その口元には、微笑みが浮かんでいた。
  
「運動している人は、代謝がいいって言うしね」 
「まだ、引っ張るんですか? ……もう」 
「はは。じゃあ、街で何か食べに行こうよ。何がいいかな……」 
「そうですね。バスの中で考えましょうか」 
「そうだな」 
 
 クリスマスイブ。普通なら、少し洒落たところに行くのかもしれないが、生憎こちらはまだ生徒の身分。そんなに高尚なところは選択肢の外、だ。 
 とはいえ、ファーストフード、という感じでもない。んー、……やっぱり、無難にファミレス、というところだろうか? ただ、それも何となく――
  
 ――と。
  
「クスッ」 
「……?」
  
 逢が、思考を遮るように、楽しそうに微笑んだ。
  
「お腹、空いてきちゃいました。ダメですね、一度気付くと……。……先輩への想いと、同じです」 
「……そ、そっか」 
「……はい。……同じ、です」
  
 ……それは、僕のほうも、同じだった。
  
 逢が好きだ、と。そう気付いたら、もう止められなくて。 
 ……良く考えれば、中々すごいことをしてきた、と思う。服のままプールに飛び込んでみたり……温泉に、一緒に入ったり……。
  
「……はは」 
「……もう。結構、恥ずかしいんですよ……?」
  
 気恥ずかしさを誤魔化すように笑うと、逢が不平そうな表情を浮かべて来る。 
 逢は案外情熱的だ、なんて思ったことがあったけど、やっぱりそれは間違いではなかったらしい。温泉でのこともそうだし、今もそう。そんなことを、恥ずかしがっていても、しっかりと口にしてくれた。 
 それが、とても嬉しい。想いを伝えてくれることが、こんなにも素晴らしいことだ、なんて……。
  
「逢……」 
「……、……」
  
 もうすぐ、国道に出てしまう。その前に――もう一度。 
 やっぱり、また今度、と、抑えられるものではなかったらしい。
  
 たまらなく愛しくなったから。 
 抱きしめて、その唇に想いを伝えた。
  
「……」 
「……ん」
  
 数秒、目を閉じて、互いを感じあう。 
 ……それは、短いけれど、特別な時間。
  
「……クス」 
「……はは」
  
 唇を離せば、自然と笑いあえる。 
 そして、再び国道へと歩き出す。 
 左隣に逢を感じながら、ゆっくりと、バス停への山道を下って行く。
  
 ……まだ、二人のクリスマスイブは、始まったばかり。 
 もっと逢に笑っていて欲しい。そのためには、今日、何が出来るだろう?
 
  
 逢のこと、そして、この後のこと。もう、僕の頭の中は、そのことだけで占められるようになっていた。
 
 
  
 
  
  
 
 情動の赴くままに書いた。後悔はしていない――!
  
 ……というわけで、七咲bestイブデートアフターです。
  
 しかし、ちょいと勘が鈍ってるなあ、と思わないでもない今日この頃。もうちょい書く時間を多くしなければ。 
 ま、リハビリ作、ということでw Fateのほうもしっかりやって行きましょう。
  
 ちなみに、情動は尽きることがないので、また続くかもしれませんw
  
 それでは、お読みいただきましてありがとうございましたw
  
 宜しければ是非w⇒ web拍手 
 
  
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