――すぅ、と、意識が覚醒していく。
体内時計というものは莫迦に出来ない。昨夜、諸々新年の準備を終え、眠りに落ちたのが3時前だった筈だから、睡眠時間はかなり短いのだが――起床時刻は、いつもの通りだった。
「ん……と……」
布団の中で伸びをひとつ。元旦、1月1日、一年始まりの朝。とはいえ、まだ外は暗い。日の出までには、しばらく時間がある。
「さて」
外は寒く、布団の中は温い。当然、その中を恋する気持ちもあるが、今日は休日だからとて安穏とは出来ないのだ。なにせ、正月である。この人集う衛宮邸にあっては、相応の準備を以て迎えねばならない日付――に、いつの間にやらなってしまっているのだから。もちろん、良い変化だ。少し前まで、新年の来客など数えるほどしかなかったのだから。
身体を動かし、布団に別れを告げる。今日は、横に眠る者もなし。大晦日の晩、柳洞寺で美綴以下知り合い女子連中と邂逅したセイバーは、そのまま「年越し女子会」と称した集いに召集されて行ったのである。恐らくは、飲めや歌えの、とてもとても楽しい――烈しい――会になったのであろう、と推測する。その辺りは、あとでチラッと聞いてみるとしよう。
「さむっ」
廊下に出ると、冷気が肌を刺した。真冬の朝、まだ日も昇っていない段階では当然のことだが、やはり布団から出たばかりの身には堪える。
そんな冷気から逃れるように廊下を進み、台所に到る。お湯が出るようにスイッチを押し、ヒーターの電源を入れ、一通りの準備を整える。あとは、着替えて、あたたまる頃にもう一度戻って来ればいい。新年初めの家事は、やはり寝巻ではなくきちっとした服装で、新たな気持ちでしたいものなのだ。
主夫の戦場は、広い。中でも、台所は極めて重要なフィールドと言える。この邸ほど美食家なる家人、訪問者が集まるところとなれば、そのホストたる自分に課せられる役割は大きくなる。端的に言えば、日々の笑顔に最も貢献できる分野なのだ、これは。丹精込めて作った料理を「美味しい」と笑ってくれる相方を見るのが、なにより嬉しいというのも、ある。
「とはいえ、だいたい下ごしらえは出来てるんだよなー」
が、本日は元日。腕によりをかけたおせち料理は既に整い、あとは来客への配膳を待つのみである。各種飲料の調達も終わっている。残るは、雑煮と、餅の準備くらいだ。
「とはいえ、出汁だけは、と」
鍋に水を張り、換気扇をつけ、火をかけ、出汁を取る。餅は流石に事前に焼くことは出来ないから、数があるかをチェックしておく。出汁が仕上がれば、あとはもう完成も同然だ。
そこまで終えて、ふと視線を移せば、真っ暗だった外界に、光が広がり始めていた。初日の出が、近い。出汁を取り終える頃が、ちょうど日の出時刻くらいだろう、と見当をつける。タイミングとしては、最高だ。
(ん……ま、仕方ないか)
そこに、セイバーが居てくれれば。
ふとそう思ったが、今日ばかりは仕方ない。彼女には、彼女の楽しみがある。同年代――といっても、セイバーはちょっとお姉さんにあたるが――の友人が、年越しを共に過ごせるほどの友情が、この冬木で出来ている、そのことを寿ぐべき。それは、間違いなくて――
と、
(……おや)
そんなことを考えたところで、風向きが変わったようだ。門をくぐる、この気配――一人じゃない。ただ、その内の一人が、セイバーであることは疑いない。
とすると、考えられることとしては。
直後、呼び鈴が鳴り、台所横に備え付けてあるインターホンのボタンが点滅した。
「シロウ、唯今戻りました。綾子たちも一緒なのですが、上がってもらっても構いませんでしょうか」
「おう、おかえりー。もう色々準備できてるし、上がってもらっていいぞ」
受話器の向こうに、彼女の声がする。
初日の出は、衛宮邸にて。女子会で、そういう結論が出たのだろう。
ならば、出迎えを。賑やかのは、嫌いじゃない。というか、大好き、と言っていい。
「じゃ、行きますか」
エプロンをつけたまま、台所を出、新年初の来客を迎えに玄関へと向かう。
今年もまた、セイバーが、皆が笑って過ごせる家にしよう、そんなことを思いながら。
久々のSSを小品にて。皆さまあけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
衛宮君の「元旦(1月1日朝)」を描いてみました。セイバーさんは出て来ないんですが、心情を通じて
「士剣」色が出てくれれば、と思いつつ。こういう形もまたありかな、とw
今年は去年よりは頻度を上げていきたい所存。このSSも、正月のおともになりますれば幸いです。
それでは、お読み頂きましてありがとうございました!<(_ _)>
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