「シロウ──!」
「セイバー……!」


 ──ダメだ。間に合わない。
 相対する敵の悪辣さを読み切れなかった自分のミス。

 マスターであるシロウの性格を、私の動きを、全て計算の上で、
 相手は罠を仕込んでいた。

(しまった……!)

 爆発に伴う轟音が、夜の公園に響き渡る。戦場を敢えて開け放たれた空間に
 したうえで、サーヴァント同士の対戦を装って一定の地点にマスター
 共々誘い込み、そして、もろともに爆破させる。最もシンプルな地雷。
 無論のこと、サーヴァントをその程度で撃破出来るわけがない。
 直接、ダメージを受けるのは──つまり……。

「……ッ!!!」

 悔やんでも、悔やみきれない。
 濛々と立ち上る土煙の中、赦されるのはただ、「何とか生きていて」と
 願うコトのみ、で──。


「ま、私もどうかと思うんだけど。──どうかご容赦を、さつき」
「う、ううん。そういうところ……多分、大事、だと思うし。何より……
 ランサーらしい、って、思うから」


「……?」

 ……違う。
 シロウは──生きている。
 生きている、どころか、無傷……か。
 マスターとサーヴァント、その間に在るパスが、その事実を告げる。


「けほ、ッ、げほ……、あ、あれ……俺……」
「間に合ったようですね、セイバーのマスター。ま、これは、そう。
 ひとつ貸しってことで、ネ」

 土煙が、晴れていく。
 その跡には、三人の影。

「だってこういうの、私──すっごく嫌いなのよ。
 陰謀とか、罠とか、ヒトの弱みに付け込んで叛乱起こさせたりとか。
 ……と、いうわけで」

 一人は、我がマスター、衛宮士郎。片膝をついてはいるが、無事であることは
 間違いない。
 もう一人は、髪を可愛らしくツーサイドアップに纏めた少女。確か、凛の情報によれば、
 彼女もまたマスターである。

 そして、更にもう一人。いや、一騎、と評した方が良いだろうか。
 凛とした、銀の長髪。黄金の瞳が、月下に映える。

「サーヴァント、ランサー、敢えて『塩を贈る』。
 長尾景虎、助太刀致します」

 手に持つ槍が、煌きを放つ。
 今が、夜であることを忘れるかのような美しさ。
 だが、鞭声粛々と謳われた彼女は、陽の下でも月の元でも、きっと、
 同じように在るのだろう。

 掲げるは第一義、越後の軍神、長尾弾正少弼景虎。
 至上名高き将たる彼女こそが、剣の主従の危機を救ったサーヴァントであった。  





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