「『好きです。世界中の誰よりもあなたが、好きです。』
 ………なーんて、甘いコトバで告白されたんスよきっと!!
 あ――――、い――――なあ―――!!ちっくしょ――――!!!!」
「………………………………………。」
「だーから言ったろィ、ハチィ。あーいう手合いってェのはなあー。一番信用ならねェんだよぅ。」
「………………………………………。」
「しかしゼニガタ親分、赦せますかィ?なーんでコイツのとこばっか綺麗どころがいくんでしょーねェ!!
 マドンナ遠坂嬢に二年アイドル間桐女史、美綴の姐御とも悪くはねえ仲ですし?その上、手前の宅にかえりゃ藤村の姐さんだってそうでしょう。弓道場に偶に表れるロリっ娘も関係者らしいですぜ………。
 その上に大本命がセイバーさんと来た!!あのセイバーさんと!!!あのびゅーてぃふるぷりてぃぱーふぇくと少女セイバーさんと!!!!親分、どうしてやりましょうコイツ!!!!!!」
「………………………………………。」
「どーやら、それだけ・・・・でもねーよーだぜェ?最近のオイラの情報によりゃ、男モンのスーツビッと着こなした令嬢や、カソック纏った銀髪美人も出入りしてるってェ話だ。
 流石の温厚なオイラも眉間に寛永通宝コイツをぶち込んでやりたくなるってもんよ。なァ?ミノワの。」
「あー赦せねー赦せねー。全く以って赦せねーやつだコイツは!今すぐにでもとっちめて、後悔するまで痛めつけてやりたいネェ。」
「………………………………………。」




 昨日と今日の二日間、一年の締めとなる、そして受験前に学校でやるテストとしては最後となる実力テストが実施された。つい先ほどそれが終わり、そして、HRが始まるまでの時間。俺はこうして、後藤とその取り巻き達により、虐めに近い会話の挟み込みに直面しているのである。

 コトの始まりは今年の夏。柳洞寺盆踊りで、セイバーといっしょに歩いていたことを彼奴に目撃されたことに遡る。だがその後に目立った詰問も無く、後藤も大人になってくれたのか、と思っていた。


 ところが。


 奴は、内偵を進めていた。アレだ。1614年冬〜1615年夏の大坂城。外堀も内堀も、気付かぬうちに埋まっていたのである。
 かくして先日、一緒に昼飯を食いつつ談笑しているところを抑えられたのであった。それが最終証拠として瞬く間に広まり、今に至る。


 ところで、やっぱり村上○明シリーズを見てきたんだろうか?後藤は。


「こりゃあ一辺、ササノ様にご注進申し上げるべきかもしれねーなァ………っと?」

 後藤が廊下を振り返る。耳を澄ましてみると、何かが「駆けてくる」音がする。


 ドドドドドドド……


「親分、こりゃあ………姐さんみたいですぜ。」
「そうみてえだなハチ。ったく、運がいいねェ衛宮の。この続きは又の機会にとっとくぜィ。」
「………………………………………」

 後藤とその取り巻きが、カツラを取って席に戻っていく。今日この時間の為だけに人数分のカツラ、十手と寛永通宝のレプリカを用意する辺り、奴は真面目に役者を目指すべきだと思うのは俺だけなのだろうか?


 さて。次なる嵐は廊下から。藤ねえは、何事かを雄叫びながら廊下をかけている。


「それでは藤村先生、タイトルコールをお願いします………!!!」


 ………………………。
 一般学級のHRに、タイトルも何も無いと思うのだが……。

 とまあ、こんなツッコミは藤ねえという嵐の前には無意味なのであった。例えるなら台風を目の前にした稲穂の如く。我々は可能な限り受け流し可能な体制で、その暴風をやり過ごさなくてはならないのである。


「藤村先生」は、風王結界を思わせる暴風を伴い教室に侵入し………!!!


 ガラガラガラガラ。ビュッ!


「熱血!フジムラHR!!スタート!!!」


 壇上、虎の決めポーズから、決まった……!!という雰囲気がもの凄く伝わってくる。
 そういう陶酔を壊すのは、決まって教会にいる神父なりシスターなりのお仕事なので、俺の役目ではない。よって俺はいつも、程々にスルーを身上にしているわけである。
 これもまたいつもの藤村劇場。いや、セイバーもさぞ退屈しなかったコトだろう。


「よーし、それじゃチャッチャと終わらせるわよー。私は君たちのマークシートから出た華々しい戦果をレポートに纏めて、明後日までに主任に報告しなきゃいけないのよコノヤロー!!
 これで君たちの成績が悪かったら減俸かもしれないから、そのときはみんなの“善意”が先生を救います♪皆さんヨロシクね♪」

