「私の加護は常に貴方と共に。この指輪をお持ちなさい。魔を破り、詐を見抜く力をえられるでしょう。
 我が息子、湖水の騎士。さあ、お発ちなさい。約束された王の下、存分に働くのです。」


 騎士の名を、ランスロットという。
 イングランド王の盟友、バン王が子息。彼の故国・ベンウィックは滅びた。しかしその数奇な運命さだめは、その滅亡からはじまったと言っていい。

 ある、美しい湖のほとり。うち捨てられた子は、何の偶然きまぐれか――――憐憫の情を催した一人の女性に、拾われることになる。

 その子の上に、何を見たのだろうか。美姫は少し悲しそうに、ランスロットを抱きしめた。

「貴方は私が育てましょう。湖の精霊に相応しい騎士――――そう――――哀しい星回りに、負けぬ偉丈夫に。」

 彼女の名は、ヴィヴィアン。アーサー王の後見、マーリンを虜にする妖精である。

 彼は義母の下、最大限の愛情を以って育てられた。招かれた騎士からは武術、馬術を余すところなく伝えられ、宮廷に揃う貴婦人からは、気位高き騎士がどのように振舞うか、それを教えられた。

 根が水を吸うように。その全てを、彼は血肉として集成した。


 成長した彼は、あらゆる賛辞を以って語られる男になる。
 容姿は端麗。
 勇武は絶倫。
 騎士として備えるべき全ての資質を備えた彼の名は、既に噂となって一人歩きを始めていた。


 そして、彼はこの日、赴くことになる。

 運命の、王の下へ。


「応えましょう。我が名は湖のランスロット。
 我が忠勇、余すことなく捧げ、―――獅子第一の剣に、なってみせます。」



 続く