「この身は、王の娘。ですが、せめて―――――。」



 彼女の名を、ギネヴィアと言う。カーマライド国、ローディガン王の息女。
 その美貌は広く世に謳われ、気品ある立ち振る舞いは、国民皆の誇りだった。


 無論のこと。時代が、そのような女性を放っておくはずが無い。


 噂を聞きつけた多くの王、高名な騎士が、彼女に求婚し、城を訪れた。
 それもそのはず。彼女を妻に迎え入れさえすれば、一国の後ろ盾、あるいは盟友が手に入る。それが美姫であれば、尚更好都合。


 彼女は、そんな男を大勢見てきた。恐らくは、もう嫌悪の情を抱くほどに。


 どの男の貌を見ても、一点に於いて変わるところは無かった。
 平静、どのような高尚な騎士、有徳の王であるかは知ったことではない。姫と父が席に着き、縁談を持ち出すときの表情は皆――――――


 卑しい欲に、満ち溢れていた。


 それが、彼女には解ってしまう。
 幼少より「宮廷」という、あらゆる欲望渦巻く場に於いて、しかも、「王の娘」として育ってきた。
 身の回りの世話を焼く侍女からすら、そんな表情は読み取られる。まして、訪れて祝辞を述べ、捧げものをもたらし、社交の場で会話を交わす全ての女性が持つ、少なからぬ嫉妬の情。そんな感情が、多感な彼女に伝わらないはずが無かった。


 将来を約束された幼女むすめ
 自分よりも美しい容貌すがた


 彼女は、聡明だった。
 物心ついたときには、そんな負のイメージを、人の心の色合を。
 その目で、見取るコトが出来るようになっていたのである。



 いつしか彼女は、己が境遇に諦観すら抱いていた。
 結局は、「王の娘」。自分もまた、他の王族に変わる事など無い、「公」の存在。
 ギネヴィアはギネヴィアとして見られることは無く。
 うつくしい、カーマライド国王の、息女。その肩書きで、人に評されるのみ。


 結局は、歯車にならざるをえない運命、と。
 そう、諦めていた。



「………ですが、せめて。」

 それは、いつのことだったか。
 毎晩主に捧げる、数限りない祈りの中途、彼女は少し、余計な・・・願いを呟いた。


「もし、運命というものがあるのなら。」

 一人の少女として、それを祈る事を、誰が責めることが出来るだろうか。
 夢を、見せて欲しい。そう、訴えるような、ささやかな願い。


「………………よき良人に、めぐり合えますように。」



 続く