「ふぅ……」


 さっぱりした。それはもう、心も身体も、完璧に。セイバーは心ゆくまで湯を堪能し、ロビーで湯上りの心地良い感覚を楽しんでいる。

「湯上りのコーヒー牛乳を考えた人は、天才だ……」

 こく、こく、と、コーヒー牛乳を飲みほしたセイバーは、その発想に思い到った。無論、フルーツ牛乳もラムネも同じである。どこで、誰が始めた風習かは分からないが、始めた人間に感謝しないといけないだろう。こんなにさりげないことで、ここまで幸せを得られるのだから。

 ふと顔を上げれば、風呂で一緒だった面々が、ロビーで思い思いにくつろいでいた(綾香は、まだまだ入り続けると宣言していた)。キョウコは、少年と一緒だ。ちょうどコーヒー牛乳を買ってもらっているところらしい。湯船で近くに居た少女は、どうやらアイ、という名前のようだ。彼女も、少年と一緒に何やら楽しそうに会話をしている。彼女はコーヒー牛乳では無く、スポーツドリンクを飲んでいる。見るからにアスリート、という体つきだったから、多分水分補給を優先しているのだろう。

 キョウコに、アイ……か。なんとなく、だけど、どこかでまた、あるいはここで、会う気がしないでも、無い。ほんの些細な縁だけど、何かこう――直感が、働いている。

「ふふ……何故でしょうね」
「何が?」
「おや、シロウ。上がられましたか」

 微笑してセイバーがそう呟いたところに、士郎が声をかけた。手にはコーヒー牛乳。彼もまた、湯上りの楽しみに飲料を欠かさない。

「いえ、今日は不思議な縁を感じる日だな、と」
「縁、か。そういえば、俺もすごく変な体験をしたよ……」
「と、言いますと?」
「いや、それがさ……外人さんが……」

 セイバーは士郎の話を聞き、士郎がセイバーから知己のことを聞き、話に花が咲く。
 湯上り、彼と話す。たったそれだけのことが、どうしてこんなに幸せなのだろう。

 これもまた、銭湯の魔力。うん。本当に、銭湯はいいものだ。
 セイバーは、その想いを新たにする。そして、近いうちに、また来よう、と思う。今度は、キョウコのことをもっと知りたいし、アイとも知り合いになりたいし。


 銭湯は、人と人とをつなぐ場でもある。古き良き場の魅力に想いを馳せつつ――セイバーは、今日も、この街で幸せな時間を過ごしている。


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