 既に、藤ねえが半分くらい壊れている。穂群原名物の冬学内実テは、各教科担当の教師が一筆入魂で仕上げるセンター対策。毎年的中率も良く、評判も高い。
 だが、作る方は命がけなのだった。一週間ほど前、藤ねえが〆切りに追われて幽鬼のようになっていたのが思い出される。
 加えて、高3の担任というのは難儀なものだ。推薦決まってる人はともかくとして、この辺りで成績と希望校、チャレンジ校、滑り止めの最終検討に個別対応していかなくてはならないわけで。よって藤ねえの睡眠時間はこのところ、限りなくEの近くに針が振れているのであった。


「…………ふう。」


 少し、外を見る。

 冬特有の、晴れていて、それが凍えた空気を示す天候。この土地はそう寒くないとはいえ、それでも地球が傾いている以上、相応の冷え込みは存在する。特に今日は、今年一番とかなんとか。
 もう、そんな季節だ。今日このHR後に待っているのも、そんな時期を感じさせる行事の準備。

「と、いうわけ。ちゃんと間違ったところは復習すること。それがテストの効果を100%にする近道です。
 クリスマス近いからって受験生たる地位を忘れてホイホイ恋人とイチャイチャするような子は、天が赦しても虎が代わって人誅を下すから気をつけよーね♪
 それじゃ、終わりにしましょ。」


 ……………………最近、すごくこの教室が居づらいと思う。


 台風のようにはじまったHRも最後には、とにもかくにも先生モードで終了した。「間違ったところを勉強していけばいつかは100点に近づける」とは誰の言だったか。なるほど、言いえて妙。己の瑕疵を見つめてこそ、初めて成長もする、か。
(耳が痛いところだけど、な……。)
 むしろ、直視できないのが人間で、だからこそ間違いも犯そうというものだが。それに抗うのもまた人間、か。

 ……………………いかん。テスト直後はいつも頭が半分ユメの中になってしまう。

「よっと。」
 後藤平次親分の詮議は、今日はお開きになったらしい。また目をつけられる前に、早々に退散。


「じゃ、またなー。」
「うむ。では、月曜に。」

 一成に挨拶して部屋を出る。今日は生徒会の仕事もお休み。というか、政権移譲は進んでいるんだろうか。卒業後も「生徒会長」ではこの学校の民主主義に関ると思うんだが………。


 さて。待たせては悪い。早々に、約束に向かうとしよう。







 今よりもう少し寒い時期、彼と出会ったことを覚えている。
 いや、忘れることなどありえまい。この先一生、私はあの日を大切に、大切に胸のうちに留めて置くだろう。
 奇跡を謝するなら、神に。その祈りに相応しい日は、そう遠くない所まで迫っていた。


 一人、公園のベンチに腰かける。それなりに冷える日だというのに、子供達は何時の時代でも元気一杯だ。今も目の前、サッカーに興じる子が数人。
 自然、笑みがこぼれる。こんな日常が、たまらなく好きで。それは、昔も今も変わらない。
 彼との待ち合わせまで、あと四半刻。寒い中、聊か早く来すぎたが、こういう光景を見ていられるならば、悪くない。

 持ってきた買い物用の布袋から、読みかけの文庫本を取り出した。
 そして、好きな人を待つ。これもまた、嫌いではない時間だった。




「お待たせ。寒かっただろ?」
 そう言って差し出されたのは、ホットのミルクティー。全く以て、この人の心遣いにはいつも頭が下がる。
「いえ、この程度なら。ありがとうございます。」
 受け取ったペットボトルは、そのまま彼の温もりのようで。少し冷えた体には、嬉しい飲み物だった。
「………。今日の試験は、如何でしたか?」
「あー、そうだな。数学はちょっと不備が……。生物と化学は何とかしたんだけどな。」
「。あまり大河を困らせてはいけませんよ?最近疲れているようですし。」
「今日も壊れてたなあ。先生って大変だと思うよ。」

 他愛ない会話を交わしつつ、彼はこちらが飲み終えるのを待ってくれていた。
「くす。」
「?どうした?セイバー。」
「何も。さあ、行きましょうか、シロウ。」
 その律儀さに、少し微笑ましさがこみ上げてきたのは、内緒にしておこう。言ってしまえばきっと、拗ねてしまうだろうから……。





「というわけで、今日はクリスマスツリーの飾りを買いに来たんだ。」
「なるほど。待降節も始まっていますし、先日のアレに、ですね。」
 と、歩きながら会話を交わす。結局のところ、セイバーと二人でクリスマス用の装飾を集めたかっただけなのであるが。
「商店街もクリスマスの雰囲気を出そうとしていますね。中々、華やかなものです。」
「稼ぎ時だしなー。」
「稼ぎ時、ですか?聖誕祭は祈りを捧げる日なのでは……。」
「まあ、そうなんだけどな。日本のはどっちかっていうと、皆で楽しむイベント、って感じかな。だからパーティーだってするし、プレ……」
「プレ?」
「ああいや!なんでもない。兎に角、色々準備したりするから、店も頑張るってコト。」

 危ない危ない。危く、ぽろっとこぼしてしまうところだった……!




 カラン、カラーン


 ドアを開けると、来客を示すベルが鳴った。深山の商店街のはずれに出来た、聖書とかを扱っているお店。
 ――――と言ってしまうと、どうも奴や毒舌シスターを思い出してしまうが、良い絵本や綺麗な装飾品を揃えていて、ささやかながら人気の店らしい。
 クリスマス時期にはその手の装飾品の取り扱いも増えるはず。セイバーも俺もあまり派手派手しいのは好きではない。ここなら、落ち着いた感じのオーナメントもあるはずだ。

「いらっしゃいませ。」
 落ち着いた感じの女性店員さんが会釈してくれる。平日の午後とあってか、今はあまりお客さんが居ない。この分なら、ゆっくり選ぶコトができるだろう。

「ほう……。中に入るのは初めてです。」
「在るのは知ってたのか?」
「ええ。この商店街にはお世話になっていますからね。」
 興味深げに商品を見るセイバー。そういえば、彼女もキリスト教を信仰しているわけで。アーサー王伝説には、こと聖母マリアへの信仰が篤かった、とするものがあったはずだ。
「オーナメント、と。この辺だな。」
「おお、これは………可愛らしいものです。」
 少し小さめだが、木でできた飾りは、こちらの意に沿うものだった。なぜか、木でできた装飾は、こちらの気持ちを落ち着かせてくれる気がする。
「ヨーロッパから取り寄せたものなんですよ。」
 とは、店員さんの弁。なるほど、良く見れば見るほど、ちょっとした所にもこだわりが垣間見える気がする。
「むう、これは………」
「ん。何か気に入ったのあったか?」
「シロウ。サンタクロースは彼のミラ・ニコラウス氏がモデル、と聞き及びましたが。」
「ああ、そうらしいな。ドイツなんかではセント・ニコラウスデーってのがあるくらいらしいし……。」
「直接お目にかかったことはもちろんありませんが……。私の時代では、聖人と言えばむしろ、節制と厳しい遍歴の為に体は痩せ、それは辛苦を刻み込んだ表情をしたもの、と思っていました……。しかし町で見るものも、これも、………愛らしすぎる………。」
 なるほど。確かに、そっちの方が本物の聖人っぽい。余談だが、セント・ニコラウスは西方東方問わず教会で列聖されている、正真正銘の聖人である。この辺り、カレンに語らせればいい感じで説教してくれそうな気もするんだけど。
「こちらのトナカイも……。どちらも捨て難い……。難しい選択です。」
「ああいや、一つに決めろっていうわけじゃないからさ。ツリーの飾りなんだし、沢山選んでいいよ。」
「あ、そうでした。……失念していましたね。では、シロウが宜しければこの二つを是非。」
「了解。他にはどうかな?」
「私ばかり選んでいても仕方ありません。シロウも見立ててください。」
「え?いや、俺はセイバーが選んでくれればそれで……」
「それではいけません、と申し上げているのです。シロウと共に選んだのでなければ意味がありません。」
「う。………わかった。じゃあ………」
 セイバーの気合に負けた。まあ、折角来たんだから……。
「星型も要るよな。これは?」
「ええ、いいと思います。個人的には聖母の飾りも……。」
「じゃあ、そっちのなんか落ち着いてていいと思うけど。」
「なるほど。これなら先ほどのニコラウス氏にも合いますね。それではこちらに。」
「仲がいいのね、二人とも。」
「ああまあ、それは……………………………………?????!!!!!」

 バッと振り返る俺とセイバー。さもありなん。あんなに自然に会話に参加されて思わず受け答えしてしまったが、この声は紛れも無く………!!!
「カレン!?なんでココに」
「愚問です。むしろあなた方が居るほうが不思議だと思いますが。夫婦相伴でオーナメント選びですか?」
「ふ、夫婦などと、貴女は………。」
「あら、そのもの・・・・だと思ったのですが。まあ、これでも教会の人間ですからね。クリスマスには準備が要るんです。」
「………もしかして、ミサとかやるのか?」
「当たり前です。私は聖職者ですよ。一応、教会を任されていますから。」
「オルテンシア様。こちらになりますが……」
 と、店員さんがなにやら大きな包みを持ってきた。どうやら、カレンはこれを受領しに来たようだ。
「ありがとう。では二人とも、ごきげんよう。折角改修したのですから、一度は教会にもお越しください。」

 毒舌も控えめに、銀髪のシスターは店を去っていった。
「驚きましたね……。突然声をかけてくるのですから……。」
「確かに。どんな説教してるんだろうな?いつも……。」
 聞いてみたいような、聞いたら後悔するような。頼むからあいつみたいに、人の傷口を鑑賞して味見するようなコトはしないでほしいところだ。
「ところで、何買って行ったんだろうな。」
「さて………。随分大き目の荷物でした。何かの詰め合わせのようにも見えましたね。少なくとも、聖書などの類ではないようでしたが………。」
「オルテンシア様のお知り合いですか?」
 と、ここで再び店員さん。
「ああ、どうも。知り合い、と言えば知り合いですね。カレンは、良くここに来るんですか?」
「ええ、それはもう。御贔屓にして頂いております。よく、子供達に読み聞かせてあげる絵本とか、その時に配る輸入菓子を買っていかれたりするんですよ。」
「ほう、それは殊勝な心がけだ。流石は聖職にある者、そうでなくてはいけま………せん……………ね……………。………!?」
「へえ、そりゃあいい話………だ…………………………。………って」


 ―――――あ、セイバーとハモる。


「ええええええ!!??」






「ただいまー。」
「ただいま帰りました。」
 帰ってきたのは、もう時刻も三時を迎えようという頃。
 冬の太陽は気が早い。既に大分西へと傾いている。………もっとも故郷では、これよりずっと早かったのだが。

 食材は台所、冷蔵庫に入れるのを手伝った。今日の夕食はグラタンらしい。冷える一日には相応しい一品。今から焼き上がりが楽しみというものだ。
 飾りつけは明日、とシロウから先ほど聞いた。イリヤスフィールも来る予定になっていて、本格的なアドベントを感じさせる、賑やかな催しになるだろう。
 ツリーはすでに先日、アインツベルンの森から搬入済み。そんなに大きくないとはいえ、もみの木を抱えて門をくぐるメイドというのも、中々に壮観なものだった。
「お待たせ。まだ熱いと思うから、気をつけて。」
 そう言って、シロウがお茶を持ってきてくれる。彼が手ずから淹れてくれるものは、心なしか味わい深い。
「………。ふう、温まりますね。」
「ああ。そろそろお茶葉も買い足しとかないとな。」
 おやつは定番、大判焼き。お茶の苦味とあんこの甘さが奏でる絶妙な諧調は、飽きを感じさせない。


 他愛ない一瞬なのかもしれない。だが、これが幸せなのかもしれない、と、一番強く感じる時間。
 二人で、こうして語らうひと時。


 ふと、彼が壁にかかったアドベントカレンダーに目をやった。
「待降節かー。もう、12月なんだよなー。」
「ええ。早いものですね。しかし……」

 確かに、過ぎ行く時を惜しむ気持ちが無いでもない。
 だが、それより楽しみなコトがあるのもまた、事実。

「この地の年の瀬がどのようなものかも興味深い。それに、まだ後一月あるのですからね。」
「――――ん。そうだな。」

 こうしてゆっくり過ごせるのかもしれないし、また新しい発見があるのかもしれない。何があろうと、日々が輝いているのは、紛れも無く本当のこと。

 だから、毎日が惜しくて、毎日が楽しみなのだろう。

「シロウ、明日が楽しみですね。」
「ああ。リズもセラも来るし、遠坂も桜も都合つくらしい。折角本物の木でツリー作れるんだから、綺麗なのが出来るといいな。」


 また一日、アドベントの日めくりは続いていく。
 クリスマスまでは、あと三週間。きっとその日も、楽しい一日になるはずだ――――。






 というわけで、プレ・クリスマスネタでしたw セイバーさんと士郎君交互で書くのは結構難しいですねw ちょっとセイバーさん視点の練習の意味合いも篭めて。

 子供の頃、ウチは親がアドベントカレンダーを買ってきてくれたのですが、子供心に毎日それをめくるのが楽しみだったものです。
 今回はそんなお話。それで、いつしかクリスマスに想いを馳せる二人なのですよw

 冒頭の後藤君はお察しの通り、銭形平次です。最初のハチは名も無き生徒A君w 設定はギャルゲー好き(爆)
 自分はガキの頃時代劇愛好家でしてw 特に遠山の金さん、暴れん坊将軍、銭形平次を愛していました。最近の村上弘明さんがやっておられる平次も大好きですw
 ちなみに、密かに構想中の学園セイバーと被らないように書いているつもりだったりします。さて、どうなることやら……。

 あと、カレンさんが買って行ったのは子供達に配るクリスマスプレゼントです。

 さて、次はクリスマス。どんなんにしようか、細部を詰めないといけませんねー。
 それでは、御拝読有難うございました!!!


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